結界議員「コバヤシ!」
@tekitolife_co
第1話 裏の私、初登場。
「小林さん。小林さん!」
「あ、はい。」
「人の話聞いてた?だから、明後日までにこの書類まとめて人事部にお願いね。」
「え、あ、はい・・・」
「ちょっとしっかりしてよね。もう4か月も経っているんだから、そろそろ慣れてもいい頃でしょ。」
「はい・・・すみません。」
私はこの会社の営業事務部に就職してから4カ月も経つのに仕事もなかなか慣れず、同僚たちにはどんどん先を越されていた。なぜこの会社が私を採用したのか未だに謎が残ったまま、私は毎日をただもやもやと過ごすばかりだった。
この会社に入ったのは、ネットの募集概要を見て、土日休みの定時あがり、それとなんとなくの勘だけが頼りで入社してしまった。周りを見渡せば私のデスクから見える景色は随分かけ離れていることに気づいたのは入社後すぐだった。まるで私のデスクの場所だけが異空間のようで、周りからは見えないように魔法がかけられているようだった。そう、私はもう透明人間状態だった。
「あの、瀬楽さん。これってどうすればいいでしょうか。」
「え?それこの間教えたよね?」
「あ、いえ、あの・・・」
「あのね、小林さん。今の時代厳しく怒ったりはできないけれど、本当に向いてるかな。この仕事。昼休み長めにとってきていいから、少し冷静に考えてみたらどうかな?」
「・・・。いえ、私は・・・。」
「まぁ、考えるだけだから。ゆっくりしてきて。ほら、早めに休憩入っていいから!私もうでなくちゃいけないからよろしくね。」
「・・・あ!あの!」
先輩はそういって立ち去ってしまった。長めの昼休みをもらったからと言ってどうすればいいのだろう。そんな急に言われても考えられないし、私が必要ないってこと?自分からやめさせようって考えなのか。確かに今の時代、下手なことを言ったら周りの目もあるし、そうしたいんだろうな。もう、やめちゃおうかな。どうせ、目標もないし実家に帰ってアルバイトでもすれば・・・。私は安易な考えを募らせたまま、会社の屋上で昼休みをただぼうっと過ごしてしまった。
「お疲れ様、小林さん。考えてみた?」
「え、あ、そんな急には・・・ちょっと・・・」
「そう・・・。じゃあ、辞める時は言ってね。」
「え?」
「だから、辞めるならこっちも手続きがあるから早めにお願いね。」
(やっぱり辞めろってことなの?それにしてもなんでそんな言い方なの!ひどい!ちょっと覚えが遅いだけじゃない。それになんなのこのババァ!厚化粧の上にこの派手でダサッイバッグ!一体どこのブランドよ!誰が買うのよ!私だったら・・・)
「・・・さん!・・やしさん!小林さん!!」
「ハッ!」
「聞いてた!?」
「あ、あの、すみません!」
「ぼうっとしてる暇があるならさっさと頼んだ書類まとめてよね。あとコーヒーよろしく。砂糖3杯ね。ミルクもね。」
「わかりました・・・。すみません・・・。」
(チッ。何よこのババァ。嫌味ばっかり。しかもコーヒー?自分で入れろっつうの。砂糖入れ過ぎだし。糖尿病にでもなっちまえ!・・・ハッ!いけないいけない。ついブラックな小林が出てしまったわ。子供の頃から何度抑え込んでも抑え込んでも出てくる悪魔な私!さっさと仕事終らせないとまた怒られる・・・)
そう、私は2重人格、のように見えるがそうではなくて、本当はブラックなのにそれを表に出せずに何度も封印しているうちに本当の自分がだせなくなってしまった。私は何がしたいのかも何が好きなのかも知らず知らず生きてくうちにわからなくなってしまい、自分の感情にさえも鈍感になっていた。
そんな時、私が辞めるであろうと期待していた先輩(通称、あの瀬楽のババァ)が中途で採用した新入社員が私の隣の席に腰を掛けようとしていた。
「あのすみません、私今日からご一緒に働くことになりました、優木と申します。色々とお聞きしてしまいますがよろしくお願いいたします。」
その子はまるで大和撫子のような、でもどこか不思議なオーラを纏うとても美しい人だった。
続く
結界議員「コバヤシ!」 @tekitolife_co
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