第15話 似て非なる者 異なるモノ

「あら、切れちゃった。」

「脆かったわねぇ随分と、でも美しかったわよ。」

「あら、ありがと」

「〝ムチが〟だけどね。」

戦闘用に特殊改良した合金ムチだったが、たかがトンファーにほどかれてしまった。彼女だけは唯一ウィパの力を借りず、己で改良を施した。彼女が男に頼る訳も無いのだが。


「どうしようかしらねぇ..お気に入りが壊れちゃったら戦えないわね。」

「降参してよくってよ?」

「誰がするもんですか!

..って言いたいところだけどねぇ。」

街をある程度守る為、戦闘術を身につけてはいるが元々戦闘向きでは無い故武器を多用に所持はしていない。それを補う鞭だったのたがそれと今は無い戦える要素がそもそも極端に少ないのだ。

「はーぁ..悩むのは性に合わないわね

あたしには、やっぱりコレよね。」

「酒?

緊張感ないわね、面白いけど。」

缶でもショットでも無くマイグラス、ビンのドンペリを注ぎ傾ける。

「貴方も飲む?」

「戦闘中は飲まない主義なの」

「そ、珍しいわね。」

常識は人によって違う、規制があろうと無かろうと。

「だったらツマミはいかが?

結構上モノのお手製なんだけど。」

「酒も無いのにつまむと思う?」

「投げるから、上手く取るのよ。」

「だから..いらねぇって言ってんだ」

僅かに男を滲ませつつ手製のショコラボールを床へ落とす。球は崩れ床に馴染み、跡形も消える。

「あら勿体ない、折角作ったのに」

「女から貰っても仕方ないでしょ?

お前は恋愛対象外なんだよ!」


「..残念ね。

それはそうと、足元気をつけた方がいいわよ」

「なんですって?」

臨戦体勢を施し、一歩前に踏み込んだ矢先、脚が滑り尻餅をついた。

「っばぁっ!」「かかったわね〜♪」

「これは..ローション⁉︎

何のつもりだテメェッ!!」

ショコラボールに忍ばせたローションが床に馴染み、脚を掬う。

「ヒーローさんが教えてくれたのよ、これであたしの街は救われたのよ?」

「不細工な女ね!

覚悟しなさい、躾けてやるわ!」

「あらぁ、嫉妬かしら?

怖いわねぇ、ドンペリ飲むぅ?」

女の喧嘩は醜いらしい。オマケに長くくだらないと、男と性別を分ける必要性がそこまであるのだろうか。

だからといって、男同士の殴り合いも見るに耐えない。正月のみで事足りる


「どうした〜?

力不足か?スタミナ不足か?

どっちどっちどっち〜!?」

「..黙れ、耳障りだ。」

煽る門番に手を焼いて、未だ中に入らず終いの銀弓ナイトレイ。闘いの疲弊もあるがやはりネックは劣化した実力

「いくら補おうとダメなのだね!

やはり全力でないとねー?」

「..良かったな、全力でなくて。」

「はぁ?」

「全力であれば負けていた。力不足だから、勝てている。そう聞こえるぞ」

「...ナメてるのかな?」

「節穴か?

私はずっと、唯矢を射ち続けている」

簡素な戦は誰であれ作業に変わる。その単純で緩慢な作業の内容を覚えている者は誰一人として存在しない。その中から稀に、作業で死ぬ者が現れる。行われていた作業の量と効率が、目をそらす内に劇的に向上していたのだ。

「見えてるよ、しかも全部避けられてるんだろ?」

「いや、お前は見えていない。」

「だから見えてるって」「ぐぁっ!」

軽々しく矢群を避け、弓を引くストロークで打撃を与える。手元に握った警棒で。

「貴方こそ節穴でしょう、いや風穴?

学順能力も無く芸も無い。あるのは古く汗臭い根性だけ、そうでしょ?」

正義を掲げるものは泥臭く、無様に見える事が多々ある。それはバトルスタイルに関わらず、概念による偏見が強い。斜に構えたヒーローもいる。斜めから見る事で、人を救っている事もある。


「何ができるのかなぁ?

遠くから矢を飛ばすしか能の無い貴方が、今眼前にいる僕に一体何が..!」

「ふんっ‼︎」「痛ったぁ..!」

「殴った、しかも痛い!

どういう事だ!何故殴る!?」

「当然だ、私が奪われたのは矢を射る威力。腕力は微塵も衰えてはいない」

「人をっ..騙したのかぁ!?」

「何を言ってる?

勘違いをしただけだっ!」

一、二、三発と腹に入れお調子者を屈服させる。しかしこれはサブウェポン

「..使いにくい、やはりこれだな」

「ああぁぁっ!!

何してる、やめろぉ...‼︎」

「安心しろ。

何のことは無い、無能の一芸だ..。」

ゆるりと強く、弓を引く。

「風穴で悪いな、恥ずかしい限りだ」

「くそったれぇぇっー!!」

指導者無くとも、強くはなれる。


アルカディア施設内廊下

階がある訳では無い為部屋数が多く、扉を隔てた違いのみで壁と部屋の違いは金属の板のみ、後はずっと廊下が続いている。

「ガキ!

マップを表示できねぇのか?」

『やってみたけどダメだった、妨害電波かも。施設内に直接は出来ないから外の時みたいに錠前を探してアクセスしてる。』

「見つかるもんなのか?」

『おじさんが一つ持ってるからね、なんとかなるとは思うけど』

電波はキャッチ出来るがそれ以上のアクセスが不可能、施設内にフィルターがかかったように。それも内部の別のサーバーからの妨害が張られている。コンプライアンスの仕業では無い。

「ん..あれ?

なんか邪魔なもん入って来てるな。別の侵入者がいるのか、知らないけど」


「あぁ、何だよ侵入者ぁ?

なんでわざわざ報告すんだよ!」

『好きそうだと思ったからさぁ、暇だろどうせ。じゃあね』

「切りやがった..何なんだアイツ」


『わかってると思うけど、敵の幹部は白い服を着てるから気をつけてね』

「ホントにわかってる事言ったなお前

..ん、何だアイツ?」

『どうしたの?

敵の幹部がいたのかな』

「いや、幹部じゃねぇ。

服が真っ黒だ、誰だろうな」

『黒..マズイなぁ。

多分その人も敵だよ、逃げて!』

「無理だ、もう目の前にいる。」


「あぁ?誰だテメェ!?」

「こっちのセリフだ、そこどけよ。」

「ふざけんじゃねぇぞコラァ!!」

擦れ違わずに撃ち合う拳。

水と油は噛み合わないが、油と油はより強い火を上げる。穏やかな人に癒されたい。

「いきなり何しやがる!」

「テメェが攻めてきたんだろうが!」

「何だとコノヤロー‼︎」

「上等だコラァ!!」

デジャヴ、綺麗なデジャヴ。二度ある事は三度というが、流石にそれは..。

「テメェが侵入者か?」

「お前こそ余所もんだろ!」

「喧嘩売ってんのかテメェ!?」

「ホントの事だろうがバカヤロー‼︎」

あった、きちんとありました。先駆者は嘘を言わないようだ。少なくとも現代ほど。


「おっほほほほほほ!

ワタクシが参りましたのよ!

最早此処は壊滅確定、廃墟同然、幹部も部下もみんな亡骸となりますわ!」

『..うるさいよ。

一人で来たの?じいちゃんは?』

「先に行って役立たず供を薙ぎ倒してますわ!」

『だからか。

行って手伝って上げればぁ?』

「言われなくてもそのつもりですの。

けれど今は難しいわね」

『なんで?』「....。」

『もしかして、迷った?』「....。」

図の一番星、今誰よりも輝いている。

『平屋だから、真っ直ぐ進めば。

壁なら行き止まりだし』

「行きますわよ、おほほほほほ!」

決して失敗とは思わない。

口にも出さない、失敗ではない。


各所忙しく腕がなる。

既に鳴っている箇所もある。

かくしてこの箇所は、戦と言えるかは人に寄る。

「....!」「はぁっ!」

「そんなものかキラーズ・グアトロ!

そんなものでは一向に勝てんぞ!」

「..フンッ...!」「がっ..!」

腹を抉られ血を流す、これで50を超え51度目の絶命を果たした。

「....シネ..!」

武器を持ち替え落ちた身体にチェーンソーの刃で猛撃。追撃が決まり手のり派手で強烈だが仕方ない。偶々順番を間違えただけだ。

「.....。」

挙句の最終的に、上半身は完全に飛び散り下半身が床に転がる形となった。

息の根どころか頭の消えた様子を眺め殺人鬼キラーズはチェーンソーを投げ背を向ける。仕事の終わりを告げる合図だ。

「.....」

しかし大事な事を忘れていた。

いつもの習慣(クセ)がここでも生じた。〝相手の生死〟を確認する事を、忘れていたのだ。


「何処に行く、殺人鬼いっ..!!」

「....シナナイ..!」

背中に刺さるはククリナイフ、二対の牙が背肉を噛み付く。

「危ない危ない、チェーンソーの振動によって少しずれてくれたようだ。」

ククリを引き抜き安堵する。

「オレはコンプライアンスの三大幹部でな、英雄担当でもある。」

暴力的観点や過激な戦闘演出などの規制を任されている。グレイトマンやナイトレイの力を奪ったのも彼だ。

「身体の中にチップがある、本来はセキリュティや倉庫に厳重な保管をするがオレは不死身でな!

身体に直に埋め込んだ!」

位置でいえば腹部の下辺りになるが上半身を飛ばされても残っていた。


「壊し損ねたなキラーズグアトロ!」

ここにきた目的は組織の壊滅、そして規制の破壊。目的達成どころか窮地に立たされつつある。


「..もう充分休んだな、私も中へ入るとしよう。」

「..こに行く?」「何?」

「どこに行くんだよーねー?」

たてがみを蓄え、毛に覆われた指導長

が腰を上げ吠え猛る。

「まだ動くのかっ..!」


「どうしたヒーロー、威勢だけか?」

「くっ、強えぇ..。」

『逃げてお兄ちゃん、危険過ぎる!』


「どこまでいくの子猫ちゃん?

怖がらなくていいのに〜!」

「どうしろって言うワケよ...?」

組織ははみ出し者を許さない、間違えた固定感覚で人を殺めて正当化する。


その点徒党を組むだけのゴロツキは、制約に縛られず、時間もルーズ、常識から逸脱した者ばかりで楽だ。

「あらぁ..誰、アナタ達?」

「誰って、コッチが聞きたいくらいよ情報が昔から好きなのよね。」

「聞くほど情報残ってねぇよあの人」

「へっ⁉︎」


「あ、でかい標的みっけたー。」

「出るとこだったのにね、ここ」

「近付くな、奴は危険だ...。」

「おっさん冗談だろ?」「マジかよ」

殺し屋からしてみれば格好の的であるそれを諦めろとはあり得ない助言だ。

「逃すと獲物がでかくなる」

「ライオン狩り、愉しそ。」

「グルアァァァッ!!」

猛る獅子をバナナで釣る事は出来るのか、肉じゃないだけ食い付きは悪い。


「なかなかいいエモノを持っているなキラーズ・グアトロ!

やはり強者は敵を飽きさせない!」

ククリナイフを天に掲げよく観察し離さない。己の武器と認めたようだ。だが実質それで背中を突かれ血を流している訳なので相手に助力を与えてしまったに他ならない。

「取り替えしてやろう。

通算52回目の死を迎えたこの身体で漸く、お前を殺してやるぞ!!」

肉体派が武器を携えた。

意外にも殺人鬼というのは一方的に殺しにかかる為ステータスを攻撃に全振りしており、防御はとても柔らかい。一度攻め入られれば、まぁまぁのダメージを平然と受ける事がしばしばあるのだ。

「.....!」

攻撃は最大の防御を体現するような存在で、だからこそ威圧で手を出して来ない。無抵抗を襲うのが殺人鬼だ。

「どうしたキラーズ・グアトロ!

武器を待たれるのは嫌いなのか!?」


「嫌われてるのはあんさんよ?」

「何..誰だお前は。」

「通りすがりの賞金稼ぎっス、あ殺し屋じゃないっスよ!」

不意に背中を出刃で刺す男、包丁を抜いた傷口に、長い筒を詰め火を付ける

「爆竹か、何のつもりだ!!」

「違いまスよ?

爆竹じゃなくてダイナマイト、あ殺人鬼さん危ないから離れて!」

「.....。」

「戦闘中に茶々を入れるとは、誰だか知らんがどういうつもりだ貴様ぁ‼︎」

「カウントとりますよー?」

飄々と指折り数え死を唱える。

「はい、いーち..にーい..」

「ちょまっ貴様..!」「いち!」「あ」

バウンティハンター武器を持たない。

他の流儀は知らないが、彼は現地で選んだものを武器として使用する。理由は単純、面白そうだから。サバイバル形式のキャンプの様に火も水も寝床も飯も全て自給自足、しかしそれを己相手にやっても腹を空かすだけなので人を相手に始めた。

「派ー手に飛び散ったっスねー!

あれでまだ生きてるんスかね?」

不死身のゾンビゲームは今のところ53勝0敗、だが勝った心地は一切しない。勝利の達成も栄光も皆無の虚無のショーレースが延々と続いている。

「ね殺人鬼さん、あんさんもずっとコイツと遊んでたんこうやって?」

「.....。」「何か答えてくれってー」

「舐め腐るなぁっ!」

うわっびっくりした、何⁉︎」

「爆竹程度で殺せると思うなよ?」

「だから..ダイナマイトだって」


助っ人来れば尚も良し、必ず来るとは限らない。

「話にならねぇ、これでヒーロー?

笑わせんな。何が救えるってんだ!」

「..悪役みてぇなセリフだな。

少し規制でもかけて貰った方がいいんじゃねぇのか?」

「あぁ?

テメェまだんな口叩くのか!!」

規制無しの膝打ちを腹に食い込ませ、仮にも英雄をこき下ろし、見下す。

「今更ヒーローなんざ名乗りやがってでかい事言う前に殴って黙らせやがれ文句を言う奴が現れねぇようにな‼︎」

「バカか?」「あぁ!?」

「文句言う奴を倒すのがヒーローだ、第一文句言う奴いなかったら平和な世界だろずっと。」


「...うるせぇ!」「頭使えバカ」


バカもいれば迷い人もいる。

「おかしいですわね、また行き止まりですわ。」

『そんなに壁にブチ当たる?

キャミーの家より狭いハズだけど』

「そうですの?

いつも爺やに任せっきりですのよ。

わかりませんわそんな事」

『..お手上げだよ、そうなったら。』

キャミーはとある財閥の令嬢なのだが性格が悪く、人の本性を暴き崩壊させるのが何より好きな趣味であった為マスメディアに乱入した。彼女は主に経済面を担い、使用している銃や武器は彼女の調達によるものだ。

「あらぁ?」『今度は何?』

「……」

「貴方、またお会いしましたわね。名前は確か..D-Iでしたわね」

『...それ、僕があげた情報だよね?』


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