第14話 規制破滅の鉄則

「せいっ!

まだ湧くかコノヤロが!」

「それそれ〜♪」「..ふん。」

「.....コロス..!」

『聞こえるお仲間さん?

お兄ちゃんの腕から発信してワンちゃんの首輪から繋がってる筈だけど』

「..あぁ、聞こえる。」

戦う右拳から、探す首輪に発信する。

『鍵は全部で八箇所、順番は分からないから暗記して文字は暗記して貰う事になるけど場所を言うね。』

ダウンロードされたマップを元に、鍵のある場所を一つずつ伝える。

『先ずは正面、さっきのとこだね。

あそこを起点として頭文字はD、続いてそこから一番近いのが左勝手口』

「面倒だ、場所を取り上げず口に出してあげえいってくれるか?」

『わかった』

少年の言った場所がこれだ。

正面

左勝手口、右勝手口

左奥裏口、右奥裏口

左予備通路入口、右予備通路入口

最後に正面の真逆、建物の背中側に位置する裏正面入口の扉。

「わかった、しらみ潰しにあたってみる。小僧、お前は逆方向からだ」

「小僧っていわないでー。」

緊張感の無い返事だが、本人は凄まじく彼を警戒している。

『宜しく頼むよ、僕はお兄ちゃんのアシストに回る。電源は通信は繋げておくから何かあったら教えてよ』


「わかった、いくぞブラスター」

「ワン!」

所戻して正面玄関、四人の強者達が一同に介し兵力と争いを続けていた。

「.....」

「ちょっと、ボサッとしないで?」

「よく言えるな、仮にも殺人鬼だぞ」

「あら素敵なお兄さん、今度あたしの街で遊んでいかない?」

「誘うな!

ていうかナイト、お前も鎧着けてんだな。」

「これか、ここに来る途中キレ者の少年が施してくれたのだ」

全快とは行かないが、前のように強力な矢を放つ事が出来るようになった。他にも多様に機能があるが、使い方が解らないのか未だスタンダード仕様のままだ。

「弓というのは簡単だ。

引いて..射つ、これだけだ」

群がっていた白い雑魚共が纏まりをみせて吹き飛ばされる。どこかの無双系ゲームの様な大胆な光景だ。

「すっごいね、怒らせたら怖そ」

「まぁまぁ怒ってるぞ、お前の横の奴もな。」

「......‼︎」「怖っ!」


「なんだなんだ、随分ヤワだなぁ!」

「し、指導長!

奴等は化け物です、勝てませんよ!」

「うるさいぞ‼︎

敗者が勝手に喋るな。」

白いマントに警防を頭に乗せた若い男右手にはつまらんシャレか警棒を握っている。

「誰だお前」

「僕に興味があるか?

教えてやろう、僕は組織の戦闘兵を教える指導長。名を如月 景文」

「よく喋る男だな。」

「おっとそこの無口な男?

僕の事は気兼ねなくラギーと呼んでくれ。」

堅苦しい名前を崩し比較的柔和な如月をもじってラギーと呼ばせる。それで親近感を持たせようと試みるギャルのような発想の男だ。

「貴方指導長なの?」

「そうだが、それがどうしたお嬢。」

「にしたら皆弱すぎよ」

「はてそうか、おかしいな。

しこたま鍛え上げたつもりだったが」

即戦力に仕上げた兵も肥大化した戦力の前では赤子同然、コケにされるのも無理は無い。

「ならばもっとグレードの高い兵士を使うとしよう。いでよ!」

ラギーが指笛を鳴らすと牢屋を打ち破り、足枷を引きずりながら大きな足が此方に動く。

「いらっしゃい」

「何だ、こいつら..。」

「合成獣人、少し現実離れしてるかな

ここに呼んだのは三匹。

ヒョウとゾウ、そして..あれ、もう一つは...あ、そうだ。君、ちょっと」

「僕ですか?」「そ、きみきみ」

近くの兵士を呼び手招きする。

「はうっ!」「静か〜に、ねっ?」

羽交い締めて、抵抗する青年の首に注射の針を入れる。

「忘れてたぁこれで合ってるかな?」

「あっ..はっ、があぁぁっ!!」


「どうした、一体何を打った?」

「心して掛かれグレイト、彼は人では無くなった」

「ったく、そういう事かよ..!」

青年はみるみる肥大化し、黒い毛に覆われた。筋肉は凄まじく膨張し、身体に野性を強く帯びていく。

「ウオォォッ〜!!」

「やっぱり合ってた。

これだよゴリラの兵士〜!」

「可愛くないわね..。」「......!」

「ああぁぁ〜!

バケモノだ、バケモノになったぁ!」

迷いなく味方を変異させる上司に姿を変える同僚、一度に二つの恐怖を覚えた兵士達は最早戦意の欠片も無い。

「素晴らしい、見事な三竦み。

君ならどう倒そうとする..?」


「あった、予備通路の錠前だ。

記された記号は..〝i〟か。」

これで正面を除いて二つ目の錠前、記されていた文字は正面でD、続いてeそしてiだ。

「そのまま繋げれば〝Dei〟となるが解らんな、小僧の文字を当てはめん事には」

「ワンワン!」

「そうだなブラスター、他を読み取ろう。次は裏口だ!」

「ワン!」

やはり真の飼い主はガロス、しかし彼はブラスターの特技が国士無双だといういう事を知らない。

「安心しろ、私達は今リーチを掛けている。」

これは偶然だ、なぜなら彼はブラスターの特技を知らないのだから。

「一駒あればいくらでも逆転は可能だそうだろブラスター?」

「ワ、ワン‼︎」

もしかしたら知っているかもしれない


「あたしも女豹なんていわれる事あるけど、やっぱりホンモノは可愛い」

ヒョウの遺伝子を持つ変異した兵士を赤子かのように鞭で調教する。

「可愛い規模の生き物か?」

「放っとけ、人の感覚は測れねぇ。」

「仕上げはコレよ?」

ダーツバレルを複数本ヒョウ型獣人の首筋に打ち込む。獣は崩れ落ち倒れ、その場でイビキをかいて夢を見る。

「ほう、おネンネと来たか。

なかなか面白い事してくれる」

「ネコちゃんイジメるのはイヤよ。あたし好きなの、ネコちゃんの動画見て寝るの」

「スコティッシュ?」「マンチカン」

中々スコティッシャーに会う事の無いすれ違いの毎日。しかしマンチカンと来られては仕方ない、奴等は異例の可愛さを誇る種、相入れる筈も無い。

「グレイト..」

「ナイトレイ、お前まさか...!」

「..猫アレルギーだ。」

「そうか、残念だ」

嫌いではない。

だが近付く事が出来ない。

「まぁ大丈夫だ、そういう事も..」

「ウガアァァッ!!」「うおっ」

「油断は禁物じゃないかなぁ兄さん方敵は一匹だけじゃないんだよ?」

「一匹か、成る程な。」

最早人の尊厳は無い、理性は野性に棄てられた。

「ゴリラと戦るのは二度目だな、あん時のゴリラか?

違うか、前は色が白かった。」

「気をつけろよ〜、その子思ってるより速いから、さっ!」

「..気を配るのはそちらだろう?」

「何?」「あぁ、確かにそうだ」

「獣もケダモノには勝てんわな。」

「......キリサクッ..!」

背中から腹へ振動する刃が飛び出し血飛沫を掻き鳴らす。刃は徐々に奥へ奥へ、やがて根元近くまで食い込み肉を抉り裂く。

「デリカシーがないな」

「まったくだぜ、モラルゼロだな。」

「...一緒に酒は飲めないわ」


「美しい..!

これが何者にも囚われぬ者の表現力か

秩序も遠慮も度外視だねぇ!!」

「......!」

刃を引き抜き興味は無しと、痛めつけ尽くした巨躯を野晒しで立ち去る。殺人鬼にとって後の姿など関係ない、結果的に死に近付いていればそれで満足なのだ。但し趣向や個人差は多いに有る、彼がそういうタイプなだけだ。

「ウ..ガボオォォッ...‼︎!」

「ムゴいなオイ。」

床に膝を落とし深く刻まれた身体で多量の血を流し激痛の呼吸をしているという、極限に絶望を強いられた状況のまま無残に放置された野性の人間は、側から見れば同情の対象である。

「ウゥゥゥゥッ..‼︎」

「..哀れな、責めて苦しまず留めを刺してやる。今でも充分に苦痛だとは思うがな」

腕の金具の上部に着いたレバーを回転させ、窪みにセットする。後は先程と同様矢を引いて、射つ。

「何をしたんだ?」

「..お前のソレが力の増幅ならば私は量の増加。今のは弓の弾数を、増やすためのギミックだ」

一点集中型の弓の的を増やし、集中砲火的に威力を高める。ゴリラ型獣人は無数の弓による襲撃を受け、跡形も無く消し去った。

「これで二人目、残すは一つだ」

「..なかなかにやるじゃないか!」


「よし、これで最後だ。」

裏正面の八つ目の錠前、最後の文字は

〝Y〟他は小文字に対し最後の文字は初めの錠前同様大文字で記される。

「よっ、来たか!」

「小僧文字は覚えているか?」

「勿論だよー、コッチの文字はっと..

〝l〟〝c〟〝a〟〝c〟だね。」

八つの記号が出揃った、あとはこれを並び替えロックを解除させるのみ。

「..よし、正面の錠前に戻るぞ」

「ちょっと、パスワード解ったの?」

「いいから来い、問題は無い。」

「偉そうだねーどうも。」

言われるがまま正面の入り口へ。

錠前にはモニターがあり、中央の文字バーを指で触れるとキーボードが現れる。

「これで文字を打てという事か..。」

ガロスは迷い無く、文字バーに触れて

〝DelicacY〟と入力する。

「本当に会ってんすか〜?」

「見ていろ..」

ローディングを終え画面にコンプリートの文字。見事に扉のロックは外れた

「マジかよ..わかってたけどー。」

「ブラスター、首輪をこっちに」

「ワン!」

「聞こえるか、返事をしてくれ。」

『はい、何かあった?』

「鍵を開けた、英雄に伝えてくれ。私は先へ進む。」

『わかった、伝えておくよ。

そうだ、錠前は持って行ってね。そのままにしておくと時間差で閉じるようになってるから!』

「..ああ、わかっている。」

関係者はパスワードを予め把握している為入力する度に鍵を開けそれ以降は再び閉じる仕様となっている。故に構造上外側から入るに至っては正面のみでしか入る事が出来ない。他の箇所から出る場合は、内側から単純に手動で扉を開ける。当然その後は自動で閉まる。

「さて、始めるか..」

作業を終えた二人と一匹は先に施設の中へ、本格的な攻めへと入る。


『お兄ちゃん、聞こえる?

おじさん達が今鍵を開けたよ!』

「そうか、良かった!

..だけど悪りぃな、暫く中に入れそうにねぇ。」

通常ならばガロス達が正面に戻った時点で顔を合わせる筈だったのだが、突然湧いた三竦みのお陰で距離を遠ざけて戦うハメに合っていた。

「行きてぇのは山々なんだがなっ!」

ヒョウは眠りゴリラは細切れ、残るゾウには刃も立たない。如何なる撃も弾かれ、傷すら付かず戦が長引く。

「あれあれどうしたぁ?

これではいつまで経っても終わらなーい、日が暮れてしまうぞー。」

「皮膚が硬すぎる」

「こんなに通らないものかしら?」

「うざってぇなホントによ。」

「そうだよね、無理だよね!?

そりゃそうさぁ、なんだってソイツは足止め用。防御特化の謂わばルークみたいなものさ」

「ルークか、攻めずに守る。」

「いやいや!

攻める事も可能だよ?」

ゾウは本来凶暴な生き物、暴れれば相当な猛威を振るう。鼻にもリーチが有り、多様な動きが可能となる。唯一スピードに難はあるが、その程度は充分力で補えるスペックを誇っている。


「でかい暴れん坊か、そんなのがコッチにも一人いたな。」

「さっき入り口の方に歩いて行ったわよ」

「何ぃ?

お前なんで止めねぇんだよ!」

「止めたって無駄だと思ったのよ。あたしが殺されるかもしれないし」

悪魔が通る所に異名は付く。ここで人を殺めれば、ここが新たなキラーズ通りだ。

「行ってしまったものは仕方ない。

..貴方も先に中へ行っていろ、ここで時間を使っては無駄でしか無い」

「やったホント!?

あなたってやっぱりいい男ね。」

「ナイト、お前勝手に..!」

「勝てないのか?」「何ぃっ!?」

「私の知っているお前は、もっと骨のある男だったぞ」

「...もっと上手い決め文句ねぇのかよさっさと潰すぞ、こんな奴。」

「言われなくてもだ..。」

二人っきりの共闘などいつぶりだろうか、以前と比べると随分とお互い腕が落ちた。しかしそれは疲労や衰えでは無く、外部から受けた一方的な規制によるものだ。今この廃れた拳は、本来の力を取り戻す為に重ねる一時的な粗末な不良品に過ぎない。次に会うときは、比べ物にならぬ程大きな力を有している事だろう。

「俺はお前と競った事は一度も無ぇしそんな名をつけた覚えも一切ねぇが、当時呼ばれてた渾名を知ってるか?」

「..あぁ覚えている、私達の名は..」


〝プラチナセイヴァース〟


「酷っどい名だろ?」

「まったくだ、センスの欠片も無い」

当時から彼等は強さだけが売りの品の無い連中だった。

「みっともねぇからやめたのに、みっともねぇ理由で再集結かよ。」

「一生の恥だ、確実にな。」

生憎戦い方も変わっていない、弓と拳金と銀の二撃の煌めきがとめどなくも鈍く輝き続ける。どこまでいっても表現のダサくなる恥辱の暴君。やる事は単純、殴って、引いて、矢を放つ。これだけの怠惰な作業。

「しかし敵が敵だけに、数が多くなるぜこりゃ」

「その為の機能では無いのか?」

「それもそうだな」

走って近付く余裕すらも与えない、ワイヤーを伸ばし、リーチの遮断。伸ばした後の戻しす力で一気に近付きゾウの眼前で形状を拳に戻し衝撃付きの殴打、これを繰り返し徐々にダメージを与えていく。それを補うように、僅かな隙間めから量を調節して矢を放つ。こうする事で近くから遠距離から撃を与える事が可能。


「そーんな事して何になるぅ?

飽きてしまった、終えたら起こして」

戦闘パートは見れるものの作業パートは見るに耐えない。勇者のレベル上げをするか溜まったメールを処理する為に設けられた時間だ。やる事が特になければそれは寝る、当然寝腐るに限るタイミング、彼はまともだ。

「ダメだ、威力が足りねぇ!

ナイトお前ももうちょいできねぇか」

「数より質か、シフトしてみよう。」

窪みに入れた上部を引き手に設置し、弓を大いに引っ張り延ばす。レバーの効果か以前より引きに奥行きが増し、より力の篭る仕様となった。

「...そこだっ!」

放たれた矢は土手っ腹に突き刺さり強化された威力を包み隠さず発揮する。

「おい動いたぞ!」「ぐおぉ..!!」

あれ程ビクリともしなかったゾウの獣人が、一歩後ろに後ずさりした。意外に声は人に寄っていた。

「お、手応えあるぞ!

オレも拳を強めに変えるか。」

共に武器をグレードアップ、遣り方はそのままに力を加え再び作業を続行。

「くらあぁぁっ!!」

「なんだ鼻ハンマーか?

漸くやる気かいゾウさんよ」

直立だけでは耐え難くなり、遂に反撃を開始する。

「ふっ!」「ぐおあぁぁっ‼︎」

我がスピアアローで脚は止まる。」

「なんだその中学生みてぇな名前の技は?」

ナイトレイはネーミングセンスがないそもそも〝ナイトレイ〟とは、これが実名なのならば、親の代からセンスがないという事だ。ならば変えようが ない、正式な遺伝である。


「知るか..はっ!」

「面白けりゃいいよな‼︎」

量を完全な質に変え、重みを乗せて放つ事でゾウの肉質が柔らかく変化していくように感じた。しかしそれは単純に硬さに慣れ、ダメージの蓄積量を増やし始めていた証拠であった。

「ぐうぅぅぅっ‼︎」

「なかなか効いてるじゃねぇか、痛ぇだろこの拳。岩を削り砕く為の形をしてんだぜ、お前は岩と同じって事だ」

「見せびらかすなグレイト。」

「お前も似たようなもんだろ?」

「私は弓だ、そして殴るなら矢が着脱

した箇所に追加的に打撃を与えろ」

「あ、それいいなやろう。」

「始めからそのつもりで撃っていたのだが?」

戦術変更、弓を受け仰け反った瞬間に当たった辺りを拳で抉る。これにより多大なダメージを稼ぐ事が可能だが動きに規則性が増し、着弾した箇所を正確に見定め動き、前の痛みを残した状態の腹に追加的に叩き込まなければならない。

「いくぞ。...はっ!

右だ。」

「わかってるよ言われずともな!」

弾を追いかけ追加の打撃、それが終わればまた矢を放ち、追い討ち。再び矢を打ち追加の追い討ち。それを幾度も繰り返し、英雄グレイトマンはとある事に気付く。


「やりたくねぇっ!」「どうした?」

同じ動きを繰り返す、労働的な動きについていけない。早くも限界を感じた

「向いてねぇよこれオレ。」

「向き不向きでは無くやるのだ、でなければ奴は倒せん」

「知るかよ!

そういうの嫌でヒーローになってんだぞオレは、好き勝手やらせて貰う!」

「..わかった、ならば一つだけ守ってくれ。矢を射ったら、拳を入れる。蓄積させなければ意味が無い。それを守った上で独自性を表現してくれ」

「制約ガチガチじゃねぇか、なんだっていい。早く撃て。」

「指図するな、共闘であって服従では無い。」

「わかってるってのんな事は‼︎」

仲が悪いようにも見えるが彼等なりのチームワークだ。極端な仲間意識を持たず協力した関係、連携はしても馴れ合いはしないというクドウとシドウと並べて比べると少し信頼の意味が異なるバディの方法だ。

「はっ!」

矢を放つ、何度も見た光景。

弓を引いて飛ばす、そこに当てがう早すぎる拳、これは始めて見る景色だ。

「お前何をしている..⁉︎」

「ストロークが長ぇんだよ、こうして拳で撃ち込めば威力も上がるし速いだろ?」

一瞬立ち止まるも考えを汲み、続けて矢を打ち放つ。遠くからそれを眺めれば、拳の先から矢が放たれているようにも見える。

「ぐ、おぉぉぉぉっ!!」

「痛ぇだろ?

留めの3カウントしてやるよ」

「三発放てという事か..」

「いーち、」強く撃ち込む拳と弓矢。

「がっ..!」

「にーい..」説明不要の力の柱。

「ぶぅっ!」

「さんっ...!!」

矢の尻から拳を離さず腹に向かって自ら走る。そこから振りかぶって矢を直接に殴り撃ち、肉を撃ち抜き貫いた。

「がっは..!!」

「どうだ、結構〜効いたろ?」

「..グレイト!」「あぁえぇ..!?」

投げられ何かを手渡した。掌の中には金属の円盤の様なもの、中央にランプがあるが点滅はしていない。


「なんだコレ?」

「いざという時にと幾つか貰ったものだ、時計回りに上部を捻れば、自ずと検討がつくと思うぞ。」

「上部、ここか」

円盤の上澄みを掴み、回転させる。そのままゾウの腹にぺたりと貼り付け、身体を手で押す。

「うおっ..!」

獣人は腹を痛めながらも重心が上手く掴めず、ぐらりとふらつきその場に仰向けに倒れ込む。

「ぐ..おぉぉっ!!」

「静かにしてろ、カウントやろうか?

いーち、にぃ..さんっ...!」

「ばっ!......」

ゾウの身体は弾け飛び、肉片と化した

円盤は焼け焦げ、黒く原型を崩している。

「こんな小さな爆弾でこれだけ燃えるんだ、戦争なんざよくやったぜ。..くだらねぇよな人ってのはよ」

「争わなければ得る物が無いと本気で信じこんでいるのだ、止む事は無いだろうな。ましてや人間などと自我の強すぎる生き物ならば尚更だ。」

世界を守るヒーローですら、矮小な人の起こす無様な紛争を止める事が出来ないという。生産性など何も無く、悲劇のみしか生まぬと言うのに..。

「...ん、あれ?

もしかして終わったの、凄い音した気がしたけど気のせいではないのかな」

「漸くお出ましか..。」

「まだ居るってのも心外だよな。」


コンプラ施設アルカディア内

「随分キレイね、大理石?

オシャレなホテルみたいだわ。」

白い外壁とは打って変わり中は黒光りした大理石で覆われている。半分は創設者の趣向、もう一つはセキリュティ関連。戸締りや侵入者という意味では無くこの施設には単純に、大理石を平気で破壊する程の連中がゴロゴロいるのだ。

「監視カメラはあるみたいだけど、言う程お硬くなさそうじゃない?」

彼女はまだ、内部の脅威を知らないでいた。激ヤバ案件ブチ上がりなのに。


「なんだって?」

「先に行けといったのだ、聞こえていない訳ではないだろう」

「一人でやるのかよ。」

「ああそうだ、お前は中へ行け。

私はここで奴を仕留める」

何度目の先を行けパターンだろうか、最早ただの先導である。一度以上は言うべきでは無い、少し恥ずかしい。

「一人で仕留める?

貴方にそれが出来るのか!?」

これも少し恥ずかしい。

「わかった、オレ先行くわ!」

「..ああ。」

これはいさぎいい。

「逃してくれるのだな、親切な奴だ」

「去る者追っても意味ないだろ?

貴方は逃さないけどね♪」


「ガキ、悪りぃ遅れた!

今すぐ施設ん中入る」

『お疲れ様お兄ちゃん!

錠前はおじさんが持ってるから、いつでも中に入れるよ』

「あいつら無事か?

先に中入ったみてぇだけど」

『うん、それがおかしくてさ。

おじさんと連絡取れないんだ、ワンちゃんの首輪から繋がってる筈なんだけど、はぐれちゃったかな?』

「また厄介な事になってんなオイ!」

一難去ってまた一難、ゴキブリと同じで一匹いれば、40匹はワラつくのがトラブルというものだ。

中の情報は何も無い状態、後から中に入っても結局は未知の領域に足を入れる形となった。鍵が開いているのみでも充分褒め称えるべきだが。


一方中も対して得られる情報は無く..

「なんだか飽きてきたよ、同じ景色同じ色。中は本当にホテルみたいだし」

以前と余り中の作りに変化は無く、正面の扉を抜けると道があり、壁にいくつも扉が付いている。一つ一つが部屋であり、まさにホテルの廊下を歩いてる感覚に近い。

「せめて看板を付けて欲しいものね、『食料庫』とか、『お手洗い』とか」

部屋を一つずつ確認するには手間がかかり過ぎる、罠が待ち受けている可能性も充分に有る。怯えを持つ訳ではないが、警戒故に廊下を歩く事しか出来ない。

「あーんもう、全然わからないわ!」


「そうよねぇ..わかるわ、ココって分かりにくいのよ。看板無いしね」

「...誰、あなた?」

「ワタシ? ふふっ!

ワタシはクリストフ・フラワー。

気高き純情乙女よ♪」

金の三つ編みにはち切れるマッスルボディ、割れたアゴが特徴の女子。

「あなた、男じゃない」

「男じゃないですー‼︎

凛々し過ぎるんですー!!

不細工にはワタシの魅力がわからないのよねー、ホントメイワク!」

「何ですって..?」

「あらな〜にぃ〜?

嫉妬かしらここまでの剣幕は。」

夜の姫が数秒でコケ扱い、それ程迄に彼、いや彼女は美しく魅惑的なのだろう。

「美貌は掲げて威張る為のものでは無いのよ、使い方を知らないようね」

「あーら知ってるわビンビコビンよ、アナタに教えて差し上げようかしら」

「面白いわね」「よく言われるわ」

女通しの美の激突。

一人はムチを、もう一人はトンファーを片手に顔を確認し合う。

「やっぱりアナタ、結構ブスね。」

「貴方の視界が崩れているのよ、眼球が曲がる程にね」

美人薄命という言葉があるが、あれの正体は、いずれ訪れる老いの恐怖に怯えた女が身を投げた姿である。

美貌は、命よりも価値がある。彼女達はそう考えている。

「ワタシはコンプライアンスのエロティック担当、アナタの表現は際どくて目に余るわ。規制させて頂戴」

「エロティック担当..そう、ていう事は貴方があたしの街を...許さない」

街人を隔離して、偽の街を造り上げた張本人。その相手は皮肉にも、同じ美を追求する者であった。

「生きて帰れると思わないでね?」

「あら怖い、品がまるでないわね。」


勢力は正義だけでなく、悪意も共に満ちている。だがどちらも目的は、同じ

「ここの飯、ウメェな。

アイツが散らかす訳だぜ」

「そんな事より、正面の扉開いたみたいよ。そろそろ来たんじゃない?」

「お、漸くか!

随分待たせやがってよぉったく!」

元は鳥だったのか豚だったのかよく分からない動物の骨を適当に投げ拳を鳴らす。

「今日こそ息の根止めてやる!

息が二度と出来ると思うなよ!?」

「喧嘩したいだけでしょ..大して恨みも無いんだからさ。」

メカニック担当タケマツは自らが戦闘向きでないからか乗り気でない。元々の無気力気質な性質も相まって気怠さが滲み出過ぎている。

「...ん?

そっか、〝あの人〟も一緒に来たみたいよ。殆ど会った事ないけど。」

「あぁ?

..なんだコイツかよ、久しいな随分」

お互いあまり馴染みは無い様子のあの人が、機材のモニターにでかでかと映し出され、主張をしている。

「ていうかお前いつもそのパソコン持ってるけどよ、電波だワイファイだきちんと通るのかよ?」

「形がパソコンなだけだよ、そっちの方が分かりやすいだろ」

「面倒な奴だな。」

「いいから行きなよ、僕はここから支持でも出すからさ。...飯でも食べて」

基本外には出ずインドアの戦い。その為服装などには気遣いが無く、常に同じ地味なスウェットのパジャマを着ている。


「じゃあオレはいくからな!!」

「だから早く行けってば..面倒臭い」

合う合わないでは無く単純に協調性が無い。


「なーおかしくねぇ?」「なにが?」

「仕事量多過ぎだろ」「それはある」

「しかも同じ雇い人」「そうだな。」

恨み無し妬み無し、人にそもそも興味無しの娯楽暗殺兄弟がまたも呼ばれて待機中。三日前から施設に侵入しています。

「こりゃもうアレだな、内容じゃなくて時間で区切った方がいいな」

「腹から賛成だけどさ、だとすりゃ稼働時間三秒とかになるぜマジ」

「だな。」「だろ?」

部屋に隠れる訳でも無く、廊下にずんだら座り込みダレている。監視カメラには撮られ放題敵は来放題だが頑なにそのスタイルを三日変えないでいる。

独自性ではなく単純に協調性が無い。

「あ、来た敵」「しかも幹部?」

今までとは違い異質、おかしな雰囲気を纏った男。

「だっはっはっは!

新たなカラダを手に入れたこの俺を止められるかぁ!?」

「っておいアイツって」「またかよ」

見覚えのある、別人。

中身は決して変わらない、決して。

「久し振りだな殺し屋兄弟!

殺された筈の俺は今こうして生き...」

「どこがだよ。」「また死んだぞ」

背後から腹を裂かれ、血を噴出させた男を生きているとは言わない。7:3で死んでいる割合が高い。よって死者だ

「がはぁっ..!」

「可哀想に」「やられてばっかだな」

生気を刈り取られボロ絹のように打ち捨てられた。斬り口から察するに殺し屋のプロの仕業では無い。プロはプロでもフリーランス、無免許の殺し屋。

趣味もしくは殺人鬼のやり口だ。

「.....!」

「おいマジか」「キラーズじゃん。」

キラーズ通り伝説の殺人鬼グアトロ、腕の良い殺し屋にとっては敵対するに値する殺しのカリスマ。

「あいつなんでこんなとこ?」

「決まってんじゃん、自由に殺しをする為っしょ?」

コンプライアンスにはいくつか部署があり、それら一つ一つが規制の概念、

バラエティ部、ホラー部多々ある部署に一人を柱として立たせている。その柱を崩す事で規制は解かれ自由な表現を取り戻す事が出来る。

「うっ!

がぁ..はあぁっ...!!」

「うわっ生きてんの?」「キモ過ぎ」

切断させた細胞が修復を始め身体を異常に蠢きながら元に戻そうとする。

「何度目の死だこれで?

俺はまた死に損なったぁ!!」

「いちいち声でかいな」「面倒くせ」

「.....コロス..!」「あがぁっ!」

「また死んだぞ」「何度目だろな。」

再生した箇所に、再度刃を刺し込まれ

絶命する。

「んで再生」「キリないねコレ」

細胞が修復を開始、以前より深く刻まれた為少々時間が延びている。

「節度の無い奴だ!

キラーズ・グアトロよ、噂には聞いていたがここまで荒々しく..」

「フンッ..!」

「また死んだ。」「食欲無くすな。」再生途中の身体をチェーンソーの持ち手の腹で鈍器の如く叩き潰す。工程はほぼハンバーグだが、到底出せない出来栄えだ。潰した肉塊はそれでもと徐々に復活を遂げる。健気なものだ。

「......!」

「やべっ、こっち見てる。」

「次はお前らの番だ的な?」

腹を空かした獣のように、見境無く獲物を求める殺人狂は、もう現在の標的の殺しは望めないと判断し、次を見定める。

「....コロス..」「何処を見ている!」

「やり返された」「蹴りかよ普通に」

背中を見せた敵(かたき)にリボーンボディキックを炸裂され、不意を突かれたキラーズは床に膝を落としてしまった。戦いに正攻法などいらないのかもしれない。

「カッキーナイス」「ズラかろ、な」

生まれた隙を利用して、持ち場を押し付けそそくさ抜き足。本当に依頼以上の仕事はしない。


「脳天ガラ空きだ、馬鹿者ぉ!!」

ハラキリ切腹体制の男の頭上にかかと落としをかます。介錯する前に首の骨が持つだろうか、それ以前に彼の踵は当たるだろうか。

「......!」「なんだっ!?」

案の定当たらず、ククリナイフで受け止められた。よく串刺しになる男だ。

「があっ..貴様ぁ!!」

踵を押し退けナイフを外しよろめく胸を一閃、二本目のククリナイフを片方に持ち両刃で腹を交差斬り。仕上げに纏めて一点を、二本同時で貫き突き。

「お..ぐあぁっ...。」

「..フォーッ‼︎」

腹切胸切りとどめ刺し死んで無くとも気は晴れず、肥大した衝動と力を満たすには、底抜けの命が必要とされる。

強く、しぶとく、根強く生きる、有り余る生命が。

「,.ご機嫌か化け物、嬉しいだろう?

また蘇ってやったぞ!!」

「.....コロス...!」

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