第13話 集結、そして...。
「山の向こう側?」
「だって聞いたぜ、以前は手前にあったそうだが今は向こうに構えてる。そんでそこには人が居なくて、野性が元気に暮らしてるんだとさ。」
「その山なら存じてますぜ、随分歩くがこの向こうだ。一度行った覚えがありますわ」
「そこまでは問題ねぇ、話はその後だホントに面倒だけどな」
「へぇ?」
ブラスターの首輪に入力された道筋のデータはウィパで貰った地図の分まで元々以前のコンプラ施設まで辿り着くべく造られた地図故それ以降の道は描かれていない。
「だから山を登った後は自力で進むしかねぇんだ」
「大変そうだねぇ..随分とさ。」
「なんだよ、何か考えあんのか?」
勿体ぶって含み笑いを浮かべる素振りに不快感を覚えつつ策があるなら聞きたいと前のめりで問いかける。
「いやね、最近本当に近々の噂なんだけど、おかしな話があってねぇ」
「おかしな話だ?」「ワン。」
「そ、何でも出るらしいんだよ。
山に雪男が!」
「雪男?
でかい猿じゃねぇのか。」「ワン」
「それはそれで以外でしょ」
野性が暮らすと言われている地区と人の地区を分ける境の大きな山は、多くの者に〝雪山〟と呼ばれている。雪は微塵も降っていたことは無く地形に積もっていた事もないのだが、山の表面が錯覚する程白色を帯び、冷気の如く君臨しているのだ。そんな雪山に最近大きな雪男が現れると目撃情報が絶えず、刻によっては下まで降りて来て、人々を驚かす事もあるという。
「で、そのイエティもどきがいるから何なんだよ?」
「ピンと来ないのかい、ソイツが山にホントに居てくれれば山を越える助力になるかもしれないだろう?」
猿に協力煽るのかよ!
また思い切ったなオイ。」
「そうと決まりゃ早速山行って男を探すよ‼︎」
ひょんなことからとよく聞くが、あれは殆ど意図的なものだと今理解した。偶然生まれるものならば、もっと整合性の取れない軌跡を辿る必要性がある為こんな綺麗な道筋が用意されている訳も無い。全ては仕組まれた現実なのである。
「雪男を探す未来か、随分と明るい未来だな」
数奇な運命に頷き、山を目指してひたすら歩く。やがて山に辿り着く事に当然なるのだが、最早それは大きな城、雪を纏った男の潜む、越えるべき大きな要塞として瞳に映った。
「準備いいですかい」
「良くなくても行かされるんだろ?」
「偉く卑屈だねぇどうも。」「ワン」
不充分でも道は一本と知っているから足を前にしか進めない。規制規制の世の中でその影響を一切受けない山の中では表現もさる事ながら言動や風習までもがフリーダム。更にヒントがまるでない為対応が難しく、大宴会レベルの大きな器を持って干渉する事を強いられる。それを踏まえた上で山での探索を開始した。
「何を怯えてるんでしょ、意外に中は平和さね。恐れることは無い」
「平和だから警戒すんだよ、何にも無ぇ訳がねぇんだから。」
山の中は空気が澄んでいて動きやすく
寧ろ街より居心地が良かった。しかしそれは普段日常の枷の付いた閉鎖的概念と共にある空間から解放され、自然に触れているという新鮮な感覚がおりなすもの。決して山のポテンシャルが魅せるものでは無い。所詮は人の一感覚による一時的デトックスである。
そして例の雪の〝ヤツ〟は突然現れた
「旦那、隠れて!」「なんだよ急に」
「決まってるだろ、出たんだよぉ。」
山を登って丁度真ん中辺り、一番目立つピークの刻に噂は形となった。二人と一匹は近くの適当な木陰に身を潜めヤツを観察した。
「でかいな、人のソレでも無ぇ」
「何してるんでしょ、木を調べてる」
連なる木々の一つずつを調べ、枝や草に手を伸ばし何かを引き抜いている。
「木の実だ、木の実を取って口に入れてるぜ。」
でかい身体の大きな掌で、小さな木ノ実を採取している。意外にグルメか、山の幸を大いに堪能している。
「こっちに来るか?」
「いや向こうに行きますぜ」「ワン」
腹を満たすと勝手に背を向け元来た道へ還っていく。
「ついて行こうか旦那、アイツにさえ気を付ければ他の生き物は多分襲って来ない。ヤツは王様だからねぇ」
「そんなに都合の良いもんか?
..でもまぁ効率は良さそうだ、そうしよう。ここは素直にな」
「ワン。」
自ら素直と言う辺り、未だ心から素直になりきれていない。恐らくなるつもりもないのだろう。
「何処に向かうんだろうね」
「知らないで追ってんのかよ。」
後を尾いていくと簡素な道のり、弊害が生まれるわけでなく危険に晒される事も無く、ただ闊歩した足音の振動が広きに渡り響くのみ。
「つまらないねぇ、もう少し面白味が欲しいよ。」
「いらねぇよ、そんなもんは..」
ここが家で男が主だと考えれば納得がいく、歩き慣れた家の中でトラブルが起きる筈も無い。あるとすれば突発的な、ゴキブリが出たとかそういった事だ。この場におけるゴキブリは...。
「あ、ぐんぐん上に登ってる!」
「そりゃ登るだろうよ山だからな」
標高の割に空気は多く存在し、息苦しさを感じない。山の白色と何か関係しているのだろうか?
「頂点を超えましたぜ旦那」
「もう超えたのか!?
早すぎやしねぇか山だぞ!」
「人に注意を払っていたら、意外にも早く感じるものだよ。」
「ワンワン。」
早すぎるとは言っているものの山に入ってから六時間が経過している。追っている者が追っている者だけに時間の感覚は極端に狭まっているのだが、それでも体感と一致しなさ過ぎる。山を降りたとき、実際の経過時間に驚愕する事だろう。
「どこまで行きやがる?」「さぁ?」
「ワン、ワンワン!」
頂点を超え、折り返しの下りに差し掛かっても尚動きは止まず、それどころか雪男は、新たな動きを見せて来た。
「何処に行くんだいアイツは」
「厄介な事を始めやがったな。」
上がるでも下がるでも無い。木々を掻き分け、山の奥行きを愉しみ始めた。
「本当に遊んでるだけじゃねぇのか」
「だとすれば無駄な時間だねぇ。」
「ワ、ワ、ワワ、ワワワン!」
ブラスターは既にもう飽きている。首輪のアシストも機能しなくなり、山での彼は完璧な賑やかしだ。それが飽きてしまうような空間だ、結局の所街や村と変わらない。ここも下らない環境という事だ。
「とにかく尾いていくしかないよ」
「何処まで行かされんだよったく。」
渋々後に続き辿り着いたのは大きな洞穴。中には何かの骨や噛みちぎられた繊維などがゴミの様に散らばっていた
「ここは便所か?」
「違うだろ、どう見ても巣の類さね」
「こんなところに住んでんのか、これでも都に変わんのか。」
「ワンワン!」
「そもそも都を求めていないのさ」
「ワンワン!」
昔の貝塚のような住処だが一応は人の家だ、貶すべきでは無い。賞賛できる訳でもないが。
「ていうか何でここまで来てんだ?
目的は山を降りる事だろ、巣にまでついてくるこたぁ無ぇ筈だが。」
「ワンワン!」
「..それもそうだね、引き返そうか」
「ワンワン!ワンワン!」
「なんだよ、余計な手間掛けさせやがって。」
「ワン、ワンワン!ワンワンワン‼︎」
「ブラスターなんださっきっから!
腹でも減ってんのか、俺も同じだ!」
「..旦那...後ろ。」
「あぁ?」
ついていっていた筈なのに、まさかこうなるとは。考えてみればここは人の家、土足で入ればそれは怒るに当然の事。
「ゆ、雪男..!」「おかえりなさい..」
「ウガアァァッ!!」
「逃げろぉっ!」「言われなくても」
木々を掻き分け必死に逃げるもここはヤツの主戦場。振り切り巻ける訳も無く、体力を唯使うだけ。
「ラチが開かねぇ!
一発かましてやるしかねぇか‼︎」
「ちょっと、立ち止まるなってぇ!」
「ウガアァァッ‼︎」「来やがれ」
猛勢一杯の振りかぶりナックル、地形を無視して繰り出されその拳は金属の腕を持ってしても防ぎきれず、反動で尻餅を突いてしまう。
「無茶苦茶なパワーだ..!」
「だから言ったんだよ阿呆が!」
「ウガアァァッ‼︎」「また来るよ!」
「ワンワン、アオォォン‼︎」
起き上がるより先に二度目の拳が暴れ落ちる。
「くっ...!」
「ブラスター..よく吠えた。
お前の声は私に届いたぞ」
「..ワン?」
「四肢を貰うぞケダモノ。」
雪男の足の腱、両腕の腱が切られ、その場に膝を落とし拳を垂らす。
「..突然なんだ?」
「何かが手脚を停止させたのさ」
「解説はいい、早くこちらへ来い!」
「お前..!」
聞き覚えのある声が手を引いて、木々の向こうへ皆を誘う。
「ワン!」
「ブラスター、やはりお前は頼りになるな。」
「ソイツの名前を存じてますのー?
アンタ一体何者だよ〜!」
「..まったくだ、何でお前がこんな所に。名前は確か...ガロス!」
「久し振りだな旅の英雄。
元気そうで何よりだ」
「知り合いですかい?」
「..まぁ、一応恩人ってやつだ。」
村で囲まれ窮地の所を身を呈して逃げ道を造った救世主ガロスが再び姿を現した。そしてまたもや救われた。
「生きてたんだな」
「..何とか抜け出す事が出来た。
奇跡か気まぐれか、生き長らえたぞ」
「お前の知り合いバケモノばっかりだな。」
「ワン」
「ここにはどうやって?」
「ウィパに聞いた。
組織への地図を渡したと」
「..そうか。」
ウィパから山までの距離を進みその後六時間以上掛かった山の頂上を超えて来たとはタフな男である。しかも遅れながら僅差の間隔で。
「兎に角山を直ぐに降りるべきだ。
奴は危険、一刻も早く目的地に到着せねばな。」
「そんなに警戒する?
確かに危ない奴だけどさ、なんでそんなに慌てるの」
顔が少し焦り気味、よく見ると少し武者震いしているようにも見える。何かおぞましい心当たりがあるようだ。
「どうしたさ?」
「..恐らくだが、あの雪男。
元は人間の筈なのだ」
「人間、あれが!?」「ホントかよ」
「あぁ。
あの顔に僅かだが見覚えがある」
名前こそ知らないが、顔を覚えている
どこで見たかは定かで無い、しかし確かに目にはしている。
「なんであんなバケモノになっちまったんだろうな」
「..人体実験か、薬か成分による変異によるものだろう。ああなれば最早改善の余地は無い。本人が望んでいるかは分からないがな」
「..もういい、早く山を降りようぜ」
「あぁ、そうしよう。」
山を降りれば、未知の楽園。
獣や他の生き物が自然を疾り、自由な表現を見せている。..というのも昔の話、コンプライアンスが拠点としてからは、鎖に繋がれ、牢に閉じ込められた閉鎖的な生活。生息するほぼ全ての生き物が強制的に投獄を強いられている。グレイト達がそれを知るのは、山を降りて暫くの事だ。
コンプライアンス真施設アルカディア
「どうだ、新しいカラダは?」
「ふぅ〜..なかなかイイぜ、前より動きやすいしな。」
「そうか、何よりだ」
「合って無くとも使いこなすさ!
それがこの〝柿原〟の強みだからな」
「何度死んでも生き返る、お前は本当に『失敗作』だ。」
「ふはは、まぁそう言うなリーダー」
攻撃は最大の防御、ならばその逆も然り..。
「なんだ、コレ...?」
「これが現実だ。」
「自由なんざありゃしませんな」
「ウーワン、ワンッ‼︎」
ブラスターが酷く吠えている。自由を奪われた動物達の悲痛をだれより嘆いているのだ。
「野郎っ、今すぐブン殴って..」
「待て、落ち着け。」
怒りを募らせるグレイトを制止させ施設のセキュリティを確認する。
「至る所に鍵が掛かっている、このままでは中へ入れない。」
「どうして判る?」
「電子ロックだ、一つを軸として全体の鍵を閉じている。開けるには一つ一つの鍵に記されたキーワードを集め入力し、解除させる必要がある。」
扉を閉める錠前の番号と記号を照らし合わせ、順番に並べて入力する。ガロスが調べた正面の扉の番号は①記号は初めから文字バーに電子文字で〝D〟と入力されている。
「番号が幾つまであり、何処に点在するかもわからん。だからと全員で動いては嵩張り過ぎる。」
「入り口手前で手こずんかよ、考えたくねぇな」
「ここは私と、小僧でなんとかする」
「俺もか!
一人でやってくれないのー!?」
「ワンワン!」
「ブラスターも来てくれ」「ワン!」
「ちょっと待ってくれ、ここは奴等のアジトだぞ。一人じゃ力不足だ、部下がどれ程いるかわからねぇし、周りの獣だっていつ放されるかわからねぇ」
『その辺は大丈夫だよ!』
「この声..ガキか!?」
いつぞやのメカニック野郎が、忘れた頃に通信を寄越した。今回は録音では無く生の声だ。
『久し振りお兄ちゃん。
人手不足の件だけど、僕たちの方で手頃な人を呼んどいた』
「手頃な人〜?
そんなにポンポンいるもんかよ」
『いるよ沢山、アイツらに恨みを持つのはお兄ちゃんだけじゃないからね。そろそろ到着するんじゃないかな?』
「..旦那、あれ!」「何..おいおい」
「......」「ふふっ。」「久しいな」
『助っ人は三人。
キラーズ通りの悪魔
〝キラーズ・グアトロ〟』
「.....!」「怖っ..!」
『男狂わしの夜姫(ヨルヒメ)
〝ブリュンヒル・マリア〟』
「酔い乱れようよ、一緒にさ?」
「そういやアイツ牢の番人だったな」
『銀弓(ぎんきゅう)のナイトレイ
お兄ちゃんの友達だよ。』
「戦友だ」
「..わかってんじゃねぇか。」
『これだけ集まれば充分でしょ?』
「ああ、有り余るぐれぇだよ‼︎」
戦力補充、宣戦布告。
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