第5話 真志のない創意

「ワン!」

新たな方位針(コンパス)を手に入れより脚を回転させる旅人グレイトマン

必殺を撃つ拳よりも確実に脚を稼働させている。

「ワンワン!」「何喜んでんだ?」

身体を弾ませ土を蹴る、この先に何か愉しげなものが待っているのだろうか

「ワン、ワンワン!」

「随分はしゃぐなオイ。

暫く一緒に歩いてるとわかり易くなってくな」

飼い主になって日は極めて浅いが、表情を見れば感情や思いが手に取るに判る。犬の振る舞いが単純なのか、グレイトの感受性が凄まじく鋭いのかは解らないが、確実に獣との共鳴を果たそうとしている。

「ん..おい、あれ見ろ」

「ワン!」「お前判ってたのか?」

ブラスターが小躍りする前方に、派手に聳えるドーム型の建物と、それを囲む街がある。世界のマップはどうやら何本かの道で繋がっており、極端に道に迷わなければ在るべき場所に辿り着く。グレイトマンはその中の一本を歩き進み続けていたようだ。

「前来た街より随分でかいな。

実は苦手なんだよな、田舎もんだからよ」

人が集まるところは立ち回りがまるで分からない。だからこそ宿を見つけすぐ篭る。元々交流が目的な旅では無い為人脈などいらぬし、寂しさも皆無。友達のいないヒーローなど、平和の要素の見当たらないドライなものだが一切の規制は無い。限られた独自の自然な表現だ。

「あら旅のお方?

丁度いいや、寄っていきなよ!

結構いいもの見れるとおもうよ!」

街に脚を踏み入れるやいなや奇抜な服装の派手な女にチラシを手渡される。


「あん、なんだ?

〝一番の変わり者は誰だ!

スタール町特技選手権!!〟へぇ〜。

おかしな事考えるもんだな」

「そうだろ面白いだろ!?

この街はそういう街なんだ、おかしくてユニークな奴が笑えるエンターテイメントを沢山繰り広げるのさ!!」

「あぁ..そうか、それよりホテルないか。なきゃ寝泊まりさせて貰える場所でいい。」

寝てない上に合わないノリの爆裂パーティ、とてもじゃないが参加する精神性は持ち合わせていない。

「遠慮しなさんな!

席だってすぐ埋まっちゃうよ?

大人気なんだからほら!」

「いいっての、こっちは色々大変なんだぞ、嘘つき集団に監視されたり視野の狭い村人に殺されかけたりよ。」

「ワンワン!」「どうした犬助?」

浮かぬ顔つきの下で揚々と吠え弾むブラスターの表情は、道を駆けていたときと同じ喜びに満ちた形をしていた。

「お前まさかこれを楽しみにして」

「ワンワン!」 「やっぱりか。」

「お目が高いねそこのワンちゃん!!

行かなきゃ損だよ後悔するよ!」

長らく村にいた分外の世界に興味があるのか悪戯に吠え上げては参加を煽る

「飯は出るのか?」「そりゃもう」

「終わった後に、いい宿を紹介してくれたりするか?」「ご希望であれば」

口約束がその場の賑やかしか本当かは怪しいが、所詮逃げ場の無い鳥籠の身出した答えは..。

「わかったよ、出てやる。

面白いもんが観れるんならな」

「決まりだね!

二名様ご案内〜♪」

押しに弱いお人好し、この時代には合わない優しい男だ。分かりにくいが。

「にしても賑わってんなぁ、本当の街人か。地下に人閉じ込めてねぇだろうな?」

「地下に人?

なんだいそれ、するわけないさ!」

「..まぁ、普通はな。」

「この街は謂わば中心街、目的のある奴はみなここに来る。小さい村人も、田舎の街人もね」

いわゆる都会に位置するこの街ではあらゆるエンターテイメントを取り入れており、パフォーマーやコメディアンなど目立つ事柄に携わる者であれば知らぬ者はいない程の憧れ強い場所である。

「パフォーマーねぇ..そういう連中にゃオレの事もそう見えてんのかね。」

「だと思った!

そのカッコ、お客さんもエンタテイナーかい!?」

「違ぇよ、オレはヒーローだ。」

「ヒーロー!!

懐かしい響きだね、私も小さい頃夢中になったよ。」

「ホントかよ」「ホントだよぉ!」

街を見渡せば大道芸やダンスなど、練習に派手な装いで練習に励む人々が多く伺える。皆が意気揚々と活発に動いており少なくとも、以前の街のような〝造られた白々しさ〟は見られない。

「ほらここが楽しいエンタメステージ

街の祭り場だよ!」

外からも見えた大きなドーム型建造物

間近で拝むと規格外のでかさで空を隠す程の圧迫感を誇る。

「さ、入るよー!」「ワン♪」

「入り口が何処にあんだよコレ。」

建物へ入るとごった返す程の人混みに溢れ、中で一つの街が出来ている。

周囲を観客席で囲み、中心に小さく金網付きのステージが備えられており、どうやらここでエンターテイナー達が腕を振るうようだ。

「人多すぎねぇか?」

「これでも少ないほうですよ!

今日は運がいいね、ささっこちらに」

ステージの目の前。

明らかに事前に指定され、座る事を決められたベストな位置の場所。誘われたのか、優遇か、聞けば外からの客人には質のいい席を設けるようにしているようだ。何故自分達なのかと問えば

「早いもの勝ちを獲得したのですよ」といやらしく狡猾な悪い顔でぬるっと簡単に言われてしまった。

「さぁ始まりますよ!

三つの照明が連続で照らされたら合図です!」

「ワンワン〜♪」

「そんなに楽しみか?」

ステージ中央の天井の照明が光る。

一つ、二つ、そして三つ...

「パーリナイ!!

さあ始まったよ変わりモンの祭典が!

司会はアタクシ、名を名乗る〜!?

名乗らなくてもわかるよね、そうそう

アタクシの名は〜..?」


「キャプテン・ビールズ〜!!」

「なんだアイツは?」

「ステージを取り仕切る名司会者さ!

知らない奴はいないよ!」

「知らない奴はいないヤツばっかだなこの街は..」

開始前から疲労を覚え、大歓声に包まれた空間から抜け出たいと心底思うが忠犬ブラスターがリングに齧り付き離れない為に拘束されざるを得ない。

「で〜は早速参りましょう!

一人目は..コイツだっ!」

「一人目?

誰かと戦うんじゃねぇのか」

「バトルは勝ち抜き戦だよ、一人が特技なりパフォーマンスを披露して点数をつける。ほら、手元にあるだろ?」

右手の脇にコードで繋がれた押しボタン式のスイッチが付いている。

「良いと思ったらこれを押す、それで点を稼いでいく。」

点数を付ける客達はスイッチャーと呼ばれ、いかに関心を持たれるかで評価が決まる。

「暫定王者はステージ内の玉座に座って次の挑戦者を待つ、挑戦者が勝てば玉座にすげかわり、負ければ留まる。まぁそんなとこさ!」

異色の異色のぶつかり合いだが、あくまでも個として、はっきりと見定める不戦勝やイカサマは通用しない。

「さぁお名前を教えてぇ!」

「ススキ・キョウコです」

「ススキのキョウコちゃんね!

それでは何を披露してくれるぅ!?」

「えらい普通の女が出てきたぞ」

「馬鹿言っちゃ駄目だよお客さん。

この街に普通の奴はいないよ!」

「変人って意味か?

異常って意味なのか?」

下手に目のこえた見方になるフィールドだがそれでこそのエンターテイナー緊張と歓声が糧となる。


「私、幽霊が見えるんです!」

「はっ..?」「クウゥゥン。」

「嘘〜!幽霊見えるの〜!?」

「今も見えます、ステージの右端に黒い影。左側に黒い髪の女がっ!」

「マジかよ..」「驚きですよね!?」

「違ぇよ、ある種はそうだが。」

まさかの小手先特技、典型的なやりにいった特徴。周囲はそれを知ってか知らずか大きな声で驚嘆している。

「なぁ、今からあんなのばっか出てくんのかよ」

「あんなのって何さ!

まだまだ序の口だよ〜?」

「そりゃクオリティの話か?

演出の度合いか?」


「昨日も金縛りにあいました!

痺れて動かない身体のまま目だけを開けると、そこには白髪のおばあちゃんが!」

「嘘だろぉぉ!?」「バカらし..。」

黒い影、長髪の女、老婆と霊感の三大テンプレートが揃った。改めて明確に言える、彼女はやりにいっている。

「すごいねぇ〜..それじゃあ判定だ!

今日の客は何人?一万人くらい?」

「もう判定すんのか」

「スイッチ忘れないでねお客さん、あとワンちゃんも。」

「ワン!」

「それじゃあ〜スイッチオン!

ジャッジジャッジジャッジ〜!!」

一斉にスイッチを押す。

数値はステージ手前の電子版に叩き出され、物理的な力を形にする。

「はい出たよ〜!

8600、8600点だよ〜ん!」

「8600..⁉︎」「ワン?」

超絶高得点、これにはブラスターも衝撃を隠せない。周囲は尚も歓声を上げ

ススキキョウコを讃えている。

「なぁ、この街コンプライアンスがついてんのか?」

「コンプライアンスなんて目じゃないよ、偶に来るけど追い返してるよ」

規制が入った訳じゃない、ならばなんだこの白々しさは。

「もしかすっとこりゃあ...」

「えっ嘘〜8600点ですか!?

絶対馬鹿にされると思ってたぁ〜」

「ビックリする高得点だったねー!

それでは玉座に腰掛けちゃって!!」

女は当然だという顔をして椅子に座った。不敵に口角を上げ人柄を良く表している。

「なぁおいこれって..」「次出るよ」

有無を言わさず挑戦者が現れる。その頃にはもう気付いていたが、グレイトマンは敢えて先を見続ける。

次に現れた男はモノマネを披露し、誰もが知っている歌を自己紹介と同じ声で歌い上げた。その次の女は変顔が得意と称して原型を留めた酷い顔を見せつける。その後にも挑戦者は出続けるがみな激辛好き、にわかオタク、人と違う感覚を持つと奇をてらう普通の奴元モデルの白ばくれる原石などそうそうたる面々が連なる。

「やってんなぁオイ」

それの誰もが高得点、一切の非難は無く喝采の賞賛。


「気付いてるか、ブラスター?」

「ワン。」「やっぱりか、流石にな」

これはコンプライアンスによる搾取では無い。いや、間接的にはそうといえるが、街の評価がおざなりにわかりやすくなり過ぎているのだ。それはひとえに時代の変化と、無意識なコンプライアンスへの回避によるものだろう。

「コイツら支配無くして操られてやがるのか、深く根を抉られてるな」

意識を残した洗脳は、完全な催眠を意味する。彼等は皆、目を開けながらに眠っているのだ。

「宗教は滅んだと思ってたがな」

「お客さん!

玉座が入れ替わりましたよ!」

「あぁ、そうだな。

..宿を紹介してくれるか?」

「なんだよ、もう帰る気か!?

ダメだよ、せっかく招待したんだ。最後まで見ていって貰うよ!」

「..そうかよ。」

途中で席を立つなど言語道断、奇抜なで楽しいパーティは、参加する事にこそ意義がある。

「だったら心底愉しんでやろうじゃねぇか...!」

席の背もたれを蹴り上げてリングの中へ、フェンスを越えて乱入する。

「ちょっと!

何やってんのお客のさん..?」

騒つく観覧。突如視界に見知らぬ者が侵入(はい)れば当然の事、一斉に困惑が広がる。


「チョットお兄さん?

いきなりなんのつもりかな〜!?」

「決まってんだろ、挑戦者だ。」

「え..あぁそういうこと!

皆んなゴメンねお騒がせ〜!!

挑戦者の登場だぁ!」

「なんだ演出かよ驚かせやがって!」

「大胆なやつだぜ!」

「なんだお客さんそういう事かよ!」

不本意な歓声を受けながらもなんとか誤魔化す事に成功した。

結論バカは簡単だという事が判った。

「それではチャレンジャー!

名前を教えてくれぃ!」

「グレイトマン、ヒーローだ。

パフォーマーじゃなくて悪りぃな。」

「構わん構わん〜全然オッケー!

さぁさ、何の特技を披露するぅ〜?」


「特技か..」

ぼそりと呟きマイクを取り上げる。これで司会者はカールした髭とシルクハット以外何も残っていない。

「ちょっとちょっと〜!

それはどういう演出なん..」

「お前ら本当に愉しんでるか?」

奪取からの諭し、観客は歓声を上げるでもなくキョトンと間抜けな顔を浮かべている。

「これを本当にエンターテイメントだと思ってるか?

本当に奴等を面白い逸材だとして褒めてるか?」

「何が言いてぇ!」

「うるせぇ黙ってろ!!」

「問い掛けといてそりゃないよー。」

重圧に怯え表現の限界に震え表面上の薄く脆いものを愛でている。真の娯楽や自由を取り戻さんと旅を続ける彼にとっては納得のいかぬ振る舞いな訳だ


「お前達は知らんだろ、本当の特性、本当の個性とやらを。」

本来現代には最早個性というものは無い。あったとしてもヨーグルト程の鮮度しかなく、直ぐに衰えて消えてしまうものだ。例えばイカれた偉い大人が個性を持つ者を集め組織を作ったとしても、光っていたのは個々の性質でありそれが一同に介してしまえば組織の色に変わってしまう。それは御免だとそこを抜けても変わりは無く、個性とやらはとうに失い、抜けたものには元〇〇と組織にいた痕跡が残る。逃げ場も選択肢も、まるで無い空の器だ。


「目立ちたいだけの奴は馬鹿だから、場所の使い方を間違える。それをお前らが持ち上げて褒めるから、己の力を過信して付け上がる。そんなクソったれた連中の為に、色が濃すぎて普通の場所じゃマトモに生きられねぇような目立ちたくもねぇのに目立っちまう変わりもんが潰されて言い訳がねぇ!!

面白い奴等を殺すんじゃねぇっ!」

マイクをステージ床に叩きつけ破壊する。物に当たるというよりは、怒りが物に吹き込まれたといっていい。拳をロクに振るえないヒーローは渾身の言葉で、敵を思いきり殴った。

「て..点数の発表です!」

「いらねぇよそんなもん!!」

言うだけ言った後は顛末を拝む事なくブラスターを連れて会場を出ていった

「クウゥゥ〜ン..。」

「気にすんなブラスター、もうここにゃ来ねぇよ。宿だって次の場所で探すさ、お前の飯だってな。」

「ワン!」

大きな場所ほど本質を見ない。規模のでかさに踏ん反り返り、一度でも己の遣り方に疑問を覚えないのだ。だから平気で不正をするし、弱者を馬鹿にする。自身が一番、弱く力を持たないというのに。コンプライアンスは干渉しなかったのではない。する必要がなかったのだ。

「行こうぜブラスター、お前がもっと楽しめる場所を教えてくれよ」

「ワンワン!」


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