第3話 作られた魅力

「広いな..!」

道を抜けた先、キラーズ通りが嘘のように活気のある栄えた街に辿り着く。

「あらごきげんよう、他所からのお客さんかしら?」

「街人か、ここはどんな街なんだ?」

「ここは見麗町(みうららちょう)、美しく端整な男女の街よ。結構有名なのなのに知らないのね。」

「見麗町ねぇ..。」

住人は皆美男美女ばかり、清楚誠実な出で立ちの者ばかりで皆が朗らかに笑っている。とても平和で美しい街だ。


「旅のお方なら寝床がいるでしょう?

案内するわ、ほらこちら。」

手を引かれ宿らしき建物へと誘われる

「ここでゆっくりとお休みになって。

中へ入れば、温かい御飯が食べられるわ。」

「悪いな、有難う。」「いえいえ..」

白いワンピースの清潔感のある女は控えめに首を振り、深くお辞儀をして向こうへ去っていった。

「見た目も良けりゃ中身もいいってか申し分ねぇなオイ。」

隙のない街人に感心しつつ勧められた建物の中へと入る。すると直ぐ前に机を介した受付に、すっぽりと身体の隠れる大きなコートを着用した女が佇んでいた。

「あらお客さん?

なかなかいい男ね、お一人様ね。」

「あぁ..連れはいねぇよ」

「名前は?」「グレイトマン」

ペンを握り、近くの紙に名を記す。これで正式なチェックインとなる。

「年季の入った衣装見たところ、当てのない旅路ってところね。服装だけを見ると、ヒーローかしら?」

「..そうだぜ。

当ては一応あるけどな」「やっぱり」

長年の勘というやつか、素性が見透かされたように暴かれる。観察眼とはこういう事だ。

「一応服の手入れなんてのもやってるけど、治してみようかしら?」

「んなことまでやってんのか、なら頼む。マントが煤けて破れてきちまってるからな」

「了解したよ!

それじゃあ部屋でゆっくりしてて、暫くしたら御飯を持っていくから。部屋にはシャワーも付いてるからね?」

受付の女はボロボロのコスチュームを受け取り、替わりに仮の服、部屋の鍵を渡して受付の奥へと下がった。

「致せり尽せりだな、まぁ宿だしな。

多少のサービスがあってもおかしくはねぇか、贅沢過ぎるが。」

部屋に入るとベッドが一つとテレビ一台、以外に物の少ない簡素な部屋だった。そんなものかと服を脱ぎ、シャワーを浴びに浴室を探す。


「扉を隔てて直ぐ風呂か。

ホテルなら普通なんだろうが、長らくこんな安定して宿には泊まってねぇ」

浴室に入り、シャワーのノズルの先から水を出す。

「冷てっ!

お湯出ねぇのかよ、こんなとこだけポンコツかオイ。」

ここに来るまでが完璧にほぼ近かった為不満が一層強くなる。しかし何故か部屋にフロントに繋がる通信手段が付いて無いため連絡がとれず、渋々冷水で身体を流す他なかった。

「浴びれるだけマシってもんだがなんだかな..中途半端なサービスだぜ」

他の客室に人がいるかは定かでないが、賑わっている様子は余り無かった他所から訪れる人は少ないのだろうか


「広い街なんだがな、動いてる奴はみんな住人か?」

高貴な人々が暮らす故少々敷居が高めなのかもしれない。

「それにしても..やっぱし〝力〟が入らねぇな。」

濡れる右の拳を握り、遣る瀬無く呟く

「一先ず今日は平和に済みそうだ。

ゆっくり休んで備えるか」

濡れた身体を綺麗に拭い、用意された服を着て、浴室を出る。 部屋に戻るとベッドの脇の小さな木製のテーブルに、トレーに乗った料理が置かれていた。スープに肉の炒め物、米の入った茶碗にお茶の類。ホテルにしては家庭感のあるメニュー。

「飯を運んで来てくれたのか。まるで王様だな、有難てぇ。」

トレーの横には先程受付で書いていたチェックイン用の紙が、板に閉じて置いてある。

「なんでこれが一緒にあんだ?

オレの名前が書いてある、伝票代わりって事なのか」

紙を板から外し、よく確認する。金額などの請求は特になく書かれているのは名前だけ。忘れただけかと思いつつ何となく裏をめくって見ると、そこには別の事柄が記載されていた。

「〝助けてください〟。

...こりゃあどういう事だ?」

大きく書かれた文字の下には

〝直ぐに食器を下げに参ります〟と事務的な言伝が綴られていた。

「どうも休めそうにねぇなこりゃ..」


見麗町の道にはゴミ一つ落ちていない

しかしゴミ箱は空っぽ。ゴミの出るような店やサービスが街に一切無いからだ。

「ウフフ、今日も綺麗な街。

清潔感は大事よね、もし汚す者がいたらみんな悲しくなってしまうもの..」

男は正装、女は清楚。それがこの街の特色かつ常識でもある。

「この街に不潔なものなどあってはならないものね?」

空気までもが透き通る。とても平和で良い景色だ。


「美味かったぜ、お前の飯。」

「..そう?

それは良かった。」

どこかよそよそしく、顔を背けながら返事をしている。

「で、紙の文字の件だが..」「しっ」

「全部食べてくれたんだね、嬉しいよ有難う。」

唇の前で人差し指を立て言葉を静止され、自然な会話が続けられた。

「あ、そういえばお客さん!

身長聞いてなかったね。ほら、服を直すのにさ、生地が足りないと行けないから!」

「身長?

んなもん適当で別に..」

「いいから!

ここにちょうど紙があるからさ、スリーサイズも教えてよ、ね?」

懐からA4程度の紙を取り出し伝票の上に重ね閉じ、ペンを取り出して傾ける。

「まず身長からだね、教えてくれる」

「そんなに気になるもんか?

..そうだな、身長は180..くらいだな」

「180..正しい数字言ってる?

一応自分でも確認してよ、ほら!」

「オレが自分で見るのか!?

..ったく、慎重過ぎやしねぇか」


「いいからほら!」

「わかったよ見りゃいいんだろ?

どれどれ...」

念入りな女の確認に呆れつつ、紙に書かれた数値を目に入れる。

「...!..」「......。」

そこに記されていたのは身長の数字では無く、はっきりとした文字だった。


『伝票の裏を見てくれてありがとうね

この部屋は監視されている。面倒だけど、筆談させてもらうわ』

複雑な状況を理解し、筆談に応じた。

「これ、間違ってるぞ。

cmがmだけになってる」

「え、あホントだ!

なんでこんなとこ間違えるかね。」

「貸しな、オレが書き直す。

消しゴムあるか?」

「これ、どうぞ。」「どうもな」

ペンをもう一本借り、もう一度紙に文字を記す。

『なんで監視なんかされてる?

だとしたら筆談もバレるぞ』


「これでいいだろ。」

「有難う、じゃあ今度チェスト教えてよ。」

「ちゃんと書けよ」「わかってるよ」


『背中で隠して見えない上手いことやってる。腕の動きまでは見えないよ。

だから会話を続けながら、筆談してくれる?』

「……。」

その後も普通の会話をしながら、筆談を続けた。

『助けてくれってのはどういう事だ?

何が起きてる』

『ここに来る前、少しだけ街を歩いたと思うけど違和感を感じなかった?』

『違和感..?

普通に綺麗で明るい街だったが』

『ホントに普通だった?

綺麗で明るい事に、疑問を一つも感じなかった?』

「......。」

言われてみれば、不自然ではあった。

街は豊かで平和だったが、人々はまるで〝意図してそうしている〟ように感じた。

『言われて気付いたが、変な感じがあった。綺麗に思わせてるっていうか、白々しい様な風味がした』

「..あんたやっぱりヒーローだね。」

「なに?」

「服はもう出来てるから、後で受付に取りに来て、じゃね!」

紙をクシャクシャに握りポケットに入れ、手を振って部屋を出た。用が済んだらお暇、斬新なルームサービスだ。

「..ならサイズ聞く必要無かったんじゃねぇのか?」

直すだけならそもそもいらぬ。


「いい天気ねぇ、花も元気に笑っているわ。」

「やぁ、元気かい?」「あらミルス」

豊かな陽の光の下、朗らかな男女が挨拶を交わす。

「お散歩かしら?」

「ああ、とても良い天気だからね」

「こんな日は、絶好の散歩日和よね。とても気持ちが良いわ。」

「それより例のお客様はどうだい?」

「ああ!

あの強そうな英雄さんね、今は宿に泊まっているそうよ。」

「宿に?

そうか、なら心配はないね」

「ええ!

何も気にする事はないわ、全て平和に済むことよ」

「そうだね!

気にする事はない、一緒にお散歩しよようか!」

「ええ、そうね!

是非、ご一緒するわ!」

朗らかな男女は元気に歩いていった。


「おーい!」

言伝通り受付に服を取りに来たグレイトマン、しかし女の姿は無い。

「いねぇのか?

身代わりみてぇにでかい箱があるが」

おそるおそる開けてみるとそこにはマントとコスチュームが畳まれ収納されていた。

「なんだ、あるじゃねぇか..ってなんだコリャ!?」

服には以前と異なりレザー生地によって独自の表現が施されており、マントも若干重みを増している。

「アイツ..勝手に装飾しやがって。」

不満はあるが剥がす訳にもいかず、その場でそれを着用し、着ていた服を箱に返した。

「重て..ったく、なんだってこんなゴツい仕上がりに..ん?」

マントの服の間から、紙がはらりと床へ落ちる。真ん中から二つに折られ、折目がくっきりと付いている。

「何だこれ、請求書か?」

紙を拾い広げてみると、何やら道筋のようなものが描かれていた。

「こりゃあ..この宿の地図か?」

受付をスタートとし、迷路のように線で道が記され、奥の部屋らしき場所の中心に星印が付けられている。

「ここに行けって事か?」

謎解きめいたメッセージだが、忍ばせたのには理由があると道を辿って進んでみようと試みる。

「障害物は特になしか、地図を辿れば簡単に着くな。」

客室の連なる道を行き、奥へと進む。グレイトマンの泊まった部屋が、比較的宿の入り口に近かった事もあり少しばかり距離を感じるが気になる程では無く、恐らく女が意図して指示をしやすい部屋へと誘導したのだろう。

「右側に道なりに進んだだけだが、この先か?

星印のあるのはこの扉の先らしいが」

左右に着いた客室の扉とは異なり、壁の中央、明らかに別の場所へと繋がる扉を進んだ末に発見する。

「進んでみるか」

他に目ぼしい箇所も無く、素直に目の前の扉に手を掛ける。罠の一つも作動せず簡単に開き口をあけたその先には、下へと降りる薄暗い階段が続いていた。

「ここは一階、って事は地下があるのか?」

何がしかの部屋なりに通じていると思いきや、地下室への入り口となっていた。念の為扉を閉めたあと、一段ずつを確認しながら星の印へと降りていく

「災害用のシェルターか?

満室時の予備の部屋でもあるのか」

様々な憶測を浮かべながら降りていくと、周囲が徐々に明るくなっていく。

完全に階段を降りきる頃には景色は充分明るくなり、辺りを見渡せる程になっていた。

「狭っいな、どれだけ広い場所かと思えばホントに申し訳程度なんだな」

面積自体はそれなりの広さを持つ筈なのだが大きな荷物が積まれている為人の入るスペースは極限られたものとなっている。


「この赤いカーテンみてぇのは何だ?

部屋の半分以上を占めてるが」

「気になる?

地下に態々置かれたものだもんね。」

「お前..!

急に出てくんなよ、ビビりゃしねぇけど。」

部屋の探索に夢中でいる内に、受付の女が顔を出した事に気が付かなかった

「よく辿り着いたわね。」

「苦労はしなかったぜ、お前の地図よお陰でよ。」

「そう、それは良かったわ」

「ここは監視されてねぇのか?」

「ええここは..する必要が無いから」

寂しげな口調で呟いた。

重たく何かを担ぐような、苦しそうな顔をして、下を向いている。

「で、そんな安全圏にオレを呼び出して何しようってんだ」

「そうね、先ずは自己紹介から始めましょう。」

「おい、お前何やって..」

目の前で分厚いコートを脱ぎ、床に捨てる。中には露出のかなり多い際どく色っぽい服を着用していた。

「なんだそのカッコ」

「これが本当の私なの。」

「なんで隠すんだ?

好きな服着て歩きゃいいじゃねぇか」

「着させられてるのよ。

じゃなきゃあんな厚いコート、誰が着るもんですか」

偽りの服を着せられて、本来の自分を出さないでいた。酷な事である。

「誰にんな事やらされてんだ、なんでお前だけんな状況に...」


「私だけじゃないわ!」「..何?」

女が赤いカーテンを一気に下へ引く。すると鉄格子が現れ、中には似たように露出の高い服装の女が、大量に監禁されている。

「何だよこりゃあ..!

どこのどいつがこんなこと..」

「街の連中よ。」「..なんだって?」

「あの街は作られた街、住人は皆コンプライアンスの幹部よ!」

「街ごとかよ。」

感じた違和感はこれだった。コンプライアンスが街の住人全員を監禁し、ごっそりと新たに作り変えたのだ。

「もともと見麗町は色気と欲望の街だった。飢えた男がふらりと来ては女と戯れ酒を酌み交わす。他所からの客が絶えない酔狂な街だったのよ。」

「まんまと的にされたのか..」

派手な街に睨みを効かせたコンプライアンスは〝街の風紀が子供に悪影響〟

〝住人である女性の振る舞いは蔑視にあたる〟などと清楚で純朴な女性と誠実で真面目な男性で街を埋め尽くした


「性に関しちゃ特にうるせぇからな、

あいつらは。」

「冗談じゃない!

..過信するつもりは一切ないけどね、男たちは私達の色気を求めて街に来てたんだ。猫かぶってかわい子ぶってる女に街ごと奪われるなんて、許してはいけない事よ」

本当の魅力が、上辺だけの薄っぺらに殺される。やるべきで無い者共が、本当にやりたい者共の席を盗っていく。

「でもどうすんだ?

街程の規模じゃ仕返しのしようが無いと思うぞ。」

「そうなのよね、私はここの監視も任されていてね。皆をここから出して反撃をしてやろうと思ったこともあったけど、この格好で街を歩いただけでも牢屋に戻されてしまう。」

地下にカメラが付いていないのは、女が直接任を負っていたからだ。

「本当は痛い目見させたいだろ?」

「ええ、ゴミを捨てる事すら嫌う程美化されたあの街を存分に汚してやりたいわ。」

以前の酒と性にまみれた街に、心地よい欲望の世界を取り戻したい。

「..待て、汚れればいいんだよな?」

「そう、それが望みよ。」

「オレに手がある、今すぐ檻の錠を外せ。」

「え?」「人手が多く必要だ。」

「それと..着替えの準備をしてくれ」

「..着替え?」

言われた通りに檻を開け、元の住人を解放する。その後もいくつかの指示を受け、準備を開始する。

「いくぞ.,!」

街を規制に奪われた人々の、汚れし復讐が始まる。


のどかで平和で豊かな街、見麗町。

今日も柔らかな陽の光の元、素敵な生活が続く。

「オーナー!

ケーキを一つ頂けるかな?」

紳士服の清潔な男がケーキを頼む。

「当然構わないさ、何にする?」

「イチゴのショートケーキがいいな」

注文すると直ぐにケーキが現れる。皿に乗り、フォークを携え、ゴミが出ないようセロハンは付いていない。

「さすが、美味しそうだね!」

「当たり前さ、笑顔になってほしいからね。食べてくれる皆んなにさ!」


「君ってやつは!

さっそくいただくね。」

男はフォークで切ったケーキの切れ端を口に含む。

「どう?

美味しいだろ、僕のケーキは。」

「.....」「どうした?」

「これ、変な味がするよ。」「何?」

一気に顔色を変える客の男。

「そんな筈はないよ」

「一度自分で食べてみなよ。」

オーナーに返すように勧め確認を煽る

「そうかい?

それでは食べてみようかな」

己のケーキを口に運ぶ。複雑な行動だが、今の自分の実力を知る事の出来る貴重な瞬間だ。

「うむ、これは...辛い!

なんだこれは、辛過ぎるぞ!」

舌を燃やし、悶えるオーナー。ケーキから辛味など、聞いたことの無い衝撃が走る。

「お前ら、スタートだぜ?」

「わかったよ!」

複数の声が返事する。それと同時に店中から悶える声が。

「なんだ!?皆どうしたんだ!」

「黙ってろ、復讐の邪魔だ」


見麗町広場

「あら、あれはなんですの?」

〝絶品クリームパイ〟の 看板が、若い女性群の目に止まる。

「クリームパイ?

優しくて美味しそうですね、少し寄って行きましょうか。」

甘く柔和な誘惑に釣られ、多くの女性が足を止める。

「お姉さん?

クリームパイを一ついいかしら」

看板の横に立つ女に詰め寄り注文を始める街の女達。

「わかっているわ、皆さん席について

特等席を用意したわ」

椅子の付いたテーブル席が設けられ、そこに一人ずつ腰をかける。待っているとパティシエールが一人一人に付き目の前で調理器具を広げる。」

「まぁ素敵!

目の前で作ってくださるなんて」

「当然です、我が店では皆様に一人パティシエールが付き、目の前で調理、

完璧に出来上がれば出来立てのクリームパイをパティシエールが直接顔面に、ご馳走するサービスを担っております!」

出来立てのクリームパイを思い切り顔に投げつける。清楚な女の顔は真白に染まり、甘い香りを漂わせている。

「何をするのよ!

これのどこがサービスな訳!?」

こぞって文句を言いに迫る。もオーナーに近付く事はままならず、途中で足を滑らせて床に転がってしまう。

「大丈夫ですか!?

お気をつけください、床はローションまみれとなっております。驚く程滑りまくりますよ?」

「な、何よコレー!!」

悲劇は街中で巻き起こり、全ての店、住人が何らかの被害を被っている。


「成功だな..!」

企画をしたのは全てグレイトマン。勿論原案は他の者が発想を元にしたものだが、取り敢えずは成功を納めた。

「凄いね、どこで思いついた方法なの

こんな遣り方?」

「受け売りだよ。罰ゲームをよく考えてる知り合いがいてな、そいつの力を借りた。勝手にだけどな。」

余裕や規模があれば、企画はここまで機能する。規制すらも突破できる。

「もう正装は必要ねぇな」

取り繕った衣装を脱ぎ捨て英雄の姿へ戻る。レザー生地に慣れていない為に違和感は生じ続けるが、正装よりは余程マシだ。

「今、街に付けられたカメラを一つずつ潰してまわってるよ。これで監視に怯える事もなくなると思うわ。」

失われていた街の活気が、徐々に戻りつつあった。もはや規制の概念は無く偽りの美しさも断ち消えた。


「お前らか!

街をこんなに荒らしたのは!?」

「誰だ」

「この街の管理人だよ。」

白いスーツで現れた、コンプライアンス『性表現科』の片桐。彼がカメラの映像から環境を管理し、虚偽の街並みを作り出した張本人。

「宿に入ったときからおかしいと思っていた、まさかここまでやるとは..タダで帰れると思ってはいまいな!」

「..悪りぃが元々それが目的で旅を続けているんでね。それにオレじゃなくて、他のところ見た方がいいぜ?」

「なに?」「そうだー!」

左右で投げられた酒瓶が中心で割れ、二瓶分の酒が頭から降り注ぐ。

「うおっ何をするぅ!!」

「最早お前に管理できる箇所はねぇ。

いばれる時間は終わったんだよ」

平然と男を通り過ぎ、街の出口の方角へ向かう。次の旅路の歩みを進めるのだ。

「..有難う!

また機会があれば、街によってね!」

「ああ!

美味かったぜ、お前の飯。」

最後に残った一番強い思い出を伝え、振り返る事もなく、颯爽と歩いていった。欲と娯楽は、世界の為に取っておく。いずれ訪れる、自由な表現ができるその日まで。

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