13話 密室殺人事件との戦い

「失敬、つい年甲斐もなくはしゃいじまって。しかしこのヘルメットはそれほどのものなのだよ。これで助かる命がある」

 ひとくさりうんちくを語りつくすと、ヒョンヒョ郎は急に我に戻り、照れ笑いをしながらヘルメットをいったんジバコに返した。ジバコは何度か受け取り損じて、中空で手をぷらぷらさせた。それからヒョンヒョ郎は無言でジバコにいじられたスイッチやらギミックやらを元に戻した。あれで怒らないのだからこの人は人間ができているなあとKは感心した。

「伝馬さん、単刀直入にお願いします。このヘルメット、私にゆずってはもらえないだろうか? もちろんお代は払わせていただく」

「あ、いいですよ。なんかよくわかんないですけど。それもうボロいですし。愛着あるわけでもないですし」

 ジバコはなんの屈託もなく、ヘルメットの所有権譲渡の申し出を受け入れるに差し支えない旨の返答をした。あまりのあっけなさに、ヒョンヒョ郎の方が「え、いいの」と狼狽する始末であった。

「ま、まあ、ゆずってくれるというのであればこちらとしては願ったりかなったりだ。それで代金ですけど……」

 ヒョンヒョ郎が袖口から財布を取り出そうとすると、ジバコは手をパーに開いて制止した。

「うーん、でもこのヘルメットってこの部屋のロッカーの奥底になんかはさまってたやつですし、別に私のもんでもないですし、しいていうなら学校全体の所有物みたいなもんですし。て考えると、私がお金もらうのも変ですし」

 ということを、ジバコはヒョンヒョ郎とはあさっての方を向いて、英字がプリントされた生徒に対して述べた。生徒は「おれにまだ出番があった!」と小躍りして、はにかみながら「アイ、シンク、ソー」といって自らの使命を果たした。

「あ、そういやヘルメットあげるから、かわりになんかで頭ガードしなきゃ」

 突如思い出したようにジバコはあたりをきょろきょろした。いろいろ大変ですなあ、とヒョンヒョ郎が静観していると、おもむろにジバコは棚に転がっていた室内用の使い古されたスリッパを頭に載せやがった。周囲の生徒らはさぞかし名案な公案を見るかのような目で会長たる人物を眺めていた。ただ一人、ヒョンヒョ郎だけは「それはない」と思った。

「伝馬さん、口幅ったいことをいうようだが、それはちょっとこう、あれじゃないかね」

「いえ別に」

「そのほら、あんまり頭を守れない気がするし。ちゃんとJIS規格とかに適合したやつじゃないと。いや、ほんとはもっと根本的にいいたことがあるんだが。しかしともかくスリッパはやめとこう」

「はあ、考えときます」

 ジバコはこの人は何を心配しているのだろうかと困惑気味に気のない返事をした。その感じを見るやいなや、ヒョンヒョ郎は持ち前のおせっかい精神を発揮して、「こいつはこのままだと特になんもせんな」と直感した。

「いまからヘルメット選ぼう。そう、いますぐこの場でだ。ネット通販で。はい、このサイトで選ぼう」

「まあ、そこまでいうなら」

 最初こそ気乗りしない感じのジバコではあったが、しかしそれは行為の実態に想像が及ばないことによる当惑や警戒だっただけにすぎず、実際にヘルメット購入の検討をはじめると興が乗ってきたようで、自分の意見を積極的に出していった。

「伝馬さん、きみがどうしてもというのなら止めはしないが、カテゴリがおもちゃでもあるし、これかぶっても変身なんてできないし、私はよした方がいいと思うんだが」

「伝馬さん、これは寸胴鍋というものだし、すっぽりかぶってしまうと前が何も見えなくなると思うんだがどうだろうか。えっ、中学生のころはこういうのもやってた時期があるって? ええっ」

「伝馬さん、いや、予算については心配しなくてもいいんだが、この、直江兼続のやつはさすがに攻めすぎではないだろうか」

 といったやり取りを経て、どうにかこうにか、ヒョンヒョ郎はジバコのために無難かつ実用的なヘルメットを購入して、一週間以内に学校に配達されるように手配した。

「どうも、ありがとうございます。おゆずりのヘルメットの対価ってそれでもういいですよ。私だけ得したみたいで悪いですけど。んじゃ、私やることありますんで決田さんもお元気で。あんま人殺しちゃだめですよ」

 ジバコは宿題みたいなもんがあるとかいって、「生徒会長」としたためられたプレートが置いてある事務机に向かってボフッと着席した。腰掛けるとき、「はー」と億劫げなため息を吐いた。机の上には印刷物やら分厚い紙ファイルやらが山積してある。

「締切り迫ってて大変なんすから」

「そうだ、もののついでというわけでもないが、私でよければその締切り、多少の手助けをさせてもらえないだろうか。このヘルメットにはそのぐらいの値打ちはある」

「いいんですか。実はこれ今週までなんですけど全然終わんなくて――」

 ジバコはけだるい感じでPCのモニタを指差した。ヒョンヒョ郎は「どれどれ」と身を乗り出した。PC使わにゃならん宿題あったっけ、とKも釣られてのぞいてみると、Microsoft Wordのファイルが開いてあった。Kにとっては心当たりのない中身だったので、授業の宿題ではないような気がしてわずかではあるが安心した。

「伝馬さん、これは授業のレポートか何かかな?」

「えー、うーん、レポート、なのかなあ。よくわかんないですけど」

 目下のところ、開いているページはほぼ白紙のようである。なんとはなしにファイル全体のページ数を確認すると、「7/103」という数字が視界に入り、思わずヒョンヒョ郎は「うぇっ」と短い悲鳴を上げた。

 うろたえつつもヒョンヒョ郎はマウスホイールをからころ回し、タイトルページを確認した。明朝体太字サイズ48で『県立七七高等学校長期計画報告書』としたためられていた。いかにも公的書類然とした手ごわくもおもしろくなさそうな雰囲気をただよわせている。

「これは……なんだろうか?」

「えー、まー、見てのとおりなんですけど。私もよくわかんないんですけど。でも、それ出さないと電気とか止められるって。かもですけど。なんかあ、文科省の人がわーわーいってきてて」

 ジバコが、うんざりする重さの紙ファイルをばったんばったん手繰りながら語ることにはこうである。そもそも長期計画とやらが何かというと、文科省が全国の公立学校に提出を求めている資料だそうで、基本的には三十年ごとに出させているものとのことである。あと、毎年単年度計画というのを出させて、中期計画というのを五年ごとに出させている。七七高校では昨年度がこの長期計画に関する資料を提出する年度となっていたのだが未提出なのである。それゆえ、現在の生徒会長であるジバコは、担当の文科省職員に火矢のような催促をされているとのことである。


 ジバコが生徒会長に就任した日、会長の椅子に尻をつけたかつけないかというタイミングで机の上の電話が鳴った。

「はよ報告書出さんけワレなめとったらあかんどワレ何さらしとんど」

「失礼ですけど、どちらさまですか」

 文科省職員がいうには、締切りは昨年度の二月でもうとっくに過ぎているがどういう了見か、とのことである。

 しかし、このときのジバコは引継ぎ事項にそんなものはなかったので、本当に何も知らなかった。「すみません、なんか引継ぎしたときのごたごたで漏れがあったみたいで。すぐ確認します」というような感じでなんとかごまかした。

 そうして稼いだ時間で、昨年度の生徒会長に聞いてみることにした。困ったことがあったらかけてと教えられた番号に電話してみると、「おう、会長殿。どうかしたか」と聞き覚えのある声が応答した。

「ちょっと確かめたいことがあるんですけど」

「なんでも聞きなさい」

「なんかあ、文科省の人が長期計画報告書がどうとかいってきてるんですけど」

「うっ」

 電話先の前会長は「痛いところを突かれた」といった感ありありの声を出すと、数秒ほど沈黙した。ややあってのち、電話口から裏声が聞こえてきた。

「弟はちにまちた」

「え」

「ついさっきのことです。持病の外反母趾と顎関節症で突然」

「いやちょっと、そういうのいいですから。昨年度が提出期限だったみたいなんですけど」

「家族葬につき献花、香典は辞退しております。では会長もご自愛ください」

 それで電話を切られた。すぐにかけ直したが、果たして前会長は出なかった。しかたなく、前会長の自宅に押し掛けたところ、エクステをつけてスカートを履いた前会長が応対に出てきて、やはり裏声で「弟はちにまちた」といってきた。さすがのジバコもアホらしくなり、と同時に前会長が哀れに思えて、それ以上追及する気にもなれなくなった。せめて通知案内文と報告書のテンプレートファイルのありかでいいから教えてくださいと頼むと、たちまち前会長は憑き物でも取れたようなすっきりした表情になり、地声でそれらの存在と謝罪の言葉を語ったのだった。

 明くる日、ジバコは生徒会室のPCとキャビネットをあさって、長期計画報告書とやらに関係する資料を見つけ出した。想像を超える量だった。文科省から来た通知文の日付をあらためると、呆れたことに四年前だった。


「だろうよさ。ざっと見た感じだけど、伝馬さん、普通はね、将来構想委員会とかワーキンググループとかそういうのを作ってみんなで手分けして数年かけて作る資料だよ、これ」

 ジバコの説明に、ヒョンヒョ郎も心底呆れた声を出した。

「でも文科省の人は今週中に出せって。正確には金曜日の日付が変わるまでですけど」


 ジバコが文科省職員からの責めをかわして一週間が過ぎようとしていた。何もいってこなかったし、もしかしたら向こうも忘れてたりして、とジバコは手前勝手に安心しそうになったが、その隙を見計らったかのように電話が乱暴に鳴った。

「報告書見つかりましたか」

「はあ、すみません。ちょっとだけ、てにをはのまちがいを直してるところです。もう間もなく出せると思います」

 今度は三日後に電話が鳴った。ジバコももうすっかり慣れっこだ。

「まだですか」

「えっとですね、なんかあ、四月から新しく来た先生がいて、その先生も一回目を通したいっていいだしまして。今週職員会議がありますから、そこで最終確認したらもうすぐ出します、はい」

 もちろん新任の教師なんていなければ、職員会議だってあるかどうかなんて知らない。しかしともかく、ジバコはまんまと言い逃れてゴールデンウィークに突入した。休みの間中、無人の生徒会室の電話が鳴りっぱなしだったのもむべなるかな。

 そして休みが明けた。久しぶりに生徒会室にジバコがやってくると、既に部屋の電話が絶叫のような呼び出し音を響かせていた。

「久しぶりやんけワレ何しとったんどワレごっつう久しぶりやんけオンドレ今日中には出さんといかんど」

「正直いいますけど、実はまだほぼ白紙です」

「え」

 その一声を最後に、受話器から人の気配が消えた感じがあった。ややあってほかの職員らしき声が電話口から聞こえてきた。

「失礼しました。そちらとお話ししていた藤岡が突然気を失ったもので。ああ、お宅は七七高校ですか。藤岡はお宅から長期計画報告書が出ていないことをずっと気に病んでいたんですが、休み前ですかね、ようやくそろいそうだって。彼のあんなうれしそうな顔、久しぶりでしたよ」

「ぶっちゃけますけど、実はそれまだ全然できてません」

「ハハハ、感心しませんな、そういう笑えない冗談は。刺されても知りませんよ。では今週中の提出をお待ちしています」

 電話を切ったジバコは地の底まで届くようなため息をついた。呆然と長期計画報告書のテンプレートファイルである「jlt-p589-12.docx」を開いた。もう何度確認したかもわからないが、やはり依然としてほぼ白紙である。ページをさーっと眺めてみたが、やはりとても終わるとは思えなかった。


「それが今朝の話ってわけです」

 ジバコは淡々と語った。投げやりな印象もなきにしもあらずだが、しかし考えてみれば、くだんの報告書の進捗がほぼゼロなことは長年にわたる歴代の生徒会長らの怠慢が原因であり、生徒会長になったばかりのジバコに責任を問うのは酷である。ひとえに運が悪かったとしかいえない。


 思えば、ジバコが生徒会長になったことからして運が悪かったことがすべてであった。七七高校ことチッチに入学したKやジバコのような生徒に限らず、生徒会長なる役目について、推薦入学とかそういうのを当て込んだ下心なしで純粋な気持ちでやりたがるやつなんざ、はっきりいえば狂人(きやうじん)である。だれもやりたがらないところを、担任の教師が無理強いして立候補させるのがふつうである。チッチがふつうとはややちがったのは、この高校の教師はおしなべて生徒に対して積極的に関与することがなく、生徒の自主性と自治を大義名分に管理指導を放棄していたことである。ゆえに、尋常なやり方ではいつまでたっても生徒会長選挙の候補者が現れない。とはいえ、生徒会長を決めぬことには学校運営もままならない。そこでいつからかは不明だが、じゃんけんで負けたやつにやらせる、という取り決めになっていたのであった。

 各クラスで、まずは隣りの席の生徒とじゃんけんぽん。このあたりではまだ負けたやつも苦笑いだの照れ笑いだのをする余裕がある。しかし、四十人が二十人、二十人が十人、十人が五人と人が減っていくにつれて、残った生徒の顔からだんだんと笑みが消えていく。とはいえ、まだ各クラス代表で五十人もいる。率でいえば五パーセント未満である。全員、なんの根拠もなく、自分だけは大丈夫と思いながら決戦に臨む。そうやって交通事故とかで人間は死んでいる。

 全生徒が見守る七七高校生徒会長選抜じゃんけん決勝戦の結果、ジバコはすべてのじゃんけんに一度たりとも勝つことなく、学校一じゃんけんが弱い人という称号を獲得すると同時に、生徒会長をやらされるはめになった。高校に入ってまだ右も左もどころか上も下もおぼつかないところで時には天井を歩こうとするほどであったため、生徒会長を拝命することによって我が身にふりかかる災禍の程度は知る由もなかった。だが、最後の最後でジバコにチョキで勝った三年生が過剰な緊張から解放されたことによる反動で人目をはばからず泣き崩れたことから、根が楽観主義なジバコですら「なんかやばいっぽい」と察するものがあった。

 七七高校生徒会長の仕事内容は激務である。複雑な経緯をたどった末、チッチの学則の第一条にはこう書いてある。

“七七高等学校(以下、本校)の生徒は、生徒ら自らが決めた方法で生徒の代表を選出し、生徒会長に任命する。生徒会長は本校の運営に関して全権を持つと同時に全責務を負う”

 売店の業者の選定とか、用具購入の手続きとか支払いとか、教師への給料計算と銀行振り込みとか、教師の人事とか、大学への推薦手続きとか、とにかく学校運営における公務の小事から大事まですべてを生徒会長がやることになっている。

 初代生徒会長が闘争の末に勝ち取った権利ということになっているのだが、初代は就任から一か月後に過労死した。最後の一週間は睡眠時間が十五分だったといわれ、司法解剖の結果、脳の全域にわたる出血が起こっていたそうである。この初代は、前々からけしからんと思っていた教師を全員クビにしようとしたのだが、当然のように裁判を起こされ、それにかまけているうちに給料の振込手続きがおろそかになり、給料不払いということでそれでも裁判を起こされ(多分に教師らによる意趣返しもあったのだろうが)、その間にも中期計画書を出せ県の教育審議会に出席しろこの設備を修繕しろなどとありとあらゆる界隈からありとあらゆる命令だの請求だの依頼だのを受け、そんな中でも初代はくそまじめに授業にすべて出席しようとして、その挙句、生徒会長の席で息を引き取っているところを発見された。

 歴代の生徒会長らが少しずつ業務を効率化していき、現在では適度に手を抜けば死ぬほどではなくなったが、それでも大変な仕事であることには変わりはない。今日のジバコだって、早朝に生徒会室でメールを確認すると、午前中は担当弁護士との打合せで外出していたところであった。ちなみにジバコ、というよりかは七七高校の代表が現在起こされている訴訟とは、初代生徒会長が過労死したことについて遺族から起こされた案件である。ジバコとしては「知らんし」としかいいようがないのだが、じゃんけんで負けてしまったのだからしかたがない。


「もうこれまじめにやっても終わりそうにないですし、うちの校歌とか象の産卵とか四書五経なんかを延々コピペして空白埋めて提出しようかと」

「期限内に何か出てなければゼロ点以外はつきようがないのはそうだが……」

 ジバコは死刑執行を待つ囚人のような不景気な顔で不安げにマウスをカッチンカッチン鳴らした。ヒョンヒョ郎は案内の資料を、彼にとってはちょっと努力するぐらい、常人からすれば超人的ともいえる速さで、目を通した。

「ざっと読んだ感じだが、前回の長期計画にもとづくこれまでの三十年間に関する総括と、これからの三十年間に関する計画と構想とそれに伴う数値目標を書かにゃならんらしい。で、前回の長期計画もパラパラ見てみたけど……、なんとまあ、たいした夢物語が書いてある。額面どおりで簡単に埋められそうなのは大学進学率とか退学率とか、そのぐらいかね」

「ですかねえ。まあそれは三十年前に計画立てた人が悪いわけですし、だいたい私なんてまだ生まれてないときの話じゃないですか」

 ジバコの愚痴に、ヒョンヒョ郎は無言なれどうんうんとあいづちを打った。

「しかしだ、とにかく出すだけは出さないと。見ただろうけど、ほら、ここの評価のところ。『3 特に優れている。2 順調である。1 改善を要する』まあこのへんは実質的にはなんだっていい。この下がまだある。『0 顕著な改善を要し監視の対象とする』なんて書いてある。どうもこれ、文科省かどっかから監視官が派遣されて、その人らが学校運営にいろいろ口出ししてくるそうだ」

「そう、それなんですよ。0取ると年末の県議会なんかで滅茶苦茶つるしあげられるでしょうし、のみならず運営費交付金も打ち切られるって。授業料なんて教員への給与と土地建物の固定資産税やなんかで消えます。となると、備品の整備とか設備の修繕とかもできなくなりますし、たぶん、電気ガス水道の料金も払えなくなるんじゃないですか。そうなったら今度の夏は地獄じゃないですか」

 夏にクーラーがつかないかもしれないことをジバコの口から告げられた生徒らは、そこでようやく事態の重大さを認識して、おおいにどよめいた。

「水分補給だ」

「校庭に井戸掘ろう。AMDAにお願いしたらノウハウ教えてくれるかも」

「井戸掘って水が出なかった穴をトイレにすれば一石二鳥だ」

 だれかれとなく意見を大声で出していき、最終的に実にいい考えが浮かんだといった空気が周囲に醸成され、チッチの生徒らは歓声に沸いた。ジバコも「スコップ買うぐらいのお金はあったかな」などと出納帳を確認した。

 方針が明確になった生徒らは実に元気いっぱいな気勢になった。

「会長、金なんてどうにだってなりまさあ! あっしら、貧乏には慣れっこだ」

「おれもう学校でトイレしない!」

「じゃあ、おれなんて一生トイレしない!」

「ベルマーク集めてハワイへ行こう!」

などと怪気炎を上げていた。思わずジバコも「いつもすまいないねえ……」と涙ぐむしぐさを見せた。しかしその場でただ一人だけの部外者たるヒョンヒョ郎は努めて冷静に「それはない」と思っていた。

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