10話 密室殺人事件との戦い

 生徒会室に入るのは初めてで、外から見た印象よりも奥行きがあるように感じられた。使い込まれた末にダクトテープで補修されたソファベッドが入ってすぐ横に置いてあった。ご苦労なことである。

「いた」

 部屋には無事に決田ヒョンヒョ郎がいた。いなかったらちょっとばつが悪いなと心配していたKは、ともかくクラスメイトらに面目が立ったとちょっと胸を張った。

「おー、あの人がね。顔は初めて見るけど、格好は確かにそれっぽい」

「どういう店行ったら売ってるのかね、ああいう服って。洗濯もめんどくさそうだし」

 ヒョンヒョ郎はクリスマスツリーか雛壇飾りかを彷彿させる格好をしていた。社交辞令的にいえば大変にみやびやかな生地がメカニカルなジョイントでつぎはぎされた有り様で、暇を持て余した高校生どもにとっては格好の好奇の対象であった。

 もしKがまだ小学生ぐらいのいたいけな児童であれば、「うわあ」などと底抜けに純真で無邪気で無思慮な感嘆の声を漏らしながら遠慮会釈なしにおもしろそうな衣服を触ろうと試みて「何しやがるこのガキ」などとたしなめられていたのだろうが、さすがに高校生ともなれば小さく「うわあ」とつぶやくにとどめられた。その自制心に、Kは我ながら成長したものだと自画自賛せずにはいられなかった。


 この後、しばらくヒョンヒョ郎が話題に出てくるため、読者心理としては彼が善人であるのか悪人であるのか判然としなければ感情移入しづらいのではないだろうか。個人的には、そういった不安定な心情で物語を読み進めるのはあまり好ましい状況ではない気がする。そこであらかじめ断っておくが、実際のところヒョンヒョ郎は彼の父親を殺害してはいないし、彼は根っからの善人である。それはヒョンヒョ郎の近所の人々の思いのとおりである。彼が父親殺しの疑いで世間を騒がしているのにはいろいろな事情があるのだがそれはおいおい述べていく。


 好奇心旺盛に浮かれまくっている高校生どもとは対照的に、ヒョンヒョ郎は当惑していた。そもそも論を語って恐縮だが、彼は不法侵入者である。であるからにして、その地に属する正規の人間と出くわしてしまうと非常に気まずい、というかやばい、つまるところ通報でもされてしまえば駆けつけた官憲どもの無礼な難癖に対して不快な折衝に苦心しなければならない。

 いうまでもなくヒョンヒョ郎もそんな状況をたのしむような珍妙な精神様式は持ち合わせていなかったため、できればだれにも遭遇することなく用件を済ませたいとたくらんでいた。とはいえ、用意周到、準備万端を旨とするヒョンヒョ郎ともなれば万事が自らの思うがままにころがっていくなどと甘っちょろい思考は有しておらず、教師か生徒の数人ぐらいには遭遇するであろうことは十分に想定していた。

 ところがこいつらはどうだ。ヒョンヒョ郎は部屋にやってきた高校生どもの群れを目の当たりにして、仰天もすれば嘆息もした。視界に入っている範囲でもゆうに数十人はいるだろうし、それどころか、外から伝わる喧噪やらざわつきやらから察するに、こんなところにのこのこやってきた人間の数はゆうに百は下らないようである。前途洋々たる若人らが、貴重な青春のひとときをいたずらに費やしていると思えばやりきれない。

「あっ、おいこら、何しやがるこのガキ。こら、やめ、やーめーろ。おい、そこひっぱんな。触んな、こら。けっこう高いんだぞこの服。ほら、しっ、しっ。はい、こっから先には入らないで。下がれ下がれ」

 あまつさえ、それらの先頭に立っているリーダー格なのかなんだかわからないやつは、他人様の衣服の裾を多少遠慮がちとはいえ無許可で興味津々に触ってきたというのだからたまらない。しかも、一人がやり始めると残りの連中も「いいんだ」とばかりにいじったりひっぱったりしてきたものだから、幼いころから優等生で知られるヒョンヒョ郎といえどもついつい大人げなく声を荒らげてしまった。ではあるけれども、それだけで素直に手を引っ込めてしおらしい表情をしたところから察するに、この高校生どもはそれほど無茶なやつらではないし話せばわかる属性の人間なのだろうと見直すヒョンヒョ郎でもあった。

 一方の、遭遇直後は浮足立ってはしゃいだKたちも、ヒョンヒョ郎にいなされたこともあり、次第に落ち着いてきた。生徒会室の中の様子をうかがえない後ろの連中は依然として野良犬の大交尾大会を夢見て騒乱を続けているが、Kにもヒョンヒョ郎にもどうすることもできない。

「おそれながら、決田ヒョンヒョ郎さんとお見受けしましたが」

「否定はせんよ」


 ヒョンヒョ郎に会ってからのプランをなんら持ち合わせていなかったKは、だれか話を進めてくれないかなと数秒ほど待機してみたが、だれも何もしなければ言葉も発せず、気まずい沈黙が訪れただけであった。結局、服は触ってしまったしちょっと怒られはしたが、過ぎたことだし実際に触れたのはいい経験になったと思っていた。そんなKであるが、ちょっと弱気に下手に出ているような風情でおずおずとヒョンヒョ郎に話しかけた。かような所作によって、いままでの人生、相手がだれであろうと心証において少なくともマイナスでスタートする可能性をそこそこ抑えられることを、Kは経験的に学習していた。また、赤の他人への第一声として「人殺しですか」といった文言を選択すると、相手が気分を害するであろうことも学んでいた。

 その甲斐もあり、ヒョンヒョ郎はKに話しかけられてあからさまに不機嫌になるとか無視するとか猛烈に憤怒痙攣するということもなく、社会的生物としてこれぐらいはやってほしいという基準には達した態度を見せてくれた。Kは努力が報われたことに安堵した。人間は学習する生き物なのだ。

 しかし問題は二手目である。将棋だって、名人と同じ初手を指すのはぜんぜん難しくない。私だって初手▲2六歩だけなら目をつぶったって指せるが、△8四歩とされたらもうよくわからない。そもそも私は振り飛車党なんだし。てなわけで、あいさつだけで怒れる人間というのはそうそういるはずもなく、一手目は無難にこなせたが、Kがやらねばならぬことは、ヒョンヒョ郎に父親を殺したかどうかを確認することである。人を殺せるような凶悪な人間に「あなたは人殺しなのですか?」とダイレクトに尋ねた場合に起き得る災難を想像すれば、どうしたって軽率な行動は躊躇される。

 Kは丁寧に「貴殿は御尊父をお隠しあそばれたのですか?」と聞いてみようかと思ったが、しかし結局これも父親を殺したかどうか問う内容であるから同じような結果をまねくことは想像に難くない。

 そこでもう少し知恵を出そうとがんばったところ、このあいだの世界史の授業で習ったオイディプス王の話を思い出した。ゆえに、親殺しのヒョンヒョ郎に「さしずめあなたはマザーファッカーというやつなのですか?」と婉曲的に尋ねるのはどうだろうかと考えた。

 しかし、とKは実行に移す前に熟慮した。高校生になったKは跳ぶ前に見ることをおぼえていた。たしか、マザーファッカーというのは罵倒語の一種だったはずであるから、親殺しであるかどうかを問う以前の問題として、相手たるヒョンヒョ郎は愚弄されたという事実そのものにプリミティブな怒りを覚えるのではないだろうか。

 立ち止まって考えるに、マザーファッカーというのはどの程度強い言葉なのだろうか。英語があんまり得意でないKにはそのあたりの勘所が皆目見当もつかない。スカポンタンとかトンチキぐらいなのか、バカケチナマケとかデコスケぐらいなのか。いやまあ、それらの罵倒語について表現の強さを尺度として降順に並べ替えろといわれてもわからんけれども、であればいわんや異国の文化にもとづく言葉においてをや。

「うちのクラスで一番英語できそうなのってだれだっけ」

 Kの問いかけに一同仲良く首を傾げた。我こそはと自薦するやつがいなければ、他薦するようなやつも思い浮かばない。

 英語なんざ、中学校の学習課程すらおぼつかないまま、高校に入った。今日も英語の授業があったところで、はや、高校生となり一か月が過ぎたところであるが、いまだに教師は基礎研究の話に終始している。

 英語の教師はナンシー・ブラウンという外国人である。どこの外国か聞いた気がするのだがよくおぼえていない。

 初回授業の初っ端で、ナンシー先生は、

「まず、アルファベットから始めましょう」

と話し、クラス全員にアルファベット大文字小文字を書いてみるように指示した。高校の英語についていけるだろうかと不安だった生徒らも、それぐらいならできると安堵しながら、A、B、C……、とすらすら書いた。

「よろしい。みなさんもちろんアルファベットは知っていますよね。ではそこのあなた、Aはどうしてこの形なんだと思いますか」

「三角形から足が出てとかそういう感じじゃないでしょうか」

「一理あります。Aはピラミッドを表しているのかもしれません。では今日はなぜAがこの形になったのかということを考察してみましょう。私は大学で考古学を専攻しまして……」

 ナンシー先生はいきなり自分の研究の話を始めた。ドクターのとき、ラボのボスがなかなかにでかいプロジェクトを当てて、ラボのメンバー一同、エジプトまで発掘調査につれていかれたとのことである。

「最新の文献調査にもとづいて、BC15世紀ごろに栄えた街がこのあたりにあるはずだってことで人集めて掘ることになったんですけど、私は最初の一週間ぐらい、お腹壊して熱も出てずっと宿舎で寝たきりでして……」

 ナンシー先生はそんなことを気持ちよく話した。かと思えば、おもむろに古代エジプトとローマの関係を語ったりした。

「……というわけですけども、みなさんもこういうの(ナンシー先生、黒板に猛烈な勢いでいくつものヒエログリフを書く)をどこかで見たことはあると思いますけど、これが長い歴史の中でどのように変化していき、どのように各地に伝播していったのか、そういうことを私は研究してきました。おっと、今日はもう時間ですね。続きはまた今度。サイナラ、サイナラ、サイナラ」

 かような話を、Kたちは英語の時間に勉強している。Kの英語の能力は入学時から一ミリも変化していない。いや、忘却曲線に従ってむしろちょっと下がったまであり得る。ナンシー先生の話がエジプトから出られるのは二学期のあたりになるのだが、いまのKたちには知る由もない。

 閑話休題。Kは英語ができるやつを探した。この際、キャベツとレタスの違いがわかるぐらいのやつでもいいとまで考え始めた。

「おれ、最近メロコアとかよく聞いてっから」

 一人の男子生徒が片手をポケットに入れつつも照れ隠しに後ろ頭をかきながら、敢然と声を上げた。声の主はKとは違うクラスのようであるから顔も名もおぼえはなかったが、上衣のボタンを外してはだけた胸元からは英字がプリントされたTシャツが見えており、なんとなく英語をしゃべってもおかしくないのではとKは判断した。メロコアと英語の関連性はKにはよくわからないし、筆者にも一時期のメロコアバンドが非常にしばしば英語で歌っていた理由は調べてもよくわからなかったのだが、ともあれ、Kはこの生徒を信用することにした。

「どなたか存じませぬが助かります。少し、物を尋ねますけど、マザーファッカーというのは英語ではどのぐらいの罵倒語で、仮にそこの人殺しにそういう単語を投げかけるとどうなると思いますか?」

「そらキレるでしょ。おれならキャッホホホて叫びながらブリッジしちゃうね」

「やっぱり。じゃあ、もうちょっとやわらかい言い方にするなら?」

「そうなあ……。ファッキンサノバビッチぐらいなら、うん、あいさつみたいなもんだと思うよたぶん。あんま自信ないけど」

「なるほど。じゃあそれでやってみます」

 Kはヒョンヒョ郎に向き直して、「ヘイ、ザッツファッキンサノバビッチ」と呼びかけて、ついでに、右手で天井を指差して、左手で床を指差した。つまりはサタデーナイトフィーバーなポーズをとった。奮闘するKを援護するべく、周囲の生徒らは「プチョヘンザ」とか「アイウォンフォゲ」とかそういう合いの手を入れつつ思い思いのポーズを決めた。生徒らはたいそう盛り上がった。

 補足するならば、かかる決めポーズはKなりに考えたゆえの行動であり、はったりめいた奇行だとか突然人生が嫌になって気がふれたとか、そういうわけでは決して違う。Kはヒョンヒョ郎が世界史ではなく日本史の方が得手である可能性も考慮した。戦国時代の親殺し武将を思い出そうとして、武田信玄がなんかそんなんだったような気がしてきた。違うような気もしたがほかに思いつかなかったのでごり押しすることにした。さらに、武田信玄であることを伝えるための工夫として、大河ドラマに『天と地と』というのがあったことを思い出し、したがって、Kがいまやってるポーズはふざけているわけでも釈尊の誕生を表現しているわけでもなく、あくまで天と地を示しているのであり、ただただ、ヒョンヒョ郎に「あなたは父親を殺したのですか?」ということを追及せんがために現れたきわめてまじめな態度であった。


 しかるにはなはだ遺憾ながら、当のヒョンヒョ郎は心底怪訝そうな面持ちである。Kの誠意はぜんぜん全くこれっぽっちも伝わっていない。そりゃあそうだろう。ヒョンヒョ郎は今回の侵入に際して、生徒や教師に遭遇してしまった場合に備えた対応をさまざまな角度から想定していたのだが、こんな目に合うとは夢にも思わなかった。

 でもまあこいつら「チッチ」だしな、全くしようがないやつら、とヒョンヒョ郎は達観したような諦念したような苦笑したような評価をもっていた。

 チッチとはKらが通う「県立七七高等学校」の愛称のようなもので、地元の人間であればだいたいそう呼んでいた。

 七七高校はKが通うぐらいなのでそこまで偏差値は高くない。が、募集定員が多い上にだいぶむかしから地元に存在していたので、地元民であれば先祖か親戚か知合いにここの卒業生が少なくとも一人はいるのが常であった。したがって、他県出身者が偏差値だけを見て七七高校をうかつに小ばかにした日には、地元愛あふれる人々にやんわりとたしなめられるのは必至である。

 チッチの生徒について地元民に評価を求めると、その第一声はほぼ確実に、

「みんなよか子ばっかじゃいが」

である。しかしこの言は友人知人親族一同といったさまざまな陣営を考慮したゆえの無難で無意味な言葉であるので、酒でも飲ませながらもう少し突っ込んだことを聞くと何が出てきたのかというと、

「むぜやい」

といった評価を、筆者らはかろうじて引き出すことができた。

 つまりは、チッチというのは地元民に良くも悪くもかわいがられやすい様子である。有体にいえば、チッチはさほどパッとしない。しかし、軽んじられることがプラスにはたらくことも世の中にはある。そういった娑婆のくぼみにチッチは奇遇に収まったりする。狡兎死してなんとやら、独裁的な権力を得た人物は、案外、近辺には優秀な人材を置かない。代わりに、チッチのような人物を重用したりする。重要な仕事を任せることはないが、雑務をやらせたり、たまに愚痴をこぼす相手としては具合がいいらしい。チッチが大志とか野心を秘めることなど稀であるし、腹に一物含むなんてこともまずない。寝首をかかれる心配をしなくともよければ、言外の真意などにわずらわされることもなく、安心して身近に置けるわけである。

 チッチは概して善良である。生き馬の目を抜いたり、飛ぶ鳥を落としたり、そういったむごい殺生に手を染めることもない。人を殺したり住人がいる建物に放火するやつもめったにいない。残念ながら皆無ではないが、しかしそれはチッチの卒業生の数からいえばむべなることで、それでも世間一般の平均と比べれば有意に少ないのである。

 かような背景もあり、チッチに過度な期待をする方がお門違いであるとすら考えられている。チッチが何かちょっとした失敗をやらかしても、

「しようがないやつら」

なんて大目に見てもらえるし、人並みの成果を上げているだけで、

「あの人も最近がんばってるな」

とほめてもらえる。かくしてチッチは地元のあらゆる方面に生息し、日々をピョコピョコと平穏に暮らしながら、この町で何事もなく生きて老いて死んでいく。結構なことだ。

 現住所は隣県とはいえ、ヒョンヒョ郎もこの地の出身であるからにはチッチの生態や気質は当然肌で知っている。よって、Kたちが意味不明な言動を取ってもさほど深読みすることはなかった。彼ら彼女らなりの理由があるのだろうがチッチのことなので気に留める必要もあるまい、サノバビッチ呼ばわりされたが、こいつらはその言い回しの意味どころか構成単語も知らんままになんとなくで発言してんだろ、と知人の家で室内飼いされている仔犬にでも吠えられたぐらいの鷹揚な気分でいた。

 されど、ヒョンヒョ郎とて全く支障がないわけではなかった。彼は話がなかなか展開していかないことに焦燥していた。

 ヒョンヒョ郎が漠然と想定した場面としては、チッチに所属する生徒ないしは教師に見とがめられたのちに氏名と目的を問われるはずで、したら、善良なチッチの民をうまいこといいくるめて、なんやかんやあって我が目的を達成する、といった次第であった。筆者はこの段取りをごく簡潔に記述したが、頭脳明晰なるヒョンヒョ郎はこれなるやり取りについて微に入り細を穿ち少なくとも十通りほどのパターンを想定していたというのであるから頭が下がる。

 しかし、現状はそうはなっていない。ヒョンヒョ郎と遭遇したチッチの生徒らは、初動においては想定どおりヒョンヒョ郎が何者であるか問い掛けてくれたのだが、二手目は全く見当違いの方向に飛んでいった。一応、サノバビッチとかなんとか盛り上がったのちの段取りがあるのかと期待してしばし様子を見守ってみたが、チッチの連中は「ボールはそちらに渡しました」といった顔つきで待機している。

「はい、ありがとうございます。大変興味深い発表だったかと思います」

 しかたなく、ヒョンヒョ郎がこの先の進行を務めることにした。このあたりの臨機応変さ、主体性、当事者意識、さすがはナンバースクール主席と舌を巻かざるを得ない。

「それでは質疑応答に入りますが……。はい、そこの方。私はどうしてここにいて、何をしたいのだと思いますか」

 ヒョンヒョ郎はなんとか自分が想定していた筋書きに乗せようとした。しかし、いかんせん、ガラにもなくあがっていた。口調も変に丁寧になっていた。彼の言動はさほどいい結果を招かなかった。

「えっ……。それはあの、レゾンデートルとか天我材を生ず必ず用有りとかそういうあれですか」

 突然、ヒョンヒョ郎に指名されたKはうろたえたが、どうにか会話を続けようとがんばった。

「や、そんな深遠な水準ではなく、もっとざっくばらんで結構」

「追い風に向かい風に任せて自転車こいでたらいつのまにかなんとなく、みたいな」

「さすがにもうちょっと具体的には。せっかくですからみんなで相談してみてはどうですか」

 妙案を思いつかなかったKは、周囲の生徒らと相談した。アクティブラーニング、KJ法、ブレインストーミング、まあなんかそういうのをKたちはこれまでなんべんもやらされてきた。今回もその場に居合わせた生徒らで、六人一グループを構成してヒョンヒョ郎がいかなる背景と目的のもと、なにゆえ七七高校の生徒会室に訪れたのかを議論した。

 二三分ほど経っただろうか。話がまとまった気配があり、Kを中心とした最前列の生徒らが声を合わせて溌溂と回答した。

「せーの、犬の交尾」

「フフッ」

 ヒョンヒョ郎は思わず失笑した。ああ、こいつらはどこまでいってもチッチだなあと思えば、いとしくもありせつなくもある。

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