第1話の3

 シロは朝起きると顔を洗い、歯を磨く。


 歯磨きしながらブラシの調子を確認する。木の棒に布を巻き、植物の実の繊維質な部分を縫い付けたものだが、今作はなかなか出来が良かった。


「買うと高いからなぁ……」


「……何が?」


 寝ぼけて独り言を言いながら洗面所から出ると、同じく寝ぼけ眼のエリが立っていた。


「歯ブラシ……」


「ああ、歯ブラシ……おはよ……」


 おはよう、と言いながらすれ違い、シロは外に出る。犬の団十郎もついてきた。


 少し曇った空の下で体操しながら、干し網の中に入ったヒノコダケを確認する。様子は昨日と変わっていない。


「……まぁ、今日一日干しておけばいい感じになるだろ。ちょっと曇ってるけど」


『ばうわう!』


 体操を終えて家の扉を開けると、外に出ようとしたエリと出くわした。まだ寝ぼけ眼だ。


「……あれ? 体操は……?」


「もう終わったよ」


「また待ってくれなかった……」


 そう言ってエリは両腕を広げ、シロの身体に抱きついた。


「エリ! 離れろって……!」


 シロはエリの顔を引き剥がしにかかる。


「嫌だぁぁ……」


「お前こうすると二度寝するだろ! 師匠に怒られるぞ!」


「大丈夫だって帰ってこないからぁ……」


「いつ帰ってくるかわかんないんだから!」


 うあぁ……と言いながらもエリはやっと離れて体操を始めた。それを背にシロは中に戻り、台所に立って朝食の準備をする。


 とりあえず炉の火を起こし、水を張った鍋を炉にかけたところで、あることを思い出して一時停止した。


「……の間に外か」


 シロはエプロンのまま、かごを手に勝手口から外に出た。隣接して畑が広がっている。


「食べ頃なのは……ミズトマトと、オソレヲナスと……っていうか実り過ぎだな。今日配りに行こ……」


 台所に戻ってシロは朝食の準備を再開する。と言っても朝食なので、手の込んだものは作らない。


 湯が湧くのを待ちながら野菜を洗って切り、昨日の魚のアラを小さい網に入れてお湯に入れ、余っている固い飯もついでに入れて塩を振った。


「……そろそろいいか」


 炉の側面から薪を崩して火を静め、シロは食事をテーブルに並べる。ちょうどエリが戻ってきた。まだ寝ぼけ眼だが、食事を前にして大人しくテーブルにつく。


「……あれ、火使ったの?」


「ああ」


「言ってくれれば魔法使ったのに。マッチが勿体ないじゃん」


「お前そう言って一度もやってくれたことないだろ。いつも寝ぼけてるんだから」


 シロがテーブルにつき、二人は食事を挟んで向かい合った。


「いただきまーす」


「女神様、日々の糧に感謝します……いただきます」


「そういえば、朝しかお祈りしないけど何で?」


「朝だけでいいの。女神様は寛大なんだから……それに、シロはあんまり女神様のこと好きじゃないでしょ」


 エリは野菜を食べながら言う。転生者だから、と言っているのだ。


「もう慣れたよ」


「とにかくうちは朝だけでいいの」


「たまに忘れてる時が……」


「だいじょーぶ。女神様は寛大だから」


 エリはそう言って食事を続ける。その隣の床では、団十郎が魚のアラにありついていた。

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