それぞれのその後と実録・婚活ノート
それぞれの、その後。
まず、私の親友にして恩人である由佳子は——。
自分にしか書けない得意分野を磨くと言って、勉強しながら仕事をしている。私はその様子をSNSで見させてもらいながら応援していて、年に数回は会っている。
ランチ友にしてかつての婚活仲間だった香織さんは、その後、「結婚を諦めたきっかけ」を教えてくれた。
久しぶりに会った同級生とつき合って結婚を考えた時に、「子供がほしいから」と断られて別れたそうだ。香織さんも実は、オンナだけにある年齢の壁に阻まれた一人だったというわけだ。
今もまったく結婚する気配がないのだけど、相変わらずおっとりとして、独身の女友だち二人とつるんでは楽しくやっているみたいだ。
いわゆる恋をしたことがないと言ってはばからず、結婚相談所で知り合ったオトコとあっという間に結婚した千春は——。
私が結婚することを知ると、泣いて喜んでくれた。
「正直なことを言うと、真奈絵さんが結婚する時は妥協する時と思っていたけど、こんなに心から好きと思える人とできてよかったね」と言っていた。
正直なことを言うと、私も同じ気持ち。
千春自身は、結婚して初めてちゃんと向き合った旦那様に、ずいぶんイメージと違うところがあったようで、「人生でこんなに人間関係に悩んだことはない」と言ってる時期があった。私も、まさか離婚しないよね?? と心配していたものだけど、千春が親の看病をすることになって大変だった時に、旦那様がよく支えてくれたそうで、現在、とても仲良く暮らしている。相変わらず、全国を転勤しながら。
婚活仲間として千春と同時期に知り合った山辺は、子供をほしがっていたけれど、年賀状を見る限りいないようだ。
千春、山辺といっしょに知り合って、私が婚活で初めて真剣に恋をした農業青年の堤は、結婚後の二年の間に、両親を相次いで亡くした。数年後に来た年賀状を見る限り、子供は一人のようだ。親子三人で、農場手前のあの大きな屋敷に住んでいるということだ。家を取り仕切り、子供を育て、農業も手伝っている清香のたくましい姿が思い浮かぶ。
私が婚活市場の厳しい現実を知るきっかけを作った理恵子は、今も律儀に年賀状を寄越す。あれ以来、一度も会っていないにもかかわらず。
子供は一人。年賀状には、毎年幸せそうな家族の写真が載っている。
”寄り道のオトコ” 黒田とは、東京に転勤したあともメールはしばらくやり取りしていた。
「いつ東京に遊びにくる?」と何度も言われていたけど、結局、行くことはなかった。そのうち、メールも途切れた。元妻と籍を入れ直したのかは不明。
三度つき合って三度別れた同級生の達也は、私がまだ婚活中だったころ、繁華街のはずれでバッタリ会ったことがあった。エリートコースまっしぐらのはずにしては、平日昼間にそんなところをラフな格好で歩いているのは不自然に感じた。
「こんなところで、何してるの?」と私が訊くと、「いや、ちょっとこっちに用事があって」と、うっすら笑いながら答えてきた。
「元気?」「そっちは?」と言い交わし、「それじゃ」と別れた。
子供というリスクを回避しても、何かの事情でキャリアに区切りがついたのか、あるいはあのラフな格好は単なるクールビズだったのか、真相はわからない。
そんなふうにバッタリ会ったので、もしかして四度目のリベンジがあるかと思ったりもしていたけれど、それもなく、現在の消息はわからない。結婚したかどうかも含めて。
私たちは子供の件でいっしょにならなかったようなものだけど、結局、私も子供は持てていない。
由佳子が紹介してくれて、こんなに波長が合う人はいないと思った笠井は、由佳子の方でも消息を把握してないらしい。変な噂も聞いてないと言うので、普通に幸せにやっているのだと思いたい。婚活では初めて、私が幸せを願った相手でもあるのだから。
保険のおばさんが紹介してくれて、婚約寸前でダメになった霧島もまた、保険のおばさんと私が切れてしまったので、その後は知れない。お母様はお元気なのだろうか。そして、まだ結婚せずに、四年ごとに恋をしてるのだろうか……。
それから、ネット婚活相手だった小玉と斉藤。
この二人は、私が結婚する前後に、突然、相次いでSNSの友だち申請をしてきた。
小玉はスルーさせてもらったのだけど、斉藤は承認した。ただし、お互いにコメントをしたことはなく、そのうち、斉藤のレコードコレクションの紹介があまりに頻繁に更新されるので、ミュートにしてしまった。たぶん、元気だろうとは思うけど。
同じくネット婚活相手の馬場と川崎は……わからないし、知りたいとも思わない。
昔の同級生大山とその後輩の沢井のコンビは——。
この二人は婚活と直接関係ないけれど、私はその後も何度も大山のSNSをチェックするなど気にかけていた。でも、更新されないままだ。
最後となってしまった飲み会で、沢井の妻は持病が悪化して体調が悪いと言っていた。それが何か関係あるのかもしれないと思っている。本当は、沢井は私の婚活なんかにあんなに熱心に協力してる場合じゃなかったのだ。そのあるまじき状況を察知した大山が、好ましくないと判断して、二人もろとも私の前から消えたのではないかと想像している。大山は沢井の妻とも親交があったそうだから。
それから、忘れちゃいけない、同級生の福地。
結婚が決まったのは、最後のドライブのあとだった。メールでそのことを報告すると、「おめでとう」と言ってくれたけど、飲みに行こうと誘うと素っ気なかった。
彼がどう思っていてくれたのかは、結局わからない。でも、年賀状では元気そうだ。相変わらず、飄々と生きてるのだろう。
最後に、寺山——。
高野から私に決めたと言われた数日後、寺山から自宅デートの日程を決めたいというメールが来た。
その時はまだ、私も高野の申し出があまりに唐突で意外だったので、もしかしたらどんでん返しもあるかもしれないと覚悟しながら様子を見ていた状態だった。なので、寺山には「忙しいから、日程が見えたらこちらから連絡する」と送っておいた。
一方、南山さん宅へ、結婚の申し出を受けたという報告——あるいは相談?——をしに行った際に、寺山の話をした。
南山さんはまた、「抜いておきますね」とにっこりして言ったのだった。
そのせいなのかは、もちろん私にはわかりようもないけれど、なぜかそれ以降、寺山からメールは来なかった。
正直、それもどうかとも思ったけれど、結局はそれでよかった。
寺山が今どうしてるかはわからない。
こうして羅列してみて驚いたのだけど、理恵子以外の女性陣は子供がいない。
日本の少子化問題が深刻なわけだ……と思わないでもない。
でも、みんなそれぞれに幸せなのだ。
それが一番大事だ。
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