サクラの実態!

 フリータイムになった。

 当然のように香織さんと私は、香織さんの同級生だという男性と三人で固まって座った。


 名前を中川さんといい、設備関係のルート営業をしている。

「まだ、結婚してなかったんだ?」と香織さんが訊くと、「もうどうでもよくなってきてさ」と中川さんは答えた。

「じゃあ、なんでこんなパーティ出てるのぉ?」と、香織さんがわざと意地悪そうな訊き方をした。


 中川さんが無言で手招きするようなしぐさをしたので、私たちはグッと身を乗り出した。

「俺、実はサクラなの。たぶんね、あと三人くらいいるよ、サクラ」


 私たちはそろって、身をのけ反らせた。香織さんが声を潜めて言う。

「マジで!? なんでわかる?」

「俺も何度も来てるけど、やっぱり何度も見たことあるヤツいるから」


 サクラがいると聞いたことはあったが、一人か二人かと思っていた。中川さんの言うことが本当なら、最低四人もいるのか。ほぼ三分の一じゃないか。アホらしい。


 今日は、いや収穫はなし。あとは、中川さんと雑談してこのまま終わるだろう。


 最後に、第一希望と第二希望のお相手の番号を書いて提出する。だから、気に入った相手がいたら、番号をメモっておかなければならないのだ。私は一つも番号を書き留めてなかったが、なんとなくマシだったと記憶している人の番号を一つだけ、第二希望の欄に書いて提出した。第一希望は空欄のまま。


 主催者がそれぞれの希望を照合して、マッチした人同士をカップルとして発表する。だが、残念ながら、その日は一組もカップルが成立しなかった。私たち三人は会場をあとにすると、近くの喫茶店へ行った。


「それにしてもさ、サクラがいるって聞いてはいたけど、サクラ本人からサクラだと言われると、さすがに萎えるよね」と、おしぼりで手を拭きながら香織さんが言う。


 こうなったらこのネタを深めておこうと、転んでもただでは起きない私は、急に違う方向へやる気を出した。

「サクラって、どうやってやるんですか? 大っぴらに募集とかできないですよね?」

「俺はね、一時期あちこちのパーティに普通に参加してたんだけど、今日の会社のも何回か出たことあって、ある時あっちから電話がかかってきたの。『今回お申し込みありませんが、もしご都合がよろしければ、参加費は要りませんので来てもらえませんか』って」


「なーるほど」

 言われてみれば、いかにもありそうな理屈だ。


「で、一回OKしたら、それからちょくちょく声かかるようになったのよ。ああいうのはね、たいてい女性の方が申込数が多いんだよね。だから、人数のバランス取るために、男性を集めるのに苦労してるわけよ」

「人数が合わないからって、あとから申し込んだ女性が参加お断りになるケースもあるみたいですけど?」と訊くと、「それはかなりレアケースだねぇ。相当良心的な会社だよ、きっと」と中川さんは言った。

「そうだよね、やってる方は営利目的だもん、申し込んだ人を離したくないはずよね」と香織さんも同意する。


「あと、参加女性に、こんな素敵な男性が参加してるならまた来たいって思わせるために、すごくカッコいいサクラを用意するって話も聞いたことありますよ? 永遠に誰ともカップルにならないオトコなわけだけど」と私が言うと、中川さんは「まあ、俺の場合は、単なる頭数合わせだけどね」と言って笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る