カップリングパーティという手も

カップリングパーティ、再び。

 実は、カップリングパーティには、何年か前に数回行ったことがある。これまたいいトシで独身の香織さんに誘われて。


 香織さんは、私が間借りしてるオフィスと同じフロアに入っている別の会社に勤めている。ある時エレベーターで二人きりになって、お互い顔は何度も見たことがあったので、何となく世間話をしたのがきっかけで仲良くなった。都合が合えば、彼女の会社の会議室で、ランチをともにすることもある。


 私が「結婚する気はあるけど、積極的に相手を探すほどじゃない」と言うと、「そんなんじゃダメよ。私みたいにバリバリのアラフォーになってからだと、とたんにガクンと落ちるんだから」と、二つ年上の香織さんは手で空中に大きな段差があるかのようなジェスチャーをして見せた。


 そのころの私は、アラフォーへの境界線をまたぎつつあるところだった。それでもなお積極性のない私の話を聞いて、香織さんが自分も時々行っているカップリングパーティにいっしょにと誘ってくれたのだ。

「ふつうなら、若いライバルを連れて行くのもどうかと思うとこだけど、真奈絵ちゃんは特別よ」と言いながら。


 数回行って一度カップルになったことがあったけれど、あらためて会いましょうと連絡先まで交換しておきながら、結局会わずに終わった。あれは、何だったんだろう?


 あまり手応えを感じられずに、まだそんなに積極的でもなかった私は数回行っただけで参加をやめた。香織さんはその後も一人で行ったりしていたが、やはり成果はなく、大台にのった最近は、行ったという話も聞いていない。今度は、私の方から誘ってみようか。


「うん……真奈絵ちゃんが行くなら、つき合ってあげてもいいよ」


 ある日の会議室ランチで話を切り出すと、香織さんは他人事みたいに言った。


「あれ? ”つき合う”だなんて、香織さんらしくないですね。もう積極作戦はやめたんですか?」と、私はちょっと拍子抜けして言った。

「なんかねぇ、婚活するのも虚しくなってきたのよ。本当に縁ってものがあるなら、黙ってても自然とやってくるんじゃないのかなって。ガツガツしてると、かえって逃げていくような気もしてね」


「縁を呼び込むって言葉もありますよ?」と、私は食後のコーヒーを飲みながら語気を強めた。

「今までこんなに呼び込んでも来なかったってことは、私には縁なんてないのかもなぁって、最近は思ってるの」と、香織さんは淡々と言った。


 というわけで、いつの間にかトーンダウンしていた香織さんになんとかという形で、私たちは久しぶりにカップリングパーティに行った。



 長いテーブルが三列に並んでいる。今日は、男女とも十三人ずつのようだ。


 まず、プロフィールカードに年齢、職業、趣味、特技などなどを記入する。テーブルの片側に男性がずらっと並んで座り、反対側には女性。そんなふうにして四、五人ずつで、テーブル三列分の席を向かい合わせに埋めた。


 第一ラウンドは総当たり戦。ヨーイドンで向かいの人とカードを交換し、ざっと相手のプロフィールに目を通して、それをもとに会話をする。五分経ったら、男性だけが一つずつ席を移動し、次の女性と話すというスタイルだった。これは、今まで経験したことのあるパーティと同じだった。


 私は香織さんと並んで座り、チンという呼び鈴の合図で向かいの男性とカードを交換した。


 見た目で惹かれる要素はない。カードには、職業「建設業」となっていた。

「ビルを建てたりしてるんですか?」と私は訊いた。

「そうですね。○○建設ってご存じですか?」

 名前は聞いたことがあった。

「最近は、需要が……」と、一生懸命話してくれる。職業を話題にしたのは失敗だったかも。専門的な話になってしまっている。


 何とか口を挟もうとして、昔、仕事で取材したことのある一般住宅の地元メーカーの名を出してみた。

「すごく建て方にこだわりのある会社さんで、自分が家を建てる時はお願いしようと思っていたんです」

「あそこは、数年前に潰れましたよ」

 チンと呼び鈴が鳴った。

「ありがとうございました」とお礼を言い合って、彼は香織さんの方へ席を移動した。


 次の男性は……。いや、これ以上語るのはやめておこう。


 初めての時は、五分で何がわかるんだろうと思うものだ。だけど、その五分を長く感じて気まずくなることも多い。「あぁ、もっと話したかった」と思うくらいがちょうどいいのであり、そう思ったらシメたものなのだ。第二ラウンドのフリータイムの時にその相手をつかまえて、続きの話をすればいい。


 結局その後は、五分を長く感じる相手ばかりだった。ここへ来る前は、印象的な人がいたらナンバーをつけてまた婚活ノートに記録するつもりだったが、すぐにその気も失せ始めた。


 私の十一人目の人が隣へ移動していった時、香織さんが「やっぱりだぁ〜」と言った。そして、親しげに話し始めたのがわかる。目の前の十二人目よりも、そっちが気になってしょうがない。


 全部終わったあと、香織さんは十一人目の男性を指して、「彼、高校の同級生」と耳打ちしてきた。

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