出会いは多い方がいい!

 私はフリーランスではあるが、毎日、暦通りにする生活を選んだ。街中にある知人の会社のオフィスの一角に、格安の家賃で机を置かせてもらっているのだ。そうすると、そこの会社からの仕事をもらいやすく、また、ほかの仕事の打ち合わせに出かけていくにしても便利で、フットワークが軽くなる。毎日、知人たちとも顔を合わせ、業界や社会の動きもライブで感じ取れる。家に引きこもってしまったら、これらすべてのメリットがなくなるわけだ。


 そのオフィスに、由佳子がやってきた。

「どう? 活動してる?」

 さっそく入会したことは報告してあった。今日は仕事のついでに寄ってくれたとのこと。

 私たちは遅めのランチに出かけ、長居ができそうなカジュアルなレストランの奥まった席に陣取った。


 由佳子とは、新卒で就職した会社で知り合った。同じ仕事を担当するうちに親しくなり、これまでも恋愛相談をしあってきた仲だ。年も同じ、趣味もほぼ同じ。会社ではそれぞれ違うランチグループに属していたが、お互いに会社を辞めてからは、より親しくつき合うようになった。


 そんな由佳子も数年前に結婚し、夫の友人関係の中から私に誰か紹介しようと試みてくれたのだったが、「ごめん、うちの旦那、友だちいなくてさ〜」とのことで、作戦は一度も実行されず。それでも、いつも心に留めてくれていて、なんだかんだとそっち方面の世話を焼いてくれる。


 私は二件のお見合いについて報告し、この時にはもう笑い話にもできていたのだが、問題は先行きが見通せないことで、やる気をキープできなくなりそうだと愚痴った。


「まあね、婚活ってそういうもんだからね、しょうがないねぇ。そもそも目星つけられる人がいないから、そういうするわけで。出会いのチャンスを増やすんだって割り切って、引きずらないようにしないと保たないよ」

「そうなんだけどね……あ、そうそう、ティーパーティってのがあるらしいんだけど、それならあそこの登録者の何人かといっぺんに会えるから、効率いいかなと思って。一回で出会いのチャンスが複数ってことで、いいよね」


「おぉ、それいいね」と、由佳子はスパゲティのソースをパンで拭いながら言った。

「しかも、外部からの参加もありみたいなの」

「うんうん、ますますいいね。なんなら相談所と平行して、ほかの手段もどんどん使った方がいいよ。パーティなら、他社でもカップリングパーティとか婚活パーティとか、しょっちゅうやってるでしょ」


 由佳子はかつて、マスコミ関係に就職した同級生を想い続けながら、社内でも上位に入るモテ男とつき合ったり、かわいい後輩にほだされて言われるままにつき合ったり、どちらかというと流れに逆らわず正直に恋愛をしてきたようなところがある。私もその気持ちはわかるだけに、相談を受けるたびに「なるようにしかならないのだから、そのまま進むしかない」というような結論に達していたものだったけど、一見奔放だと勘違いされそうな恋愛遍歴からはかなり意外に映る今の夫と結婚した。少なくとも見た目はかなり地味だ。


 最初、私には彼の魅力がわからなかった。でも、話を聞くうちに、いや、話す由佳子があまりに幸せそうで、最後は中身なんだろうなと実感した。これを言うと由佳子は「いや、私、一目惚れだから!」と怒るのだけど、だったらなおさら、きっかけが外見で、結果的に中身もよかったということで、最高に幸せなパターンだろう。


 デザートとともに、幸せそうな由佳子ののろけ話をまた聞かされて、しおれかけていた私の心にも再びやる気が湧いてきた。こうなったら平行作戦だ。相談所内ではダブっての申し込みや交際はできないが、他社での出会いを併用するならダブるのもありだろう。最低限の誠実さは持っているべきだけど、一つ一つ吟味しながらやっていくには、私の時計は進み過ぎている。残された時間は少ないのだ。


 その後、私はさっそくティーパーティに申し込み、同時にインターネットで他社のカップリングパーティを吟味し始めた。

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