宇宙はあまりに遠過ぎる。

 もし私がこのおじさんと結婚したとして、友だちたちは言うだろうか。

「真奈絵があんなおじさんと結婚するだなんて……私、どうして? って泣けちゃったよ〜」と。


 目の前の、宇宙からの使者を見るともなくぼんやりと眺めながら、そんなことを思った。

 私は食べ終わった食器をテーブルの隅に寄せるのにのろのろと時間をかけ、この場をどう持っていくか考えていた。もう、お開きにしたい。


「あのぅ、実はお会いする前から、年齢のことが気になっていたんです。あまりに子供っぽいですから」


 すると、おじさんはほんのわずか目を見開いたあと、戸惑ったように言った。

「すみません、子供っぽいですか」


 一瞬、意味を計りかねる私。すると、おじさんは自分に言うように呟いた。

「そうですか、子供っぽく見えますか」

 少し、申し訳なさそうにしている。


 まさか、自分が子供っぽいと言われたと思っているのか、このおじさんは。


 誤解するにしても、あり得ない。こんなに話が通じない人がこの世にいるのか。

 いや、やはり、宇宙からきたのかもしれない。


 もう、疲れてきた。

「いえいえ、まさか。私の方がかなり下ですから、こんな子供っぽい相手でいいのかと思いまして」

 精一杯の落ち着きを持って訂正すると、おじさんは口ごもるように言った。

「あぁ、年齢は関係ないですけども」


 それだけか。

 疲れてきたせいか、いじわるな私がムクムクと前に出てくる。

 むしろ、こんなに年上なおじさんを私がどう思うか、それは気にならないの? 男が上で女が下だったら、どれくらい年の差があっても当たり前の範疇と思っている? そもそも、どうして同年代の女性に申し込まないんですか? 私には、この結婚のすぐ先に、子育て、定年後の夫とその親の世話、そして介護の末の未亡人、という流れしか見えませんけど? 結婚すれば、明日からエッチ付きの(おじさんよりは)若い家政婦を持てるとでも?


 そこまで言うのはイジワル過ぎるとしても、そういった将来のことをざっくばらんに話し合えるような雰囲気すらない。人づきあいに慣れてないのはわかるけれど、そんなお年になってもでよしとして、押し通してるのもどうなんですか? と言いたい。


 これ以上考えるのはやめよう。明日すぐに電話して、お断りする。理由は、年齢のギャップが埋まりそうもない。これで通るだろう。


 これからも、こんなのが続くのだろうか、婚活というものは。もっとすごい宇宙人がきたら、心が折れるかもしれない。


「ファイルNo.2。設備関係の仕事。

・十三歳年上。

・見た目は親戚のおじさん。

・趣味も話も合わない。世代間ギャップのレベル?

・自然体過ぎて(?)、茫洋としてて、ある意味傍若無人。

【考察】

・基本的な人づきあいというレベルで見てもまったく取っ掛かりすらなく、その気もないように見えたので、無理だった。

・考察しなくてもいいくらいな感じ。以上。」


 翌日、オフィスからお断りの電話をすると、またしてもおばさんからは「残念ですねぇ。お相手の方は、もう一度会いたいと言ってらっしゃいますよ。まあでも、年齢が離れ過ぎというのであれば、しかたないですね。また次、がんばりましょう」と言われる。


 オトコというものは、少なくとも婚活市場に出て来るオトコというものは、というのか、それとも何もわかっていないというのか。ゆうべのあの雰囲気で、「もう一度会いたい」と思ったのか、あのおじさんは。


 簡単にメゲないのはいいことだ。だけど、もし、あの場から何も思うところがなかったとしたら、あまりに無邪気過ぎる。そして、それはすなわち同じ市場にいるオンナ側から見ると、前途多難を意味する。


 まだ、たった二人に会っただけなのに、ため息がもれる。婚活の海は思いもよらぬ荒波続きで、陸地という希望がまったく見えそうにない。


 電話を切り、相談所の電話番号が書いてあるリーフレットを片付けようとして、挟まっていたフライヤーにふと目が止まった。片面に「年間活動のご紹介」とある。見ると、「ティーパーティ」なるものが二カ月に一回開かれることになっている。非会員の参加OK、各回二十名限定。


 非会員の参加? テンションだった私には、それだけでちょっと希望が見えた気がした。

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