宇宙人が来る。

 No.2氏の日がやってきた。


 前回同様、相談所での顔合わせのあと、近くのホテルのラウンジで夜ごはんを食べることにした。今回もが、すっかり暮れた窓の外の大通りの風景を背負って座る格好になった。


 しつこいようだけど、こうして向かい合ってみると、本当に正真正銘のおじさんだ。恋愛はムリだ。だけど、結婚ならできるというのか?? これは、そのわずかな可能性を見出すのかどうかの命の張り合いだ。


 いや、落ち着こう。命は張らずとも、この一時間くらいは場を持たせる必要がある。おじさんはとても寡黙な人だったので、私は明るく一生懸命しゃべった。


 まずは、趣味の話ということで、おじさんの方から「映画がお好きなんですね」と振ってくれた。一方のおじさんは将棋が趣味ということだった。ちょうど最近、私はチェスがテーマの映画を見ており、将棋と共通点があるかと思ったので、その話をしてみた。


「……というストーリーで、○○なところがすごく面白かったんですけど、将棋でもやっぱりそういうことありますか?」

 おじさんはしばらくそれについて考えているようだった。そして、とてもぶっきらぼうに「そんなふうに思ったことはないな」と言った。

 それ以上、その話を続ける雰囲気ではなかった。


 料理が運ばれてきた。

 数口食べる間、それとなく様子を窺った。おじさんは食べることに集中していて、こちらを気づかうような素振りはない。いっそ、このまま食べ終わってサヨナラもありかと思った。でも、そう思ったら逆に気持ちがラクになり、私はもうひと踏ん張りしゃべってやろうという気になった。


 今度は読んだ本の話を選んだ。

「子供が親に反抗しながらも自分の道を見つけて、夢に挑戦するために巣立っていく」というストーリーを簡単に説明し、いかに感動的だったかを語ったあと、「そういうの、いいですよね」と軽く同意を求めるように投げかけた。すると、おじさんはニコリともせずに「親に反抗するのはよくないな」と言ったきり黙ってしまった。


 思いがけない反応ではあった。でも、同意が得られなかったからと言って、私は気分を悪くしたりしない。人にはそれぞれの意見がある。あってしかるべきなのだが……


 ——ポイント、そこ!? と、目がテンになるのは抑えられなかった。


 それより何より、おじさんは会話で盛り上がろうという気がまったくないようだ。おそらく、できないのだろう。だけど私は、それも否定しない。そういう人はいる。


 ましてやおじさんは、そのおトシまで独り身で親御さんと同居し、将棋しか趣味がないのだ。会話のセンスを磨く機会などなかったでしょう。わかりますとも。


 それならそれでいいのだ。ただ、私とは決定的に住む世界が違うだけだ。


 おじさんの後ろ、大きな窓の向こうの歩道を、このホテルでの結婚式の打ち合わせを終わって帰ると思われる、いかにも適齢期然としたカップルが通り過ぎていくのが見えた。


 つい最近、知人の結婚式に列席した友だちの言葉が不意に浮かんできた。

「あんなに美人で、女の私から見てもすごーくいい子なのに、新郎があまりに ”おじさん” だったから、どうして?って、私、泣けちゃったよ〜拉致されていくみたいで」


 本人が好きなら別にいいじゃない? と、私は言ったもんだった。そのおじさんには、何か魅力的なところがあったのだろう。


——でも、いま目の前にいるおじさんは、宇宙人だ。


 そう、かのエッセイでも言っていた。「婚活も、○歳を過ぎるとお見合いの場に宇宙人が来るようになる」と。

 あれは本当だったんだ。そして、このあとおじさんが言った一言で、私はさらにそれを確信することになる。

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