「実録・婚活ノート」スタート。

 先にも言った通り、私はフリーライターだ。

 というわけで、ほかでもない自分の婚活が、いつネタとして使えるかもわからない。いや、有益な記録が溜まってきたら、こちらからコンテンツとしてどこかに売り込んでもいいかもしれない。「転んでもただでは起きない」、そこで何がしかの対価を得れば災い転じて福となせるのだ! そんなふうに貪欲にやってきた私が、わざわざ自らエネルギーを使ってする、これをみすみす右から左へ流していいわけがない。


 そう思ったら、婚活万歳! 俄然やる気が湧いてきた。

 会った男性のこと、お見合いの場の様子、経過と結果、そして私の考察。そんなようなことをちゃんと記録していこうと私は決めた。


 さっそく、ファイルNo.1。初めてのに臨んだ。


 仲人おばさんが、相談所のブースの一つに私たちを向かい合わせに座らせ、まずは簡単に紹介してくれる。双方のプロフィールカードを見ながらおばさんが大ざっぱな情報を確認するように伝え、私たちも何となくそれらを頭に入れる。私は感じよく相手をまっすぐに見ながら、心の中でメモしていた。


「ファイルNo.1。二つ年下の公務員。

・色が白くて、造作は地味。中肉中背。

・パッと見は「普通のいい人」。これと言った特徴はない感じ。」


 話の最後におばさんが言った。

「見て。北沢さんの姿勢のいいこと! 背筋をピンと伸ばしてらして、素敵でしょう?」

 No.1くんはにっこりと笑って、そうですねと言った。私もそれなりには緊張していたのだろう。いつもは気づくと猫背になっていたりするのに、と内心苦笑した。今日はちゃっかりこのまま「姿勢のよい北沢さん」で押し通すことにする。


 はじめは必ず相談所内で引き合わせ、それから二人でどこかへ行くという流れになる。そして、その第一回めの「デート」が終わったら、数日中に必ず「今後」について相談所に連絡をする。たいていは「今回はお断りさせていただきたい」とか「また会いたい」という希望を伝えることになるが、お断りについては理由を言わなくてはならない。そのほか、本人にではなくて相談所に確認したいことがあればそれを訊いたり、相手に目に余るルール違反があったら苦情を言ったり、という場合もあるらしい。


 ルールとはたとえば、相談所も交えて三者で「正式交際スタート」と確認されたあとでなければ、直接の連絡先を交換して勝手に会ってはいけない、などだ。陰でコソコソ会うようになって、そのままトンズラされると、結婚に至った場合の成婚料を相談所は取りっぱぐれることになるからだろう。ちなみに、相談所公認の交際となるとプロフィールカードに「交際中」のタグがつけられ、その間はその人への申し込みは受付されないということになる。


 いよいよ初めてのお見合いデート。

 私たちは、2ブロックほど離れた所にあるおしゃれで落ち着いた雰囲気の喫茶店に行くことにした。半地下になったビルの中庭に面していて、そこが大きなガラス張りになっている。ガラス面に添った席はカウンター式になっていて、お一人様でも中庭を眺めながらゆっくりくつろげそうだ。一つ二つまばらに空く程度で、すでに程よく埋まっていた。


 私たちは日のあたらない奥のテーブル席を選び、彼が私を壁側へ通してくれた。

「気遣いはまずまず」と心の中でメモ。注文もすんなりと済ませ、さあ、何を話そうか。

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