第7話 麗煌 旅立ち前夜

 「ようし…ようやく様になってきたのう。

ホレ、次はもっと小さいモノを投げるからの

受け取れい」

(受け取れって・・・【つまめ】の間違いだろ)

最初はテニスボールから始まる。

サイズも大きく、硬さもあるので連続して投げられると徐々に指の力が奪われる。

判っててか、不意打ちで米粒を投げてくる。

ひどいと交互だ。


「つッ〜、指がもう限界だぁぁ」

「泣き言ゆっとらんと、ホレまだ反対の指が残っとるじゃろ!次は左手で精進じゃ。

ココも試練の時!めげないマン!

麗煌信じてる!!d(*´ω`🎀)」


…何が信じてるだ、何が。

「うわっ」

「ほら、ボーッとしとると危うく逃すところじゃったぞ。集中集中。もし挟み損ねると追加で本数増やしてゆくからの♪それに

つまめない毎に視覚・聴覚を封印させてもらう」


(マジか…このクソ爺ぃ)

「ん?何じゃそのマジかこのクソ爺ぃ

みたいに思ってるような顔は。指が動かぬなら足があるじゃろ!足が動かなくても他の機能を使うんじゃ!!!ホレホレホレホレ!!!!」

「とんでもないです。精進精進と!」


地獄の特訓は今日も昼から夜まで続いた。

思えばあれから2ヶ月も経っていた。

「麗煌!そういえばこの前、ジェネシス・フランス代表が定まったらいのう。コレで全ての参加国代表選手が埋まった。次期で

決勝戦を開催するらしいのう。それでじゃが」

「ウチにはシード権なんてないですよ、師匠」

「まあ、そう腐るな。ジェネシス・チャイナの青パーカーのことは知っておろう」

「はい、リンレイとかいう名前の選手」

「そう。鈴麗。彼女は今の所、素顔を人前に晒したことは一度もないそうじゃ」

言外に含みをもたせ、師匠はニヤリと笑った。

 (……)

 

「察しが良くなってきおったのう。そのまさかじゃよ。ココに…」

と師匠は言い置いて

パスポートを藁の上にポンッと投げてよこす。

思わず涙が出た。

「なに、そんなことで泣いてどうする!お前はコレから鈴麗に取って代わろうとする身なんじゃぞ。甘っちょろい正義感で動くワケではない。命まで奪れとまでいわんものの

犠牲は必ず一名は出るのじゃ。ソレでも自分の目的を果たすこころ構えがあるか!!!!もう一度訊く!」


 師匠の顔つきは今までの比にないぐらいに

厳しい。

涙をぬぐい

「ハイッ…必ずややり遂げてみせます」

「なら…よかろう。今までの試練によく耐え抜いた。じゃがコレからが本番じゃ。気を抜かず最大の敵は己と常に忘れずに中国へと行ってらっしゃい荷造りは済ませてある。さぁ…お行き」

「師匠…もう夜中です。この時間帯に便はありません。もう一泊いいですか」

「……」

格好がつかなかった師匠は恥じ入るように、

いそいそと寝床へ臥せった。


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