第6話 ガン・トレット

 シングルアクションアーミー(SAA)の

手応えは不充分。

ちがう。不充分なのはミーを満足させてくれる相手が今まで一人しか居なかったからだ。

そうして、その一人には未だに勝ったことはない。

闘う理由と闘いに身を置く中で見つける理由

とはまた別物だ。そう考えていた折、

「ねぇねぇ」

肩をゆすられる感触に現実に引き戻された。

ココはフードコートが立ち並ぶ一画。

デザート・ケーキ専門店のテラス席。

ミーを現実に帰らせた相手はテーブルを挟んで真正面に座っている。


「また優勝したんでしょう?コレで3年連続かぁ。武闘大会なんて私には興味ないけどホント遠い人になっちゃったよねえ」

友人はため息をつきながらも食欲にまでは

影響を及ぼしてはいないらしい。

その証拠にコレとソレとは

別といった様子でホットケーキをパクつく。


 「ユーにだってハイスクール卒業って、大きな夢あるじゃん。それだってエライことだと思うよ〜」

「ソレはガンちゃんにしてみたら、そう特殊に思うんだよっ。むしろガンちゃんが特殊なのッ」

「そのガンちゃんって〜の、やめてほしいんだけどな」

「なんでよ〜私とはもうジュニアからの幼馴染みじゃん。未だに愛称で呼んでくれないガンちゃんのがやめてほしいよ。

それにガンちゃんて語感可愛いじゃない♪」

とミーの三つ編みをいじりながら

屈託のない笑みで語を継ぐ。

ヤレヤレ、コッチはそういう気持ちは

まったくないんだけどなあ。

そんな考えを持ってるとはいざ知らず

「フツーは、将来を見越して…そうじゃない場合もあるけど学業に専念する所を、金持ちになるのに手っ取り早いからって理由だけで

ササーッと武闘大会に出て優勝賞金かっさらう輩にせめてもの反抗だよ」と言い募る。

「泥棒みたいな言い方だなあ。まあお金に餓えてるのは本当だけどね。お金さえあれば何でもできる!が信条だし」

「それにトコトン快楽主義だしね♪」

と付け加えられる。

「まあ間違っちゃいないけどね〜アハハ」

「でも、そのガンちゃんでさえも上には上がいるもんねぇ」

「そうだよ、そうなんだよ〜。あ〜のヤロ〜にいつも負けるんだYo。毎年こうして生きてるのが不思議」

「今年は勝てるといいですね」

咄嗟にミーと友達の会話に割り込む人物が現れた。

涼しげな表情に似合うカッターシャツにスラックスといった落ち着きはらったファッション。首にまでかかりそうな伸ばし気味の黒髪

「小鈴、いいですね…じゃなくて勝つのよミーは」

「その意気だとミス・ジェネシスの最高位に与えられるジェネシスオブジェネシス。今年は獲れますよ。きっと」

コイツ(ユー)は2年前…ジュニアハイスクール時代にミーのクラスに転入してきてからというもの何かとミーの世話を焼きにきてくれる貴重な友人。もうかれこれ3年近くの付き合いになる。ユーには劣るものの身体能力は極めて高いので国からサポーターとして

の役割を任じられている。


「今年は勝って優勝賞金をガッポリモノにするからユーは見てなさい」

1番、近くでミーの練習を見守ってくれている間柄だ。

とりあえずは相手の期待には合わせる。

モチロン優勝したいのは本音だけれど。


今年…アイツは現れるだろうか。予選を勝ち取って再び相まみえるだろうか。

たとえ違ったとしても勝つ!勝ってみせる。

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