第4話 老人
「おや、お目覚めかい」
狭い視野がボヤケた輪郭を徐々にハッキリ映し出す。
いかにも着古した半袖、半ズボン。
サイドを残し禿げ上がった頭の痩身の老人が囲炉裏の中から雑炊を椀に汲み上げている。
藁を敷き詰め所々むき出しの板張りの床から
身を起こす。
どうやら、だいぶ長い間気を失っていたようだ。
「こ…ココは?アンタは?」
「命の恩人に物騒な物言いじゃな。まずは礼儀から教えねばいかんかのう。行き倒れておった所をワシが拾ったのじゃよ」
「頼んだ覚えは…」
「まずは有難うじゃ!この愚か者!!」
好々爺から殺気滲む形相へと一変した。
「は、ハイ…ありがとう…ございます」
柔和な笑顔に戻っている。
「そうじゃ。そうじゃ。ありがとう、という言葉は本来【有り得難い=有り得ることが難しい】ことから来ておる。貴重な言葉なのじゃ。感謝の次にはなんじゃ?」
どうも調子が狂う。
フードをとり、頭を下げる。
「えっと…ウチは麗煌といいます」
「ほう、その名前と顔つきから察するには
中国人じゃな。日本語を達者に喋るとは移民の出か」
「ハイ」生い立ちから今までの経緯を早口で
説明した。どうもこの老人には心を開かせる術があるらしい。
「なるほどのう。苦労しとるワケだ。
紹介が遅れたが、ワシの名は元斉という。隠居膳の老人だがもしよければ弟探しとやらに協力しよう」
「いえ、そんなワケには」
目の前を蝿が舞う。
その蝿をムダな動きなく老人は箸で摘んでみせた。
「まあ、そう言わずに。老婆心と思って」
「いったい何者なんだ、アン…」
箸で頭を小突かれた。ガードが間に合わない。
ソレに老人の動きではない。
〜っつ〜
「ワシのことはコレから元斉様、もしくは師匠と呼べ。ガキンチョよ。判ったらホラ冷めない内にメシ喰えっ」
言うなり、よそった雑炊を差し出してくる。
「…し、師匠」目から涙が溢れた。
力及ばない相手の連続の登場から世界を思い知らされる悔しさや
情けなさからなのか、それとも久しぶりの食卓を囲んでの家庭的な雰囲気から頬を伝って落ちた涙なのかはその時のウチには判らなかった。
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