第1話  麗煌

 寝床にたどり着き体を横たわらせる。

3日ぶりの食事だ。空腹にも関わらずパンは喉を通らない。

気晴らしに天井を見つめる。

「今日も雲の動きは滑らかだなあ。あんな風なら気楽なのに」

天井といっても物干し竿を幾本か縄で結わえて布を張った簡易式の空間。

風や雨に曝され所々穴が空いていて、もはや

その機能を十分に果たせていない。

桜の季節に変わったばかりでつい最近まで

の暮らしぶりは惨憺たる有り様だった。


「いつまでこんな暮らしを続けりゃいいんだよ。なあ小鈴」


 写真の中の弟は何も語りかけてくれない。

幸せだったあの頃。

父さん、母さん、小鈴。

けっして裕福ではない家庭だったけど、慎ましやかな暮らしの中で笑顔絶えない食卓だった。


 あの日…それまでの日々を裏切るように一夜にして家庭は崩壊した。

「ジェネシス」その言葉だけを言い放ち両親を殺し、弟を連れ去った黒衣の人物。

いったい何をウチらがしたっていうんだ。何の目的で両親を、弟を。

ウチはあまりにも無力だった。十四歳という

年齢を差し引いてでも。

恐怖で微動だにできなかった。

ジェネシスという名と格闘に精通している動きしか覚えていない。

また頭痛が始まった。いつもこうだ。

記憶の隅に追いやろうとラジオをつける。

《………》

《えー今年も…いよこの…節を迎え…ととなりました…》

頼りない周波数を拾っているせいかノイズが所々混じる。

気分転換になりゃしない。思いきって切ろうとスイッチに手をかけた瞬間、

《ミス・ジェネ…会を開催します…募…条件は…開催場所は…》

思わずボリュームを上げていた。

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