朝比奈みくるの帰還
1. 成人式後の急報
成人式の記念式典を終え、全員が同じ大学に入学した帰結として、かつての光陽園支部をも吸収合併した京大のSOS団総本部で、私達は成人記念パーティーを行っていた。
断酒を誓ったハルヒの厳命により、酒類は合法的に飲めるにも拘らず、例によって持ち込み厳禁である。ただし、酔わないやり方で成人したという雰囲気を楽しみたいと、私が説得した結果、渋々ながらノンアルコール類の持ち込みは許可された。
「しかし、晴れて僕達も成人したにもかかわらず、こうして高校時代からのいつものメンバーの集まりを今でも維持していることは、考えてみるとなかなか奇跡的な話ですよね」
「そうかもしれんな」
古泉とキョンが談笑している。団で唯一、去年成人したことになっている朝比奈みくるも、当然のようにパーティーに呼ばれていた。
この朝比奈みくるは、キョン流に描写するなら、みくる(中)というところの姿形である。各方面、高校時代のみくるよりは成長しているものの、大人版みくるのレベルにはまだ達してはいない。ただ、高校時代に比べて、「ロリ」的な挙動、例えば「ふぇっ」などという発声は大分抑えられ、落ち着いた、あるいは肝が据わってきたような印象を受けるようになってきた。
「涼宮さん、今日はわたしのこともお呼びいただきありがとうございます。わたしが成人したのは去年のことですが…」
「いいのよ、去年もあたしたちはみんなでみくるちゃんと鶴ちゃんの成人祝いをしたわけだし、やっぱりあたしたちの成人祝いもみんなでやりたいからね。そうでしょ、キョン?」
「いきなり俺に振るな。だが、その通りだな。俺だってやるなら全員でやりたいさ」
「そういうこと!だからみくるちゃんも今日は思いっきり楽しんでいきなさい。そういえば、鶴ちゃんは?」
「鶴屋さんは、今日は親族会議に出なければいけないらしく、来られないとのことです」
「そっか…。今から既に鶴屋家の当主代行として、エンジェル投資家になって辣腕を振るってるって聞いてるけど、やっぱりその分だけ忙しいのかしらね。まあいいわ。鶴ちゃんとはまた別の機会に一緒に遊ぶこともできるだろうし」
「そうですね」
長門有希を抱きしめたまま、振り袖姿で朝比奈みくると話しかけているハルヒは、いつものテンションではあるが、ほんの少しだけ高校時代よりも大人びているように思われた。
「佐々木さんに京子、九曜ちゃん!みんなすごく似合ってるわよ!」
そのハルヒとそっくりの声を発したのが、ハルヒの赤い振り袖と対比を成す黒のドレスに着替えた、表向きはハルヒの双子の妹であり、実は消失世界から呼び出されたもう一人のハルヒである、涼宮ハレノヒだった。
かつての佐々木団からSOS団光陽園支部に変更させられ、更には大学進学を機に正式に総本部への合流を果たした彼らは、かつての北高SOS団の3人娘が振袖で揃えて来たのに対比するように、洋風のパーティードレスを纏っていた。
「くっく。ハレノヒさんもよく似合っているよ。ところで、キョン達はどこに行ったのかな?」
「あっちにいるみたいよ!」
「そうか。同じ場所にいる期間が長い人同士の方が自然なグループ内グループを形成してしまいやすいのは、人の性だからね。総本部として涼宮ハルヒさんがまとめ上げたとはいえ、普段会話する相手はどうしても緩く二手に分かれてしまいやすい。僕はそうならないように、時折意識して向こうのメンバーとも話すようにしているんだ」
「ふうん。あたしは別にそんなこと考えたことなかったわ。ハルヒお姉ちゃんのSOS団はお姉ちゃんに任せておけばいいし、ジョンと話そうにもお姉ちゃんったら殆ど隙がないんだもの。昔恋愛感情は精神病の一種とか言ってたはずなのに、今じゃあんなにべったりしちゃってさ」
「古泉くんとはどうなんだい?」
「まあまあね。でもその古泉くんが今キョンと話してるからって、あたしがあの二人のところに行ってみるでしょ?」
「行ってみると、どうなるんだい?」
「まあ見てなさい」
ハレノヒがシャンパングラスに入ったノンアルコール飲料を持ったまま、キョンと古泉の方に近付くと、
「みくるちゃん、ちょっと待ってて」
ハルヒも呼応するように、長門を手放してキョン達に接近する。私は傍目で静かにその様子を見ていたのだが、
「古泉くん、ジョン、元気にやってる?」
「ええ、涼宮ハレノヒさん」
「まあな」
「あたしももちろん元気よ!だからあたしの団員が元気がない訳ないじゃない。ハレノヒちゃんだって元気でしょ?」
「もちろんよ!お互いに成人おめでと!」
「ありがと!と言っても、あたしたちの二十歳の誕生日はもっと前なんだけどね」
「まあね。でも成人式は人生で一度きりだもの、あたしは全力で楽しむつもりよ。ハルヒお姉ちゃんもそうでしょ?」
「当然よ!そのために団員全員集めてパーティーやってるんだもの!」
「そうよね!ところでさ、今度ジョンと古泉くんを誘って…」
「だーめ!あたしも別に二人でデートなんてしたことがないし、SOS団の活動は基本的に全員でやるものなの。ハレノヒちゃん、あなただってその辺は分かってるでしょ?」
「プライベートの活動は団外のものよ」
「でもキョンはあたしに約束してるからね、あたしに断りなく女の子と遊びに行く約束は入れないって。ハレノヒちゃん、あなたも例外じゃないわ。むしろあなただけは絶対に例外に出来ないわね。だって、あなたはあたしなんだもの」
「じゃあお姉ちゃんも一緒に誘えばいいんでしょ?いつも通り、ダブルデートってことで」
「それもいいけど、なんかいつもの4人だと飽きてくるからね。たまには、異世界人の彼にも一緒に来てもらってもいいんじゃない?」
「確かに、ハルヒは何故か俺と遊びに行くときは彼か古泉を絶対に呼びたがって、常に3人以上のメンバーでしか遊びに行きたがらないんだよな。その割に、どういう訳かハレノヒと彼が一緒になる組み合わせで遊びに行くことはあんまりない。俺はそれでも構わないぜ」
「僕も、それで構いませんよ」
「まあいいわ。あたしも、ハルヒお姉ちゃんと彼を含む3人組で行動したことは何度かあるし、ダブルデートの組み合わせも何度かあるけど、5人全員の組み合わせはめったにないからね。彼がもちろんOKなのは聞くまでもないわ」
「そうよね。それじゃあ決定!次に遊びに行くのはどこにしようかしら?電波天文台見学はこの前やったし、…久々にパワースポット系の場所に遊びに行ってみたいわね!」
私はというと、彼らと遊びに行くのでもない限りいつでも暇なので、実際ハルヒたちの言う通り、OKなのは言うまでもないことなのであった。
そして、その暇をつぶすべく、団員の会話を面白く眺めていたのだが、そんな時、携帯が鳴るのが聞こえた。
その方を見ると、どうやら鳴ったのは、朝比奈みくるの携帯のようであった。
画面を開いた朝比奈みくるは、その画面を見て表情をこわばらせたが、そのまま受話器を取った。
「もしもし…、やはり、もうダメなんでしょうか。……分かりました。せめて、お別れの挨拶だけでも……ありがとうございます」
往時のような涙目になりながら電話を切ったみくるは、悲愴な面持ちを浮かべてハルヒに近付き、
「す、すす、涼宮さん…」
と声をかけて、へたり込んでしまった。
「ど、どうしたのみくるちゃん?真っ青になって?お祝いの日にそんな表情は向かないわよ。何か大変なことがあったんだったら、あたしが手早く解決してあげるから何でも言いなさい」
「あ、あの…うぐっ……わ、わたし……今日で未来に帰らなければいけなくなりました……」
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