51. MIKURUフォルダの真実

「…」

「あんたさあ、自分が何をやったか分かってるの?」

「ハレノヒ、言っとくがここに入ってる画像は元々ハルヒが撮影した画像だぞ。ハルヒがネット上にアップしようとしたから流石にやり過ぎだろということで隠してたけど、残していたのはSOS団の活動記録としてなんだ」

「「嘘ね」」

「嘘じゃねえよ」

「嘘よ。だったら、なんであんただけ独り占めして、みんなから隠そうとしていたのよ?百歩譲ってあたしがネットにばら撒きそうだと思ったからだとしても、別に古泉くんや有希にまで隠すことではないはずでしょ」

「そりゃあ、お前がまた良からぬことを考えないように…」

「良からぬこと考えていたのはあんたじゃないの。いつもいつも、平気で鼻の下伸ばして、自分だけみくるちゃんの悩殺画像を楽しんで…。あんたこそ、あたしが知らないのをいいことに、みくるちゃんをずっとおもちゃにしていたんでしょ?」

「ハルヒ」

「まだ何か言い訳する気?」

「確かに最初はそうだったかもしれない。だがな、俺にだって、モノローグにすら出さない真の目的というのはあるんだ」

「は?」

「いいから、フォルダの最後までスクロールしてみろ」

「…何よ、これ」


 大量のみくる画像の最後に置かれていたのは、「HARUHI」と題された別の隠しフォルダだった。


「見ての通り、HARUHIフォルダさ。お前にバレると絶対消されると思ったから、MIKURUフォルダを隠れ蓑にして二重プロテクトをかけておいてたんだ」

「見せてよ」

「ダメだ。これは俺の宝物だからな」

「じゃあプロパティだけでも見せてもらうわ」

「おい…」

「…15498点のファイルって、あんたバカじゃないの?

 一体何枚撮れば気が済むのよ。というか、15498ってどこか別のところでも聞いたことがある気がするんだけど、この数字に何か特別な意味でもある訳?」

「さあな。ただ言えるのは、中にある写真を撮影したのは何も俺だけじゃないってことだ。朝比奈さんや古泉が撮影したものも結構多いぞ。

 だが、一番多いのは、長門が撮影した夏の写真だ。去年の夏休み、大半の本来は記録も記憶も消されたているはずの15000回以上繰り返した夏休みを残している、貴重な画像ばかりだぞ」

「それならなおのことあたしに見せなさいよ。怒らないから」

「ダメだ」

「団長命令よ」

「それでも」

「…分かったわ。何か意図があって隠してるのね。まあいいわ。今は深いことは訊かないであげる。

 でも、いつかは見せなさいよね」

「考えとくよ」


 HARUHIフォルダのお陰で王者の余裕を取り戻したハルヒは、


「まあいいわ。でも、こうなっちゃうと今度はみくるちゃんがかわいそうよね。こんなにかわいいみくるちゃんを隠れ蓑にするだなんて。あと一切画像が存在しない有希も」

「私の画像はこのPC内に存在しないだけ」

「有希?」

「私の画像フォルダ、YUKIフォルダは、彼が所有するUSBメモリの中に存在する」

「長門?」

「ちなみにKYONフォルダは涼宮ハルヒが所有するSDカードと自宅PCの中に存在する。保存ファイル点数は39012点、保存されている画像ファイル中91%はあなたの寝顔を撮影したもので構成されている。残り9%のうち…」

「俺の倍以上保存してるじゃねえか。しかもエンドレスサマーによる水増しもないとしたら…」

「ちょっと、有希?なんでそんなこと…と聞くのも野暮ね。情報統合思念体のリサーチ力には脱帽ものだわ。でも、勝手にばらさないよね。特にこのキョンには」

「検討する。なおITSUKIフォルダはどこにも存在しない」

「僕だけ除け者ですか」

「但し古泉一樹の画像集は古泉一樹の所有する携帯電話の中のICCHANフォルダに存在する。通俗的な用語を使用すると、自撮りに該当する画像が保存されている。

 故にSOS団の団員が所有又は閲覧するフォルダ内に自画像が保存されているという意味において、古泉一樹は除け者とは言えない。むしろ現時点で完全に除け者なのは、彼」

「彼は入団してから日が浅いですからね。しかし僕だけが自分で自分のフォルダを所有していたとは…」

「こら、有希、ちょっとやり過ぎよ。古泉くん落ち込んでるじゃない」


 口で言うほどハルヒは怒っているようには見えなかったが、


「…涼宮ハルヒによる情報障壁の展開が確認された。私の役割はあなたの観測なのに」

「ーー何も……見えないわ---」

「そうよ。あたしたちにはプライバシーがあるのよプライバシーが。だから、有希も九曜ちゃんも、たとえ宇宙人相手だろうと見せてあげられない領域はあるの。

 あたしだって、その気になれば有希のプライバシーを覗くこともできるんだけど、そんなことはしないわ」

「くっく。確かにその通り、僕達人間はどんなに親密な関係でも、ばらされたくない秘密の一つや二つを抱えているものだ。しかし、その情報障壁は、果たして僕達全員に通用するものなのかな?」

「「佐々木さん?」」


 突如話に入ってきた佐々木にダブルハルヒがハモると、


「僕の閉鎖空間の件で明らかになったことだ。異世界人の彼には僕や涼宮さんの力が全く通用しない可能性がある。違うかい?」

「--理論的には。但し、観測し得ないものは存在しない」

「解析不能。情報統合思念体は、涼宮ハルヒと彼の情報創造能力の優劣を未だに判断できていない」

「くっく。涼宮さんもお分かりだろう?」

「ええ。

 情報統合思念体にとってはあたしと彼の力はどっちも手に負えなくて、正直よくわかっていない。

 天蓋領域からすると、あたしの力よりも彼の力の方が何となく優れているらしいことを理解しているが、仮に彼があたしの意思を上書きするような真似をしても、それは観測不可能な形で起こるがゆえに、ないも同然と判断されることとなる。

 そういうことね?」

「その理解でおおむね正しいと思われる」

「--保証できる」

「そうなると、…」


 一瞬考え込んだハルヒは、私のネクタイを掴み、


「やっぱりあんたが黒幕かもしれないってことよね。あんたがその気なら、誰にも気づかれない形であたしを操って、実質的にSOS団の団長として振舞うことができる。違う?」

「仮に私がその気だったら、ハルヒさんがその事に気付くことは確実にないでしょうね」

「できるかはさておき、実際にはやってはいないということね。

 まあ、いいわ。どうせ考えても結論が出ないことだし、あたしはあたしでいるという実感がある限り、多分何とかなるから。

 今のところはあんたを信じてあげる。だって、あんた、あんた自身で何でもやってしまうと、何もかも結果が見えてしまってつまんないって目をしているから。それに…」

「それに?」

「どう考えても異世界人のあんたや超能力者の古泉くんの方があたしのタイプのはずなのに、あたしはこの平平凡凡でちょっとおバカなキョンをしっかり愛しちゃってるから。

 あんたがあたしの意思をどうとでも改変するつもりなら、まかり間違ってもあたしとキョンをくっつけることはしない。それだけは確かだわ」

「なるほど。ところで、キョン君」

「何だ」

「先ほど、モノローグがどうとおっしゃっていましたが、やはりあれは異世界人対策ですか?」

「お前なら俺に訊かずとも正解を知ってるんだろう?」

「確かに、私が介入したこのハルヒ世界の世界線についてはそうです。

 が、私が介入していないハルヒ世界も無数に存在する。それらの世界については、私達の世界から見た最大の情報源はあなたのモノローグです。アニメ版などには、部分的な例外描写も存在しなくはないが、それにしても、あなたのモノローグで記されないことについては、私達は実際にその世界に赴いて推測するなり、語られたことを元に推理を組み立てるなりするしかない。

 言い換えると、あなたは、語らないことによって、あるいは騙ることによって、あなたと敵対する可能性がある異世界人を欺くことができる。そのことにお気付きになったのではありませんか?」

「そうだ」

「ククク。どうやら、あなたもそろそろお気付きになりかけているようですね。ハルヒさんに愛されたという事実以外に、あなたが特別な存在である理由に」

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