第四幕 涼宮ハルヒの新生

50. MIKURUフォルダ、発見!

 既に落着した一件の重みのせいか、はたまた迫りくるMIKURUフォルダ暴露タイムのせいか、今日の活動を休んでゆっくりしたいと言い出したキョンに拒否権は当然与えられない。ただ、いつもならハルヒの言いなりになってネクタイを引っ張られっぱなしのキョンがやけに頑固に抵抗していたので、私達3人は部室までワープすることとした。


「キョン、抵抗しても無駄よ。こっちには、あたしと彼と、二人も集団ワープする能力を持っている団員がいるんだから」

「さらば朝比奈さんフォーエバー」

「何訳の分かんないこと言ってんのよ。さっさとMIKURUフォルダのパスワードを教えなさい」

「だが断る」

「キョンくん、往生際が悪いですよ。わたしも前から気になっていましたし」

「朝比奈さんまで」

「僕も、涼宮さんの望みに従うべきかと」

「古泉、お前は黙ってろ」

「おやおや。団長命令に従わない団員に命令実行を促すのも、副団長の仕事ですよ」

「こんな時だけ副団長面するな」

「確かに、普段はあなたも比較的素直ですので、副団長としての意識を持つ必要があまりありませんからね。尤も、団長命令にここまで頑固に抵抗してもなんとか許されるのが、あなたくらいしかいないことも大きな要因ですが」

「長門、助けてくれ」

「……私も見たい」

「長門?」

「…あなたが涼宮ハルヒに従わないのであれば、文芸部長としてあなたの立ち入り禁止を命ずることもやぶさかではない。そうなれば二度と朝比奈みくるのお茶を飲むことができずに困るのはあなた」

「くっ…」

「有希、やっぱりこのキョンはみくるちゃんのお茶目当てでここにいるってこと?」

「そう。但しそれだけではない。その目的は、彼がここに来る目的の28%に過ぎない。ちなみに18%は私の読書姿を見る目的である」

「残り54%も気になるけど、どっちにしてもこれは厳しいお灸を据えなくちゃね。罰として、今日はあたしのアツアツのお茶を飲みなさい」

「ハルヒのお茶ならあんまり罰ゲームに聞こえないな」

「な、何よそれ?あんた、そんなにあたしお手製の唐辛子茶が飲みたかったわけ?だったらもっと早く言いなさいよね」

「…そう来たか」


 言いつつ吹き出すキョンに、ハルヒは、


「何がおかしいのよ」

「可愛いなと思ってな」

「このバカキョン!そんな手を使ってごまかそうとしても無駄よ。さあ、さっさとパスワードを教えなさい」


 赤面しながらまくしたてるハルヒを見つつ、


「キョン君、そろそろ観念してはいかがでしょう?どうあがいても、ハルヒさんがその気になってしまえば、朝比奈みくるの秘蔵画像を大量保存しているという事実は隠せないのですから」

「ふぇっ?わたしの秘蔵画像?」

「お前、中身を暴露してるんじゃねえよ」

「いいじゃないですか。エロ画像が入ってるわけでもあるまいし」

「キョン、そういうことよ。見せなさい。それとも有希に頼んでパスワードを強制解除してもらおうか?」

「…分かったよ」


 キョンは観念し、ハルヒの耳元にパスワードを吹き込む。ハルヒは、みるみる赤面し、


「それ、何の冗談よ」

「冗談じゃない。試してみればわかるぜ」

「よりにもよってみくるちゃんの画像をため込むフォルダのパスワードを、あたしの誕生日に設定するなんていい度胸じゃない」

「まあ、とにかく中を見てみろ」

「…」


 ハルヒがキョンを引っ張り、赤くなったり青くなったりしながら、ふぇぇぇと言っているみくるその他の団員と共にフォルダの中身を一枚一枚フルスクリーン表示にして確認していると、


「やあ、ハルにゃん、キョン君!鶴屋家特製七夕企画、ちょろっと持ち込みに来たにょろ!」

「あ、鶴ちゃん。悪いけど、今はそんな気分じゃ…」

「おっ、みんな揃ってパソコンの前で何してるのかなーっ?あたしにも見せてよっ!何かめがっさ面白そうな匂いがするっさ!」

「鶴屋さん…」

「何だい、キョン君?ハルにゃんも気まずそうだけどさっ…、あははは、これは気まずくなるねっ!みくるの画像じゃないかーっ!もしかしてキョン君がハルにゃんのパソコンに隠してたとか?」

「鶴ちゃん、今だけはその鋭い勘を発揮するのはやめて欲しいわ」

「そうかいそうかい。キョン君の気持ちは分からないでもないっさ。みくるは見ての通り、めがっさ可愛いからねーっ!

 でもおイタは良くないにょろ。

 特に君がハルにゃんと付き合っているならねっ!ハルにゃんを悲しませたらダメにょろよ」

「…」

「ハルにゃんもそんな風に元気がないのは似合わないよっ!あたしのみくる秘蔵画像も分けてあげるから元気出すっさ!」

「そうね、みくるちゃんは罰としてこれから一週間この部室ではバニーガールとして過ごしなさい。その間に、あたしはもっと過激でセクシーでみくるちゃんにふさわしいコスチュームを探してきてあげるから、覚悟してなさい」

「ふぇっ?す、涼宮さん…?」

「これも、みくるちゃんの胸があたしより大きいせいなのよ。キョンはポニーテールよりも巨乳萌えなんだってはっきり分かったわ。どうせあたしじゃ役者不足でしょうよ」

「ハルヒ…」

「何よ、あたしの監督不行き届きにでも責任転嫁するつもり?そうね、長い間キョンの不純行為を見逃していたあたしも恥ずかしくなるわ。

 こんなんじゃ、あたしの団長の座は何だったのかしら。祭り上げのお飾りかしら?これからはもっと団長らしく、キョンのことをビシッと監督しないとね」

「ハルヒ」

「まだ何か言いたいの?」

「フォルダの最後まで…」

「やっほー、光陽園でうまく空き部室が確保できなかったから、仮にここを光陽園支部とさせていただくわよ…って、何この空気?

 ジョン、あんたハルヒお姉ちゃんに何かした?」

「---」

「…僕は帰るよ。これは嵐の前の静けさに違いない。僕は嵐に巻き込まれたらきっと沈没してしまうからね」

「帰る必要はないわ。むしろ佐々木さん、あんたも最後まで見届けなさい。このキョンが、どんな変態なのかを」

「くっく。エロ動画でも保存していたのかい?」

「もっとたちが悪いわ」

「そうにょろねっ。ハルにゃんのパソコンにみくるの画像を大量保存していたのさっ。こりゃあハルにゃんもめがっさ傷付くよねーっ」


 鶴屋さんも、口調こそ朗らかだが、目が笑っていなかった。


 パシッ。


 本日三度目のビンタがキョンを襲った。

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