34. 涼宮ハルヒのジュース
私がハルヒを待っていると、WAWAWAという鳴き声が聞こえた。女の子と仲良くしている男子を見るとすぐこれだから、こいつは困る。
まあ、流石にその程度で思考回路を改変しようとは思わないけど。
「WAWAWA、お前ら、というか特にそっちのお前、どうやったらあの涼宮が突然ジュースのおごりなんて言い出すようになるんだよ。一体どんな黒魔術を使ったんだ?」
「私からは北高一のナンパ術師、谷口流本家家元たる谷口師範殿に教えることは何もありませんよ」
「嫌味か、お前?なあ、なんでお前はそんなに俺に冷たいんだよ」
「んーと、面白くないから」
「は?」
「もう何度も言っているでしょう。私も、ただの人間の井戸端トークにはうんざりしているんですよ」
「つまり変人だから涼宮と波長が合う訳か。まあ、せいぜい変人同士、うまくやってくれ。キョン、お前も災難だったな。ようやく涼宮を手懐けたと思ったら今度はもう一人分お守りしなくちゃいけなくなった訳で。まあ、俺や国木田を差し置いて抜け駆けして彼女を作ったお前の、自業自得ってこったな」
「谷口、それを言うなら、お前こそ去年のクリスマスには光陽園の彼女を作ってたじゃないか。それも、よりによってあの周防九曜ときた」
「キョン、お前もしかして周防にも興味があるのか?
やっぱ国木田が言う通り、お前は一風変わった美少女ばかりがタイプなんだな。面と性格、どっちも重視するのはいいが性格面で求めるベクトルはもはや変態の領域だぜ。涼宮に長門に…佐々木に周防か。だが二兎を追う者は一兎をも得ず、だぞ。俺が涼宮に吹き込んだら、あいつどんな反応をするかな。WAWAWA~」
谷口は、一人で勝手に満足してどっかに行ってしまった。まあ、いいか。
「ったく、あいつは真性のアホだな」
「同感です」
「お前と意見が合うのも珍しい気がするけどな。だが俺はお前と違って、あいつのああいう部分も悪くないと思ってる」
「そうですか?」
「ああ。ハルヒに振り回されてばかりだと、中々息を抜くこともできないからな。アホ話は、しているだけでちょうどいい息抜きになる」
「なるほど」
「みんな、お待たせ!」
満面の笑みを浮かべながら3本のペットボトルを持ってきたハルヒは、ラベルがはがされた3本のペットボトルから一本ずつ、私とキョンの机にトンと置き、
「これはトロピカルフルーツを中心とした果汁100%、ストレートのミックスジュースよ。ただおごるだけじゃつまんないから、キョン、あんたはこの中身が何か当ててごらんなさい。これ1本150円だったから、ハズレは3回まで許してあげるわ。外れる度にあんたはあたしに罰金50円ずつ払うの。万一4回外したらゲームオーバーで、あんたはあたしと彼の分も含めて全額あたしに払うのよ」
「結局そうなるのかよ」
「失礼ですが、ハルヒさん。私はあなたのおごりを楽しみにしていたのですよ。間接的にキョン君のおごりになってしまったら、折角のとっておきのジュースの味も色あせてしまう」
「しょうがないわねえ。じゃあ、あんたもゲームに参加しなさい。あんたはゲームオーバーになってもあんたの分だけ払えばいいわ。キョンはあたしの分と二人分の代金を賭けた勝負よ。いいわね?」
「私はいいですが、あなたは本当にそれでいいのですか?あなたもご存知の通り私は…」
「もちろん知ってて言ってるのよ。あんたもあたしの意図を汲みなさいな」
「なるほど、そう考えると粋な計らいですね。テイクツーはなしですよ。それでは、正解は…」
私がハルヒの耳元で正解となる構成を囁くと、
「パーセンテージまで見ただけで言い当てるなんて、流石はあたしの誇るべき団員だわ!素晴らしい洞察力よ。あんたが入る今週末からの不思議探索では、きっと不思議もちゃんと捕まえられるわね。という訳であんたは一抜け。
いいわねキョン、あんたのことだから答えるのは飲んでからでもいいけど、絶対正解しなさいよ」
「へいへい。どうせ外してもこいつの分はおごらなくていいんだったら、気楽にやらせてもらうとするぜ」
「気楽なのはいいけど、真剣にやりなさいよね。せっかくおごってあげたんだから、絶対当てなさいよ」
どうやらハルヒは、本気でキョンにおごりたかったらしい。とはいえそこにゲームを持ち込むのも、何ともハルヒらしい。
「そんなに当てて欲しいんだったら、長門にでも訊いてくるか」
「バカ、あんたが自分で当てないと意味がないのよ。あんたのために買ったジュースなんだから。まあ、有希なら彼と同じで見ただけで分かってくれるかもしれないけど、そんな反則技で当てられてもあたしは楽しくないわ」
「冗談だよ。そんなにムキにならなくても」
「冗談でも、有希やみくるちゃんに頼るなんて言い方をしないでよね。もちろん古泉くんでもダメだけど。
もっとマシなことを言いなさい。減点一。
直接的な払いには加算しないで上げるけど、あんたのチャンスを2回に減らすわ。3回であたしの分もおごりね」
「悪かったな。それじゃ、行くぞ」
いうなり、ゴクンと一口飲んだキョンは、
「パイナップルとマンゴーは入っているな」
「ふうん。出だしはまずまずね。次は?」
「んーと、バナナの味もする気がする」
「正解。ここからはあんたが聞いたことのないマニアックなフルーツが出てくると思うから、特別にヒントを出すわ。ミックスされているのは、あと2種類よ」
「そうか…。んーと、キウイ?」
「ハズレね」
「パッションフルーツ?」
「当たりよ。これは次で決まるわね」
「…何だろうな、今までに飲んだことがない奇妙な味がするぞ。オレンジに近いがもうちょっと酸っぱい」
「しょうがないわね。次のヒントよ。国内でも収穫されているわ」
「国内のどこだ?柑橘系なのは分かるから、愛媛か和歌山あたりかな」
「有名なのは沖縄ね」
「…シークワーサーか?」
「当たりね。一発外したけど、まあいいわ。正直あんたが当てられるとは思っていなかったし、回答ペースとしてもあんたにしては上出来だったから、罰金は免除してあげる」
「そうかい。ありがとよ」
「団員をねぎらうのも、団長の仕事だからね」
「それなら、後で長門や朝比奈さんや古泉にもおごってやったらいい。きっと喜ぶぞ、あいつら」
「あの子たちはクラスが違ったのが運の尽きよ。まあ、次こういうことがあったら考えなくもないけど」
「ところで、ハルヒ、お前これどこで買ったんだ?俺の知る限り、校内の自販機も購買も、扱っているのは濃縮還元ばかりで100%ストレートジュースなんて売ってた気がしないし、果肉感がしっかりしていて、ホームメードだと言われても通用しそうな気がするのだが」
「それは、ひみつよひ・み・つ。もう一本欲しかったら、自分で探しなさい」
「へいへい」
正解は…私からも秘密だと言っておこう。もしかしたらハルヒの手作りなのかもしれないし、特別仕様の自販機やジュース店を異空間内に発生させたのかもしれない。あるいは、ただキョンがこれまで気付くことのなかった、実在する自販機で購入したのかもしれない。
どの答えを選ぶかは、これを読んでいるであろう異世界の諸賢の判断にお任せする。
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