30. 佐々木の本音
この二人には明るい北高の制服に酷似したKマークの光陽園の制服は似合わないな、などと考えていると、ハルヒ&ハレノヒの姉妹が口をそろえて言った。
「「九曜ちゃんと…佐々木さん?」」
「くっく。九曜ちゃん、か。二人の涼宮さんとはすっかり仲良くなったようだね。キョンから聞いた話だと、涼宮さんと九曜さんは敵同士だと思っていたんだけどな」
「「あたしが宇宙人と仲良くなれない訳ないでしょ?」」
「いやはや、僕はキミたちのその純粋さが羨ましいよ。どんな理由であれ、僕は自分を殺そうとした人とは和解はできても友人にはなれそうにないからね。ましてや僕たち人類とは全く異なる思考回路を持った相手だったら、僕だったら和解することすら覚束ないことだろう」
「確かに九曜ちゃんはあたしたちとは考え方が違うことくらいは分かる。だから、あたしたちの世界では考えにくいミスもする。でも、それは教えてあげれば済むことでしょ?分かり合えないはずはないわ。だって、あたしは有希ともこんなに仲良くなれたんだし」
「あはは……ははははは---」
「「九曜ちゃん?」」
「仲良くとは何か--宇宙人とは何か---ミスとは何か……何か--答えよ………」
場違いな笑顔を浮かべる周防九曜。
「ハルヒ、見ての通り、こいつに話は通用しないんだ。佐々木ですらお手上げの異質な考え方の持ち主なんだ。悪いことは言わん。関わらない方が良い」
「くっく。キョン、キミは涼宮さんのことは心配するんだね。では、僕はどうなのだろう?九曜さんは僕の敵ではないらしいが、敵ではないということは即危害を加えないということにはならない。九曜さんはキミと付き合おうとしながら、キミを殺そうともした。僕も九曜さんと密に関わっていたら危険かもしれない。そう思わないかい?親友」
「……」
「ちょっと、キョン、有希じゃないんだから黙りこくってないで、何か言ってあげたらどうなのよ?」
「んーと、何となくお前なら大丈夫な気がしたのさ。その点、ハルヒは危なっかしいからな。暴走して返り討ちに遭わないとも限らない」
それを聞いて、心配してもらっている側の持つ微かな優越感の色がサッと消えたハルヒは、
「あんた、あたしのことなんだと思ってるのよ!
あたしだって自分の身に降りかかる危険ぐらいは自分で察知できるわ。今の九曜ちゃんが危険じゃないことだって、ちゃんと分かるの。それに、九曜ちゃんは話が通じない訳じゃないわ。あんた、彼が持ってきたあの本をちゃんと読んでればそれくらいわかるでしょ?それともあんたの目は本当に節穴なのかしらね?九曜ちゃんの話は確かに唐突で脈絡は掴みにくいけど、全体像を捉えればちゃんとそれなりに筋は通ってるのよ」
とまくしたて、それをなだめるかのような口調で佐々木も、
「そうだね、キョン。キミは僕のことも涼宮さんのことも、キミの思いたい姿という色眼鏡をかけて見ているんじゃないか?どうやら涼宮さんは九曜さんの話から、僕には見えなかった何かを見出しているようだしね。もう少し涼宮さんのことを信じてあげた方が良いと思うな。それと、…」
と言い添え、
「ジョン、あたしは?あんた、あたしのこと忘れてない?」
とハレノヒも割って入るが、
「お前もだ、ハレノヒ。周防九曜とは関わらない方が良い。だがお前はなまじ変な力を持っている訳じゃないから、ハルヒほど狙われるとも思わないけどな」
という調子で、キョンは気付いていない。
「あは--あなたは……バカなのね---瞳が……美しい人がこんなにいるのに---あなたは………私を……一人にしようとするのね……はははは---」
「「ほら、キョンがわからずやだから、九曜ちゃん悲しんでるじゃないの?」」
「どう見ても壊れた人形みたいに笑っているようにしか見えないけどな」
「「九曜ちゃんは悲しい時も笑う健気な子なのよ」」
「長門、そうなのか?」
「解析不能。天蓋領域は情報統合思念体と論理基盤の相違が大きすぎる。解析の強行は私の負荷になる」
「そうか…。すまんな」
「あんたねえ、何でもかんでも有希に頼り過ぎよ。そりゃあ、有希はSOS団一の万能選手だし、宇宙の高次知性とつながっている以上、あたしの知らないこともいっぱい知ってるでしょうけど、たまには団長のあたしのいうことも信じなさいよ。これまであたしが選んだメンバーにミスはあったかしら?みくるちゃんや有希や古泉くんの人選に、過ちはあった?」
「そうですね。私ならハルヒさんを信じますよ」
「あんたはちょっと無条件にあたしを信じすぎだと思うけど、そうね、キョンも少しは彼を見習いなさい」
「そうだね。涼宮さんにもし人選ミスがあったとしたら、キョン、キミだけだ。キミの無条件かつ方向違いな優しさは」
チュッ。
「付き合いの長い僕さえもこんな精神病に罹らせるほどだ。キミはもう少し道理を見極め、時には厳しい判断も含めて態度をはっきりさせた方が良い。これでも僕は恥ずかしいことをしてしまった自覚があるからもう行くが、」
「そうはさせないわよ」
隣の車両に移りかけた佐々木を引き留めたのは、これまでに見たこともない闇を孕んだハルヒの声だった。ブラックホールが仮に声を発したとしても、こんなに不気味ではなかっただろう。
「佐々木さん、あんた、あたしとキョンが付き合ってるの知っててやったの?たとえほっぺだろうと…、ちょっとキョン、あんたなんで鼻の下なんか伸ばしてるのよ!」
「そうだったのか。僕は今初めて知ったよ。親友である僕の方が、団長と雑用の関係だと聞いていた涼宮さんよりも一歩リードしていると思っていたのだけどな。
これもキョン、キミの誤解が混ざった信頼が僕に勘違いさせたのだよ。キミが僕について盲目的なのは、キミが僕のことを好きだからではないか、とね。昔から恋愛感情が人を盲目にすることはよく知られているが、友人関係が盲目だった事例は、少なくともキョン以外では僕は知らない。
涼宮さんには悪いことをしたね。済まなかった」
「そうか、…そうよね。あたしとキョンが付き合い始めたのは昨日からだし、佐々木さんは知らなくても仕方ないよね。
それで、キョン。何か言ったらどうなのよ?」
「ちょっと待て、俺の頭は急展開についていけなくて既に破裂しそうなんだ。この上お前のマシンガントークまで聞かされたら、…」
パンッ。
「ジョン、そこはあんた、即答するべきところでしょ。あんたはどっちが好きなのか、それすらもはっきりさせられないの?
あーあ、あたしすっかり醒めちゃった。ジョンがこんなにヘタレだとは知らなかったわ。時間旅行とかしていれば少しはマシかと思ったのに、これじゃ向こうのキョンと大差ないじゃない。ハルヒお姉ちゃんも可哀想にね」
「ちょ、ちょっと、ハレノヒちゃん?いくら何でも…」
「はあ、ハルヒお姉ちゃんもジョンを甘やかし過ぎよ。こういう時は、殴ったっていいのよ。むしろ殴ってでも分からせてやるべきなの。全く…」
今度はハレノヒが隣の車両に移ろうとするので、私はその手を掴んで引き留めた。
「何よ」
「最後まで見てからでも遅くはないでしょう。仮にももう一人のあなたが選んだ男性なのですから、そろそろ骨のあるところを見せてくれるんじゃないかな」
「…まあ、いいわ。変に目をそらして、あたしだけ勘違いしたままになるのも癪だしね」
「間もなく、…、お出口は…」
「もう着いたのね。とりあえず話は降りてからにしましょ」
気まずい雰囲気が漂った状態のまま、私達はハルヒの一声に従って電車を降りた。
昨日は別の駅が最寄のお嬢様学校だった光陽園が、北高と同じ駅を最寄りとする、新生北高と同レベルの中高一貫の超進学校に生まれ変わっていたのは、言わずもがな、ハルヒの改変の結果である。
私に配慮し、ハレノヒができるだけハルヒの似姿になるようにという心配りの結果…だと思いたいのは、私の傲慢だろうか。
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