26. 彼の能力

「意見の一致が見られるまで、涼宮さんに時間をループさせてもらうのです」

「は?俺はあんな風に15000回以上繰り返された夏休みと同じ経験をするのはごめんだぜ」

「しかし、時間を進めない限り、SOS団が分裂することはない。ループ開始時点の設定次第では、異世界人が涼宮さんの能力を自覚させることなく終わるシークエンスも発生することでしょう。その場合は、当然皆さんの意見は一致しているので、ループから抜け出せます。

 そうすれば、我々は不必要な変化を防ぐのみならず、元の世界に帰ることもできます。決して悪いアイディアではないと思いますが」

「推奨されない。時間のループ現象は、ヒューマノイドインターフェースのエラーの蓄積を加速させる。結果として、何らかの誤作動が発生するリスクが大きくなる」

「わたしも、たとえいつか抜け出せると分かっていたとしても、未来と連絡が取れなくなるのは怖いです」

「俺も願い下げだぜ」

「そうですね、私も、繰り返しは飽きるのでやめて欲しいものです。既に得たものを失いたくはありませんし」

「…分かりました。では、どうしましょうか?」

「古泉、意見が合わないぐらいで瓦解するほど俺たちの結束は弱かったのか?俺はそうは思わないぜ。だから、俺たちの話し合いをハルヒに知らせて、団長命令で決めるのも一手じゃないか?」

「ですが、それだとまず元の世界には戻れないでしょうね。僕はこれ以上改変されなければひとまずは良しとしますが、あなたはそれでもよろしいのですか?」

「あいつが俺の意見を重視する可能性もあるだろ。やってみなければわからん」

「…ふう」

「何だ、お前、何かあるのか?」


 意識しないうちについた溜息を、キョンに聞かれたらしい。仕方ないか。


「私としては、皆さんの記憶や思考方式を私の都合のいいように改変してしまうのが、一番簡単なんですよね」

「ふぇっ?」

「お前…」

「ですが、それだと面白くないので、今のところそうするつもりはありません。あくまで最終手段です。覚えておいてください」


 場の空気が固まった。最初に口を開いたのは、古泉だった。


「あなたにその力があることは分かりました。

 僕も自分の頭の中をいじくりまわされるのはごめんですので、現段階ではやはり涼宮さんを全面的に信頼するのが一番良さそうですね。

 彼女を信頼している限り、たとえあなたが僕の改変を強行しても、涼宮さんが僕を元に戻してくれるはずですし」

「わたしも、それでいいと思います。異世界人さんにわたしの考え方を作り替えられるくらいなら、最初から涼宮さんを信じます」

「そうすると、多数決を採用するなら対応は決まりましたね。お二人のご協力に感謝します」


 ここで割り込んできたのは、キョンだった。


「俺は認めねえぞ。こんなの、恐怖政治じゃねえか。ハルヒだってこんな強引なやり方はしねえ」

「ですが、キョン君、あなたにしても、一連の改変で得たものは大きかったはずですよ。例えば、ハルヒさんとの関係とか」

「くっ……」

「ハルヒさんなら、世界をより良い方向に導けるのです。あなたも、今日の出来事を見て知っているはずですよ。その足枷になって、本当にいいのですか?」

「……」

「それは、彼女の期待を裏切る行為ですよ」


 黙りこくっていたキョンは、突如爆発した。


「うるせえ。お前は正論を吐いているのかもしれねえし、俺はお前に論戦では勝てねえアホなのかもしれない。けどな、全てはお前のお遊びなんだろ?

 お前が楽しむためであって、ハルヒが楽しむためじゃねえ。だから、こんなのは認められねえ」

「それは、本当に彼女の望むことでしょうか?」

「たとえあいつもそれを望んだとしても、こんなのは認められねえ」

「しょうがないですね。一晩お休みになって、頭を冷やされてはいかがでしょう。慣れれば、ハルヒさんによる改変の結果も、すんなり受け入れられると思いますよ」

「そうはいかんと思うがな」

「まあ、明日になればわかることです。他の皆さんは納得しておられるようですし、これ以上の話し合いは無意味でしょう。そろそろお開きにしませんか?」

「ええ、そうしましょう。では、また明日」

「…それもそうだな」

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