23. 涼宮ハレノヒの登場
「紹介するわ。こっちがあたしの妹のハレノヒちゃん。で、こっちが、えーっと…」
「周防九曜、なのか?」
「あ、そっか、キョンはもう知っているのよね。あたしも何となく見たことはあるけど」
「そうよ、ジョン、ハルヒお姉ちゃん。ここにいるのは九曜ちゃん。こっちの世界の有希とはまた別系統の宇宙生命体らしいわね。それにしても、こっちの世界の有希ってあっちのゲーム好きメガネっ子とは違ってクールなルックスだわね。これはこれでいいと思うわ」
「---ああ……あなたに---会えて---良かった……これは--歓迎の挨拶---」
「あのなあ、えっと、ハルヒ?」
「「何よ」」
ハレノヒと名乗ったもう一人のハルヒも、やっぱりハルヒには違いなかったらしい。そうでなければ、返事がハモることはなかっただろう。
「お前、知ってるのか?周防九曜はお前を殺そうとしたんだぞ」
「確かに本ではそう書かれてたわね。でも、あたしはそんなこと覚えてはいないし、ハレノヒちゃんと仲良くなれるのならきっと大丈夫だわ。本を読んだ感じだと、単純にあたしたちにとっての生と死の持つ意味を理解できていなかった状態のまま偽未来人の藤原にいいように操られていただけにも思えるし、それなら教えてあげればいいだけのことじゃない?悪気がないのなら、それは悪者じゃないのよ。
有希が熱を出した件にしても、別の宇宙人と連絡とり合おうとして互いにオーバーヒートになったってだけの単純な話で、悪いのは親玉の天蓋領域とやらであって、末端の九曜ちゃんが悪いわけじゃないし、九曜ちゃんのことならきっと大丈夫よ。
だって、ハレノヒちゃんはもう一人のあたしなんだから」
「あんたさあ、九曜ちゃんがこっちのあたしを殺そうとしたって言ってもねえ、あたしはそんなこと知る訳ないじゃないの。純粋に宇宙人らしいから一緒に遊ぼうと思っただけよ。
ジョン、あたしはあんたに会いに今日ここに来たばっかりで、あたしの記憶は殆どがあっちの世界のものなんだから、文句を言われても困るわ」
「どっちに返事したらいいか考えちまうぜ。これだったら、もう一回αとβに分裂しないとどうにもならない気がしてきたぞ…」
「「まずはあたしに返事しなさい」」
いつもの二倍のハルヒパワーには、流石にハルヒ慣れしているキョンも押され気味のようだ。彼は、ごまかすようにして、長門に尋ねた。
「長門、お前どういうことだか分かるか」
「仮称涼宮ハレノヒは生物学的には涼宮ハルヒと同一。涼宮ハルヒの異時空同位体。但し涼宮ハルヒと異なり環境情報を操作する能力はない。
通俗的な用語を使用すると異世界人に近いが、厳密には異時空人と呼ぶべき存在である。涼宮ハレノヒの出身時空連続体は現行時空連続体と時空連続性が途絶しているものの、より高次の情報連続性は維持されているからである」
「んーと、そもそもあっちの世界は修正で消えたんじゃなかったのか?」
「私が改変した世界は、修正プログラム実行時に、別の時空連続体として独立しており、現在も存在する。但しこれは本来の修正プログラムには組み込まれていない予想外の結果であり、原因は情報統合思念体も解析できていない。情報統合思念体が当該時空連続体を詳細に観測することは不可能だからである。
但し周防九曜の発言データに基づく限りにおいて、天蓋領域にとっては観測可能だと推測される。
涼宮ハレノヒがこの時空連続体に転移したのは、涼宮ハルヒが当該時空連続体の存在を検知して、涼宮ハレノヒをあなたに会わせたいと考えた結果」
「つまり?」
「彼が時空改変のことを涼宮ハルヒに知らせた後、あなたがジョン・スミスと同一であることを涼宮ハルヒが察知した瞬間、涼宮ハレノヒがこの時空連続体に転移することが確定した」
ここで、周防九曜が割り込んできた。
「ーー仮幻宇宙……重なっただけで消滅しなかった--」
「「九曜ちゃん?」」
「明日がなかった世界。昨日がなかった世界。存在し得なかった世界が強制的に存在させられた。局地的な改竄の結果。明日が作られた。再改竄の結果。仮幻宇宙は自立した。面白い。それは私達に改めて新鮮な驚きを感じさせた」
「なんかますます理解できなくなってきたな」
「つまり、こういうことでしょう。この世界をかつて長門有希が改変した際、改変の結果生まれた時空は、仮のもの、元あるものを上書きしたものでしかなかった。だが、再改変の際に、私達がいる時空とは別の時空として独立した営みを行うことが可能になった。違いますか?」
「そう」
「ーー保証できる」
「へえ、まあ、もう一人のあたしも、消えちゃったらもったいないもんね。せっかく生まれたんだから。
ところで、ハレノヒちゃん?」
「何よ」
「この世界では、あたしが団長でホストでご主人様なんだから、あたしの命令には従いなさい。あんたにとっては、こっちの世界は新鮮で勝手も分からないことだろうし、何かあったらあたしに訊いてちょうだい。遠慮はいらないわ。あんたは仮にもあたしなんだから、遠慮なんてするわけがないんだけどね。
他の人の命令には従う必要はないわ。あくまでもあたしである以上、あんたはあたしの言うこと以外は聞かなくてもいいし、あたしがいないときには、このキョンを雑用に使っても問題ないわ。
その代わり、あたしもあんたの世界に遊びに行ったときには、あんたの命令に従う。これでお互い様。問題ないわよね?」
ハレノヒは、一瞬口をアヒル口にして見せたが、
「分かったわ」
とあっさり受け入れた。
「流石はあたしね。ゲームなんかであたしを二人登場させているものでは、何故かあたし同士でケンカしてたけど、あんなのあり得ないわ。あたしと最も気が合う相手は、あたし自身に決まってるじゃないの」
「そうよね。そのゲームとやらが何かは分からないけど」
「そこの異世界人の彼が言うにはね、あたしたちSOS団は彼の世界で大人気らしいのよね。それで、あたしたちのことが彼の世界ではゲームになったりしているのよ」
「へえ。それは面白いわね。今度あんたの世界にも遊びに行っていい?」
「あたしも本当だったら、彼に頼んだりせずにあたし自身の力で行きたいんだけど、どうもそれができないのよね。あたしの力は、この世界の外までは及ばないらしいのよ」
「「という訳で、あんたにお願いしてもいいかしら?」」
「…悪いけど、それはできない」
「「どうして?」」
「あなたたちは、この世界にいてこそ輝けるんだ。あなたたちを作り出したあっちの世界を見せたら、きっとあなたたちはこっちの世界よりも凡庸であることに失望するだけですよ」
「「あんたがいるじゃないの。それだけで何だか面白そうだわ」」
「いえ、私しかいないんですよ。あなたたちの世界に敢えて潜り込んだ異世界人は、今のところ」
「「ふうん。まあ、いいわ」」
さすがに二人ともハルヒである。息が合うところはぴったり合っている。
「間もなく、新宿、新宿、お出口は…」
アナウンスが流れると、周防九曜はさっと立ち上がった。
「ここで--降りる……また--明日……これは--再会を期待した挨拶ーーーー」
「「じゃあね、また明日」」
「俺はあんまり何度も会いたくないけどな。お前だけじゃなく、俺もなんかよく分からない理由で殺されかけたんだぞ」
「「大丈夫よ。あんたには、あたしがいるんだから」」
「……」
長門は沈黙を保っていたが、心持ちホッとしているように見えた。
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