22. 涼宮ハルヒの分身
「あら、もう5時なのね。じゃあ、今日はこれでおしまい。また明日」
普段なら長門が本を閉じるのが下校の合図のはずなのだが、今回はハルヒが陣頭に立って帰宅作業に入った。
「ちょっとキョン、待ちなさいよ。あんたは今日からあたしと一緒に帰るんだからね。あんたいつも遅刻しそうだから、登校は別にあたしと一緒じゃなくてもいいけど。
あ、あたしがあんたの家まで迎えに行ったときは別よ。その時はやっぱり一緒に来なさい。パンをくわえたままでもいいから、呼んだらすぐに出るのよ。でないと、置いていくからね」
「付き合ってるからか?」
「そうよ、当たり前でしょ?」
「やれやれ」
「涼宮さん、僕たちは別々に帰った方が良いでしょうか」
「どっちでも構わないわ。キョンと二人だけでも、みんなと一緒でも、あたしは楽しいしね」
「了解しました」
古泉が返答するかしないかのうちに、荷物をまとめたハルヒは立ち上がり、
「じゃあもう帰るわ。最後の人は部室の鍵をよろしくね」
と言って、キョンの袖をつまんで引っ張っていった。どっちでもいいというなら、せっかくだしちょっとご一緒させてもらおうと、私も後を追った。
古泉は来なかったが、玄関口で合流した時には、いつの間にか長門も一緒にいた。
「あら、有希とあんたもいっしょなのね。古泉くんとみくるちゃんはまだみたいだけど、まあ、いいわ。行きましょ」
キョンを引っ張るハルヒがどんどん先へ行こうとするので、私がそれを追いかけようとすると、長門がベルトに指を引っ掛けて私を止めた。
「あなたの文芸部への入部を認める。活動内容は、読書及び文芸作品の創作。SOS団の活動の傍ら、適宜文芸部としての活動も行うことを希望する」
「分かりました」
「……」
「まだ、何か?」
彼女がまだ指を離さないので、私が尋ねると、
「私の住所が5708号室に変更された。涼宮ハルヒによる情報操作の結果。今日、来て」
と言って、ようやく手を離した。
「では、彼らを追いますね。あなたも一緒に来ますか?」
「そうする」
私達は追いつき、何となくハルヒとキョンのたわいもない話に付き合いながら、山手線に乗った。
私は、特にすることもなかったので車内広告を眺めていた。こちらの世界の時代設定だと、走っている山手線は動画広告を導入したての旧式車両だと思っていたのだが、何故か走っていたのは、その次の世代の、萌黄色に染められた扉が目立つ車両であった。
「いいのよ、こっちの世界では、特に21世紀に入って以降、あんたの元いた世界と微妙に歴史が異なるんだから。だってそうでしょ?Replikaが動いたのも、サーバーが物理的にこっちの世界に存在するからなんだし」
というのは、何というか、ハルヒらしい大雑把な言葉である。
「あっ、そうそう」
ボーっとしていると、唐突にハルヒはキョンのみではなく、ここにいる全員を対象とした呼びかけを行った。
「そろそろ、あたしの双子の妹が乗ってくると思うわ。ここは光陽園の最寄りだしね」
「は?お前、妹なんかいたのか。初耳だぜ」
私も初耳だが、状況は何となく察知した。しかし、ネタバレになるので、こっちの世界の読み手向けにも、キョン向けにも、まだ伏せておこう。
「そうね。あの子は今日のある休み時間に呼び寄せて、こっちではあたしの双子の妹をやってもらうことにしたんですもの。キョンは知らなくて当然よね」
うん、私は伏せておいたぞ。だが、どうやらハルヒとしてはあっさり明かしてしまっていいものらしい。
「おいおい、まさか誘拐でもしたのか?」
「違うわ。向こうが来たそうだったから、こっちに呼び寄せたのよ。ほら、来たわ」
扉が開いたとき、入ってきたのは、消失世界の、あのロングヘアーのままのハルヒと、更にもう一人。
「あっ、ジョン。あんた、やっぱりこっちにいたのね。会いたかったわ」
「----」
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