18. 涼宮ハルヒの放課後
放課後になった。
超進学校でしかも芸術コースや国際コースも存在する学校なら、宇宙人もびっくりの名物教師の一人や二人はいそうなものだ。が、「普通の」学校である元県立北高に入った、中学時代は孤独に過ごしていて、進学校組の知り合いも、敢えて言うとしても、佐々木ぐらいしかいなそうな少女に、そこまで期待するのは過分というものだろう。
とはいえ、あまりに普通だと互いに退屈しそうなので、後でそういう話も少し吹き込んでみるか、というのはさておき。
「へえ、あんたって、課題が与えられたら勝手に自分一人でどんどん進んでいくタイプなのね。団長命令も気に食わなければ無視するつもりだったら、そうは問屋が卸さないけどね。でも、やるじゃないの。出された宿題を授業中に終わらせて、課外時間全てをSOS団に捧げようとするなんて、いい心がけだわ」
「いえ、ちょうどいい暇つぶしになりません?だって、教師は分かり切ったことを焼き直しているだけだし」
「まあ、分からなくはないわ。それに引き換え、キョンったら、…ほら、いい加減起きなさいよ。そんなんだからあんたはいつまでもヒラ団員なのよ」
「私達の世界では、あまりその手のことを言い過ぎるとパワハラだのなんだの言われそうですけどね」
「いいのよ。こっちの世界では、世界はいつかはあたしを中心に回るんだし。あたしは世界を大いに盛り上げる偉大なる団長で、キョンはそのための忠実なるしもべよ。だから、喜びこそすれ、あたしを訴えるなんてことは断じてないわね」
「まあ、相手があなただったら、殆どの男は…おっと、オタク的変態発言はこちらの世界でもセクハラになりかねないので、止めておきましょう」
「あたしはそのくらいだったら、別に気にしないわ。このバカキョンみたいに、エロ本がどうとか言い出したら別だけど。ったく、ほら、いつまで寝てるのよ、キョン!」
かくいうハルヒは、満更でもなさそうだ。別世界とはいえ、一つの世界をSOS団が大いに盛り上げていることを知ってしまえば、彼女が喜ばないはずはないのである。
ハルヒは、不思議な、しかし善良な宇宙人を望んではいても、悪辣極まりなく侵略戦争を仕掛けるエイリアンは望まない、そういう子だからね。まあ、いざ侵略戦争が起こったら、「超元帥」として陣頭指揮を任せられる子でもあるんだけど。
「ん、…俺は、一体何を?おい、ハルヒ、今何時だ」
「放課後よ。もう、あんたったら昼休みが終わってから今の今までずっと寝っぱなしだったんだから。先生も呆れてあんたには指名すらしなかったようね。あんたはラッキーだとか思ってるんでしょうけど、団長のあたしの目の前であんなマヌケ面を晒すなんて、団員の恥だわ恥。
あんたも彼を見習いなさい。彼ってば、授業内容が分かるからって宿題を先に片付けていたのよ?」
「そりゃあ、あいつならそれぐらいするだろうが、俺とは頭の出来も思考回路もまるっきり違うようだしな。俺にそれを求めるな」
「まあ、今はまだいいわ。でも、これからあたしがみっちりあんたに教えてあげるから、夏休みまでには彼と同じぐらいできるようになること。いいわね?」
「そんな、無茶な…」
「あんたならできるわ。あたしの見込んだ団員その一なんだから」
「なあ、ハルヒ。そんなに望むんだったらいつまでも俺をヒラにする意味はないんじゃないか?」
「バカね、ヒラだからこそ期待してるんじゃないの。いい?ヒラは、役職もちの十倍は働かないといけないのよ。逆に言うと、その分だけヒラには期待がかかっているって訳。古泉くんに負けることなんて許されないんだからね」
「あいつは芸術コースだからあまり関係ないだろう…、って、ん?今更だけど、あいつ、どんな芸術を究めているんだ?普通に頭もいいから普通科向きのイメージなんだが」
「えーっと、…文芸、演劇、その他いろいろね。有希ほど万能じゃなくても、古泉くんも多才だからね」
「なんかお前にしては歯切れが悪い答えだな」
「あんたに改めて聞かれるとは思ってなかったからよ。あんたが物覚えが良くないのは知ってるけど、あんた、流石に普段からのゲーム仲間のことくらいは知ってると思ってたから。でも、そうね…有希なら知ってると思うわ」
「そこで長門に丸投げするなよ」
この二人、そのままにすると話が終わりそうにないので、私は先に行こうと決意する。
「お二人さん、仲がいいですね。ですが、話が長引きそうなので、私はお先に部室で待っていますね」
「あ、ちょっと、あんた、言いたいことだけ言って逃げるんじゃないわよ。待ちなさい。キョン、あんたもついてきなさい!」
「おい、引っ張らなくても行くって」
「ダメよ。キョン、彼に負けたら承知しないんだからね」
「私はワープしちゃえるんですよ」
「ダメよ。少なくともこの競走が終わるまでは禁止ね」
「仰せのままに」
「じゃあ、部室まで競走よ。よーい、…って、何フライングしているのよ!」
「それくらいのハンデがあってもなお勝てるのがハルヒさんでしょ?」
「言ってくれるじゃないの」
「ククク」
「キョン、彼を追うわよ!」
「へいへい」
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