15. 涼宮ハルヒの進路
教室に戻るなり、私は言った。
「さて、ハルヒさん」
「何よ」
「色々お見せしましたが、そろそろ入団面接の結果発表でもしていただけますか?」
「言わなきゃわかんないのかしら?」
「言わずとも確信はあります。しかし、団長さん自らの言葉を聞かせなければ分からないかもしれない人が約一名、あなたの前にいるではないですか」
「そうね…。あんたが異世界人というだけでとっくにラインを突破している上に、あんたがあたしに見せてくれた話も面白かったから、余裕で合格よ。ヤスミちゃんを超えた首席合格ね。この先10年はあんたを越える人は出ないと思うわ。光栄に思いなさい。そして、キョンも彼を見習いなさい」
「ありがたき幸せです」
谷口あたりの呆れた視線が刺さる。彼女の考えを理解できないアホは相手にすることはない。学校自体が超進学校になっても、谷口はやはりアホのままなのに違いない。そういう人間は鉄緑会で桜蔭の子をナンパすることでも考えていればいいのだ。
「そういえば、一つ言いそびれていたことがありました。元の北高は進学校になりたい系の普通の県立高校だったので、受験向けカリキュラムが色々ややこしかったようですが、全国トップクラスの進学校になると、逆説的ですが学期外の補講は行われなくなるんですよ。ハルヒさん、その辺の調整はぬかっていませんね?」
「当然よ。夏は夏らしく、夏じみたことをしなくちゃいけないのよ。補講なんかで埋められてたまったものか…、という理由ではあるけど、ちゃんと消してあるわ。でも、それが本当なら、開成や灘や桜蔭の頭いい子たちは、随分と楽してるのねぇ」
「ついでに言うと、トップクラスの学校は必ずしも業者の全国共通模試は使わないんですよ。模試も教員が自作するのが仕様ですね」
「へえ、あんた、詳しいのね」
「元の世界では、その方面の経験が多少あったものでして」
「ふーん。じゃあ、ちょっと聞いて良い?」
「はい」
「あたしたちのSOS団の卒業後の拠点は、東大でいいと思う?都立の超進学校だと、地理的にはそうなりそうだけど」
「東大はあまりいい場所だとは思いませんね。SOS団に向いているとしたら、もっとリベラルな京大か、あるいは海外の名門かというところでしょう。少なくとも、真面目な秀才を体系的に育てる東大は、ハルヒさんのような天才肌の子にとっては、入っても息苦しくてつまらないだけかと」
「そう。それじゃ、SOS団の進学先はハーバードで決定ね。世界一の大学なら、きっと文明の中心として宇宙人も紛れ込んできているに違いないわ。地球文明が、あと何年したら自分たちに挨拶しに来てくれるかな、って」
「私は構いませんが、キョン君が既に死にかけていますよ」
「もう、仕方ないわね。スタンフォードで折り合いをつけてあげるわ。西海岸の方が日系人も多くて、キョンも英語が使えないなりに何とか日系コミュニティに頼って生活はできるでしょうし」
死にかけのキョンが窮鼠ばりにカウンターアタックを発する。
「おい、ハルヒ、世界に飛び立つのは日本の地盤を固めてからでも遅くないんじゃないか?まだ地域レベルの支部組織も固まっていないことだし」
「バカね、キョン。地球は、この大宇宙では辺鄙な星でしかないのよ。最低でも地球を代表するぐらいのグローバルな組織にならなければ、わざわざあたしたちに興味を示す宇宙人が集まってくるわけないじゃない。有希は特別運が良かっただけで、あたしはもっともっと宇宙人も未来人も超能力者も集めたいと思ってるのよ」
「それにしても、せめて大学教養レベルの英語を身に着けてからじゃないと、お前らは良くても俺がついていけなくなりそうだぜ」
「…もう、しょうがないわね。キョンったら」
「まあ、それもそうですね。キョン君が見た未来では、確かハルヒさんは日本語でキョン君に話しかけていた。英語圏の大学であれば、ハルヒさんほどの才女は学内であれば普通に英語を使うはずで、そんなことをするはずはない。そう考えると、朝比奈みくるの視点からしても、国内進学は既定事項だと思われます」
「つまり、あたしたちが海外を選ぶと、みくるちゃんのいるべき未来が壊れるかもしれないってことね。しょうがないわねぇ。いいわ。なら、SOS団は京大に行くことにするわ。
でもね、キョン、いい?今国内にとどまるのは、シリコンバレーで勝っても普通過ぎて面白くないと感じるからよ。あたしたちは、この宇宙の辺境の星の中でも、特にガラパゴス化した辺境の国から出発して、世界をあっと言わせてやるのよ。地球も、宇宙も含めた、全世界を。16年後か25年後には、世界はあたしを中心にして回ってないといけないんだから」
「ああ、確かにそれなら世界を大いに盛り上げられそうだな。問題は、どうしてお前らが京大だのハーバードだのを余裕そうに語るか、ということで。俺は京大でも全然受かる気がしないぜ。そもそも俺は本来こんな進学校に入れる頭じゃねぇし。
…ああ、そうか。これが今回お前がやったことなんだな?さっき県立がどうとか言ってたし」
「入れないなんて、ドヤ顔で言うことじゃないわね。いいわ。あたしがあんたの分からないところは特別にタダで教えてあげるから。
大丈夫。あんたは絶対に落ちさせないから」
そう言ってキョンに顔を近づけるハルヒをしばらく見つめていたキョンは、何を思ったのか、吹き出した。
「ぷっ」
「何よ。なんかおかしなこと言ったかしら?」
「…ありがとな、ハルヒ。お前のその気持ちだけで、京大なら何とかなりそうな気がしてきたぜ。ハーバードはさすがに無理だけどな」
「わ、分かっているならいいわ」
そんなことを話している合間に、始業のチャイムが鳴った。
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