7. 朝比奈みくると彼

「おや、あなたがここにいるとは思いませんでした。いつかはお会いする必要があるとは思っていましたが、まさかこんなにすぐにお話しできるとは…。朝比奈みくるさん」

「私もここに来たのは予定外です。あなたの存在は私にとってはそれほどの一大事なんです」

「既定事項から外れているから、ですか?」

「仮に禁則を持ち出しても、あなたならどうとでもできてしまうのでしょうね。あなたは、世界の異常現象を発見しているだけの可能性がある涼宮さんとは異なり、真にこの世界を創造する力があるらしいのですから…」

「と言ってごまかしても、否定はしないんですね。

 せっかくなのでもう少しお話ししましょうか。原作、漫画版、並びにアニメ版の公式・一次創作の世界線では、異世界人の登場予定はなかった。何故なら、涼宮ハルヒの能力が異世界まで及ぶことをそれを認めてしまうと、私達の世界とハルヒ世界が交わってしまい、こちらの世界で起こっていない何かの相互作用をハルヒ世界が一方的に認めてしまうと、さすがに許容できないレベルで作品の虚構性と矛盾が明らかになってしまうからです。

 作品世界は、作中で完結する必要があったがゆえに、原作者は異世界人を登場させる予定はなく、したがって、朝比奈さんの未来でも、未だ異世界人の存在は知られていない。違いますか?」


 大人の朝比奈みくるは、ため息をついて言った。


「仮に違っても、あなたは違わないことにしてしまえるんですよね。ここは、いわば原作者の手を離れた、二次創作の世界線らしい以上」

「そこまでご存知なら、あなたは自らの無力を自覚されているはずです。にもかかわらずここにいらっしゃった。興味深いですね。

 目的は、世界改変の阻止、ですか?」

「そうです。

 あなたにはどうとでもできるのかもしれませんし、どうでもいいのかもしれませんが、あまりに大幅な改変は、私たちの未来に悪影響を及ぼしかねない。そうすると、今ここで高校生活を送っている私も、その存在を脅かされる可能性があるのです。

 あなたを止める力はありませんが、涼宮さんを動かすとしても、私たちの未来から離れ過ぎない程度にほどほどにしていただけますか?」

「改変をも既定事項とした世界線でも、ここにいる朝比奈みくるの存在や、その未来の姿であるあなたの存在が脅かされることはないでしょう。古泉一樹にも伝えたことですが、ハルヒさんは、仮に世界を改変したとしても、団員並びに団員の大切にしている事項をむやみやたらには壊さないはずです。

 それに、仮に彼女がやり過ぎても、最悪私自身でもどうにかできますから。どうかご安心を」

「あなたは、この時間の私にはあまり興味がないのですよね。どこまで安心できたものだか分からないわ」

「うーん、というより、未来人全体にそこまで興味がわかないんですよ。ただの未来人なら、ちょっと先の時代からやってきたこと以上に特筆事項のない、『普通の』人なのでしょうから」

「あなたは、あるいは涼宮さん以上に珍奇性や不思議を追い求めているのかもしれませんね。困ったイレギュラー分子です。しかし、あなたが涼宮さんをそこまで信頼しているのであれば、…しょうがないわ、お任せします」

「お任せされましょう」

「もう時間がないわ。これで失礼します。こっちのみくるちゃんをよろしく頼みますわ」


 大人の朝比奈みくるは、そう言ってウィンクすると、瞬く間にすっと消えていった。


 大人の彼女は、綺麗なのかもしれないけど、ちょっと化粧が厚すぎる印象を受けた。やはりどうも朝比奈みくるは私好みではない。

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