沖縄で未知との遭遇

 3月22日午後5時半。山口県下関に着いた安永拳、城ヶ崎しげる、玉木浩、ルギーの4人はしばし駅の周辺を散策した後、次の目的地を決めるためにサイコロを振ることになった。ルギーの書いた行き先はこちら。


 1.くいだおれ 大阪

 2.今度も島 佐渡

 3.北の港町 函館

 4.温泉につかりたい 湯布院

 5.花の南国 沖縄

 6.いよかんうまい 愛媛


 振る人物は、最初にものの見事に『はかた号』を引き当ててしまった安永。はたして、安永が振ったサイコロの目はいかに?


 「5… …沖縄。花の南国ですね~」

 「今日行けるのか?」

 「みんな急ぐよ」

 「え、もう?」

 「最終便に間に合うから。行くよ」


 急いで下関駅に走っていく一行。JRで福岡空港に行き、飛行機で沖縄県は那覇に向かう。


 夜9時。一行は沖縄県の那覇空港に到着した。


 「我々、とうとう南の楽園沖縄にやってきました」

 「やはり沖縄、空気がちがいますね」

 「暖かいていうか、暑い!」

 「今日はもう遅いから早く宿とりましょう」

 「いい判断だ、ヤスケンくん。さっそく宿を探そう」


 近くのファミレスで晩飯を食べた一行は、1時間ほど歩いた後、安い民宿に泊まることになった。風呂に入った後、布団に寝そべる一行。


 「釜揚サイコロの旅も3日経ちましたが、みなさんいかがですか?」

 「正直言うよ。正直言わせてもらうよ。しんどい… …」

 「ああ、優雅な旅のはずが、いきなり半日以上もバスに乗ったり、一日に2回も飛行機に乗ったり。とにかく移動ばかりできつい」

 「でも普段じゃありえないシチュエーションだからある意味貴重じゃない?」

 「まあ、貴重っていうかありえない?」

 「こんな旅は二度とできないよ。楽しまなきゃ」

 「ルギーさん、一番やられてんじゃん」


 ルギーが苦い顔をする。すると、安永が突然立ち上がった。


「トイレ」


 安永は部屋を出て、トイレに行った。数分後、廊下からドタバタと走ってくる足音が聞こえてきた。安永が勢いよくふすまを開ける。餌を食べる金魚や鯉のように口をパクパクあける安永。


 「ヤスケン、どうしたの?」


心配するしげる。


 「出たよ… …」

 「出たって何が?」

 「とにかく出たんだって!」

 「だから、何が?」

 「ま、丸いのが出たんだよ。しかも、動いたんだよ」


玉木が安永をなだめようとする。


 「丸くて動くもの?ミッフィーみたいなもんじゃん」

 「そうそう、ミッフィーみたいなの。でもね、白かったんだよ。白いのが窓の外からこっちに向かってきたんだよ!」

 「もしかして、その後ろにいるヤツ?」


 安永が振り向き、ルギーの指さす方向を見ると、白くて丸い生き物がたたずんでいた。どことなく三日月モモが飼っていたペット、ミッフィーに似ている。


「ポニョニョ~ン!」


 謎の生物が突如声を出した。驚く一同。


 「おいおいおい、鳴いてるよ」

 「ミッフィーとは違うな」

 「うん、確かに」

「ミフイ様知ってるの?」


 白い生き物がしゃべり始めた。


 「うわっ、しゃべった!」

 「おいおいおい、ミッフィーとはずいぶん違うな」


 白い生き物が安永を見ると、嬉しそうに飛び跳ねた。


「あ、ミフイ様こんばんは。お久しぶりです」

「お久しぶり?」


 首を傾げる安永。白い生き物が続けてしゃべる。


「人間にとりついているので、記憶がないんですね。僕、ポニョニョン。僕、ミフイ様についていきます」

 「ついていくって言われてもね」

 「いいんじゃないの。旅の友は多いほうがいいからさ」

 「いいんですか?」

 「いいよ」

 「じゃついてきていいって、ポニョニョン」

 「ありがとうございます!やったー!」


 新メンバー、ポニョニョンが飛び跳ねた。


 「ミッフィーがとりついていたんだ、ヤスケン… …」


 しげるがお腹をかかえて笑っていた。


 3月23日午前8時。謎の生物ポニョニョンが加わった旅の一行は民宿の食堂で朝食が出るのを待っていた。数分後、1人の老婆が朝食を運んできた。


「グスーヨー、うきーみそーちー。メンソーレうちなーへ」

「おはようございます」

「まーがらら来たぬやいびーんか?うちなーウーいちくろふらーりやいびーん。朝いちちやんどうぞ」

「あ、ああ、はい… …」


 ルギーが力ない返事をする。老婆が去った後、みんながひそひそ声で話し始めた。


 「今、なに話してたかわかったか?」

 「ありゃ、日本語かい?」

 「方言だろ、沖縄方言。噂以上にわからんな」

 「ポニョニョン、なんて言ってたかわかる?」

 「わからない」

 「え、なんでよ?沖縄出身だろ?」

 「ポニョニョン、沖縄出身じゃないよ」

 「じゃじゃじゃあ、どこの生き物さ?」

 「秘密」


しらばっくれるポニョニョン。


 「あ、また来た」


 老婆がまた食堂にやってきた。


「グスーヨー、メェーやまーさんやいびーんか?しちゅんなやっさーけかめーくぃみそーれーね」

「あ、はい… …」


 老婆の言っていることがまた分からず、適当に返事する一同であった。


 3月23日午前10時。民宿を出た一行は那覇空港に着いた。ルギーがホワイトボードに次の行き先を書いていた。10分後、行き先を書き終えたルギーはホワイトボードを一行に見せた。


 1.味噌カツ食いたい 名古屋

 2.やっぱり外せない 札幌

 3.ハウステンボス 長崎

 4.おらべこ買うだべ 東京

 5.もう十分 静岡

 6.うどんが食いたい 香川


 「次の行き先はこんな感じです」

 「この4はなんだよ?『おらべこ』ってなに?」


しげるがつっこむ。


 「いやいやいや、吉さんの歌だってば」

 「知らねぇよ、そんなの」


ルギーの知識は若者に通用しなかった。


 「味噌カツ食いたいな」


グルメ系な玉木。


 「俺は香川のうどんが食いたい」


安永はうどんが食べたいようだ。


 「ポニョニョン、ハウステンボスに行きたい」

 「じゃじゃじゃじゃあ、振るのは… …はい、リーダー」

 「おれ?」


 強引にサイコロを手渡されるしげる。


 「何が出るかな、何が出るかな?それはサイコロにまかせよ」


 ルギーの掛け声とともにしげるがサイコロを振る。そして出た目は、


 「3だ。ハウステンボス」

 「ポニョニョン、よかったね」

 「やったー!」


ポニョニョンが飛び跳ねる。


 「あっ!」

 「どうしたんですか、ルギーさん?」

 「この丸っこいのどうやって連れていくんだよ?!このままじゃ飛行機に乗せられないぞ」

 「どうするよ?バッグの中にでも入れてくか?」


 心配する4人を尻目にポニョニョンは喜びで飛び跳ねてた。安永が大きなバッグを持って、ポニョニョンに近づいた。


 「ポニョニョン、少しの間だけこの中に入って我慢してね」

 「いやだ、ポニョニョン、ミフイ様と一緒に飛行機に乗る!」

 「でも、このままじゃポニョニョン飛行機乗れないよ」

 「大丈夫、大丈夫。えい!」


 ポニョニョンが突如視界から消えた。あたりを見回す安永。すると小さな声が聞こえてきた。


 「ミフイ様、ここ、ここ」


 耳を澄ますと、どうやらシャツの胸ポケットのあたりから声が聞こえる。安永が胸ポケットを覗くと、小さくなったポニョニョンが入っていた。びっくりして腰を抜かす安永。


 「ええ!小さくなっちゃった!」


 他の3人も安永に近づき、胸ポケットに入った小さなポニョニョンの姿を見た。


 「よし、これなら大丈夫だな」

 「そうだな」

 「それじゃ、行こうか」


 3人が意気揚々と飛行機のゲートに向かう中、


 「ちょっと待って… …」


 腰を抜かした安永はまだ立ち上がれなかった。4人と一匹は那覇空港から飛行機で福岡空港まで行き、そこから地下鉄とJRでハウステンボス駅へ向かった。

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