イルカウォッチング

 3月22日朝8時。朝食を食べた後、宿から出た4人。熟睡したので、4人ともすっきりした顔になっていた。


 「みなさん、おはようございます」

 「おはようございます」

 「いい天気だし、今日はやっぱりアレでしょ」

 「そうだね、イルカだね」

 「ルギーさん、早く行きましょうよ、イルカウォッチング」


 玉木がルギーを見ると、ルギーがホワイトボードに何か書いていた。


 「おいおいおい、何書いてるの?」


オロオロしてるしげるに視線を合わせないルギー。


 「次行くよ」

 「なんで?」


しげるが肩をすくめる。


 「時間ないから」

 「時間はあるよ。行こうよ、イルカ」


玉木がイルカを見に行くよう促す。


 「とにかくダメだ」

 「お金ですか?」

 「そういうことじゃないよ」

 「じゃ、なんでダメなんですか?」


 安永の尋問に対し、ルギーは黙り込んでしまった。


 「じゃ、イルカ見に行こう」


 しげるはルギーからホワイトボードを取り上げ、素早く文字を消した。その隙に安永と玉木がルギーを抱えて行った。


 午前10時。4人は船に乗っていた。晴れた空に澄んだ海。素晴らしい景色を堪能しながら、安永は船首に立っていた。


 「いやー、いい眺めだな!」

 「お客さん、危ないですって」


操縦席にいる船員が安永に注意する。


 「あいつ、漁師の息子ですから」


しげるがフォローする。


 「そうですか。でも気を付けてくださいね」

 「はーい」


船員さんは安永の行動を注意するのを諦めた。


 「イルカが見れるポイントはあとどれくらいかかりますか?」

 「そうだな、あと10分くらいですかね?」

 「楽しみだな~」


玉木はイルカを見るのが楽しみで目を輝かせていた。


 安永、しげる、玉木の3人が盛り上がっている中、ルギーは一人船の中で具合が悪そうな顔をして寝そべっていた。


 「ルギーさん、大丈夫ですか?」

 「うう・・・。気持ち悪い・・・」

 「おーい、イルカ見つけたぞー!」

 「本当ですか?行きましょ、ルギーさん」


 安永がルギーを無理やり甲板へ連れだした。甲板に出て、海を見るとイルカの群れが飛び跳ねながら泳いでいた。


 「おお、すげー」

 「いやー、これ野生だよな。おれこんなにたくさんイルカ見るの初めてだよ」

 「ルギーさん、イルカですよ!あんなにたくさん、ほら、ほらっ!」

 「う、う、うげぇ」


 ルギーは船酔いで海に吐いてしまった。


 午後1時。イルカウォッチングを終えた一行は天草空港に集まっていた。船酔いから回復しきれていないルギーが青い顔をしながら、ホワイトボードに行き先を書いていた。数分後、ルギーは行き先を書き終えた。


「じゃ、次の行き先はこちら」

 ホワイトボードを見せるルギー。


 1.壇ノ浦の戦い 下関

 2.もう帰りたい 静岡

 3.もう一度観光 東京

 4.南の楽園 喜界島

 5.うどんが食いたい 香川

 6.北の国から 札幌


 「なんで、あぁたは6を書くの?」


呆れるしげる。


 「4の楽園は興味ありだね」

 「4はやめろ」


安永の興味をルギーが制する。


 「船だよ、たぶん。じゃなんで書くの?」


しげるはルギーの拒絶の理由を察したが、選択肢にあえて書くことにあきれ果てていた。


 「おれ、うどん食いたいな」

 「俺も食いたいね。狙いは5だね」


玉木と安永は香川でうどんが食べたそうだ。


 「次は誰が振る?」

 「ヤスケン、リーダーって振ったから、俺ですね」

 「じゃあ、玉木くんいってみよう」


 ルギーは玉木にサイコロを渡す。


 「何が出るかな、何が出るかな?それはサイコロにまかせよ」

 「5出ろ!」


 玉木が気合いを入れて、サイコロを放り投げる。そして、出た目は、


 「1か・・・。6じゃない分だけいいかな」

 「じゃ行こうか」


 4人は飛行機で博多まで行き、そこからJR鹿児島本線で下関に向かった。電車に乗っている間、安永と玉木が寝ているときにしげるがルギーに話しかけた。


 「もう、『ルギーさん』って呼ばなくていい?」

 「だめだ」

 「呼びにくいんだよ、ルギーって」

 「みんなは『ルギー』って普通に呼んでるけどな」

 「それは他の人でしょ。俺はあぁたの甥っ子なんだから。いままで『徹おじさん』って呼んでたし」

 「それだと、ヤスケンと玉木くんが混乱するだろ」

 「二人とも俺とあぁたの関係知ってるし、混乱しないよ」

 「それでもだめだ」

 「わかったよ。じゃじゃじゃじゃあ俺のこと『リーダー』って呼ぶのやめてよ」

 「いやだ」

 「なんでだよ?」

 「それだと、ヤスケンと玉木くんが混乱するだろ」

 「しないってば」

 「だって…… 『リーダー』…… プププ……」

 「このおっさん、面白がっているだけだ…… もういいよ」


 しげるはふてくされてそのまま眠ってしまった。ルギーは声を殺して笑っていた。

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