旅立ち

 3月20日。安永とモモは成田空港のロビーにあるソファに座っていた。


「もうすぐ出発だね」

「うん」

「荷物それだけでいいの?」

「ははは。他の荷物はもう別の便で送ってるよ」

「でも、よく大きなコロコロ転がす鞄みんな持ってんじゃん」

「キャリーバックのことね。それはもう飛行機に乗せたから」

「あ、そうなんだ」

「ウィーン着いたら手紙書くね」

「うん、ありがとう。向こうであまりお菓子食い過ぎないでね」

「何言ってんの?」

「え、俺なんか言った?」

「言ってたよ、食べすぎるなって」

「え、言ってないよ……」

「わかった、ミッフィーが言ったんだ」

「そ、そう……俺の中にいるミッフィーが言ったんだよ」

「ちょっと、なんで焦ってるの?ミッフィーじゃないでしょ、ヤスケンの失言でしょ」

「ごめんなさい」


 安永がモモに平謝りする。謝る安永に微笑むモモ。


「二人で盛り上がってるなよ」

「そうだよ、見送りに来てるのはヤスケンだけじゃないんだから」

「ごめん。見送りありがとう、リーダー、玉木」


 実は安永とモモの向かいのソファにはしげると玉木が座っていた。


「まさか、木琴が音楽の都ウィーンに行くとは」

「ちょっと『木琴』はもうやめてよ。玉木、東京の音大に行くんでしょ。学ぶ場所は違うけどお互いがんばろうね」

「ああ、4年後は俺のほうが有名なオーケストラの指揮者になってるから」

「あたしも負けないわよ」


 ガッツポーズをとるモモ。


「モモッチ、言葉とか大丈夫?英語じゃないみたいじゃん」

「そう、ドイツ語なんだけどね。大丈夫よ、住んでみたら何とかなるわよ」

「相変わらず、自信たっぷりだな」

「なるようにしかならないじゃない?まったくリーダーは心配症なんだから」

「あははは」

「で、ところで結婚はどうなったの?」

「え、結婚っ?!」

「卒業式の時、菊ちゃんと結婚するって言ってたじゃない?」

「あれは向こうが勝手に……」


 しげるがあたふたしていると、眼鏡をかけた長身の男性が4人の座っているソファにやってきた。


「モモちゃん、そろそろ時間だよ」

「わかりました、ルギーさん。リーダー、結婚の話はあとで聞くから」

「ほっ」


 胸をなでおろすしげる。


 5人は空港のゲートに向かう。モモが空港のゲートの中に入る。

 安永たち4人は手を振ってモモを見送る。


「モモッチ、がんばれよ~!」


 安永が声をかけると、モモは一瞬振り向き投げキッスをした。そして、モモは飛行機に乗り込んだ。

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