みどり屋

 卒業式のあと、しげる、モモ、安永と数人の友人が近くの駄菓子屋『さつき屋』に集まっていた。


「ヤスケン泣きすぎだよ」

「いつもクールだから、びっくりしちゃったよ」

「だって、感極まっちゃって……」


 照れ笑いをする安永。


「じゃ、みんな食べようよ。おばちゃん、牛串に大根」

「あいよ」


 しげるが注文をすると、駄菓子屋のおばちゃんが奥の厨房に入っていく。


「リーダー、なんでおでんの具を頼んでるの?」


 不思議な顔をしてしげるに質問をする安永。


「え、普通じゃない?」

「ここ駄菓子屋だよね」

「そうだよ」

「駄菓子屋におでんって……。北海道じゃなかったから」

「うそ?もしや静岡だけなの?」


 逆にびっくりする安永以外の面々。


「じゃあたし、黒はんぺんに大根に煮卵に牛串に……」

「モモッチ、相変わらず……」

「相変わらずって何よ、ヤスケン」

「いや、たくさん頼むから」

「あぁたの分も頼んでるんだよ。おばちゃん、あとトマトとバナナね」


 安永のほほを指でつまむモモ。


「ちょっと、お二人さんいちゃつくなよ」


 安永とモモのやり取りを茶化すしげる。すると、駄菓子屋に女生徒が走って入って来た。


「あ、ダーリン見っけ!」


 入って来たのは菊地萌子であった。


「あ、菊ちゃん」

「卒業おめでとうございます、安永先輩、モモッチ先輩」


 すると菊ちゃんはしげるの隣に座り、しげるの腕を抱きしめた。


「あれあれ?どういうこと?」


 モモがしげるを茶化す。照れるしげる。


「あたしたち、結婚するんです」

「ええ?!」


 菊ちゃんの結婚宣言にびっくりする一同。


「ちょっと、結婚って。あぁたまだ高校生じゃない。俺、結婚なんて聞いてないし」

「ダーリン、女性は16から結婚できるのよ。3月11日、あたしの誕生日だから役所に届出しに行くよ」

「ちょっと待って。その話は後でゆっくり話そうよ、菊ちゃん」

「『菊ちゃん』?『ハニー』でしょ、ダーリン」

「……ハニー」


 二人のやり取りを見てにやりと笑う一面。

 十数分後、駄菓子屋のおばちゃんがおでんを運んできて、みんなでおでんを食べる。


「ヤスケン、はい、あーん」

「あーんってこれもしや……」

「そうよ、バナナ。はい、食べて」

「え……あーん」


 安永が恐る恐るバナナのおでんを食べた。


「うまくない……」


「ほら、あっちのカップルに負けないわよ。ダーリン、あーん」


 菊ちゃんが対抗意識を燃やして、しげるにおでんを食べさせる。


「あーん。……って熱っ!」


 悶えるしげるにみんなが笑う。


 1時間後、おでんを食べて駄菓子屋『さつき屋』を出る一同。


「どうだった、ヤスケン?」

「うんうまかったよ、モモッチ。まさか駄菓子屋でおいしいおでんが食べられるなんて思わなかったよ。あっ」

「何?」

「なんで『1週間に10日来い』なんだろう?」


 看板を指差す安永。


「そういえば、なんでだ?」


 一同首をかしげる。

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