卒業式

 体育館では卒業生だけでなく、その父母そして在校生十数人も集まっていた。

 ステージのすぐ下には3年生の担任が並んでいた。3―Dの担任、越ひかりの顔が緊張でこわばっているのが遠くから見てもわかった。


「ひかり先生、緊張してるね」

「うんうん、俺らの名前読み上げるとき声が裏返りそうだな」

「そういうこと言うなよ。俺のときに裏返ったら、俺のほうが恥ずかしいよ」


 卒業生たちがひそひそと話をしていると、その姿を見つけたひかり先生がぎらりと睨みつけた。

 その視線に生徒たちは怯み、おとなしくなった。司会の教師がマイクの前に立った。


「これから、静岡県立釜揚高等学校の卒業式を始めます。一同起立、礼!」


 卒業式の出席者が一同に礼をした。


「校歌斉唱」


 続いて放送で流れる伴奏に合わせ、校歌を斉唱する。校歌を歌う最中に泣く生徒がいた。


「う……う……」

「これで涙を拭きなよ、ヤスケン」


 モモからハンカチを渡され涙をぬぐう安永。


 続いて卒業証書授与。担任が卒業生の名前を読み上げると、卒業生が檀上にあがり、校長から卒業証書を受け取る。

 3―Dの順番になった。ひかり先生が卒業生の名前を読み上げる。


「城ヶ崎リーダー……じゃなくて、城ヶ崎しげる!」

「はい」


 しげるは多少照れながら、壇上にあがった。鈴井校長がしげるに卒業証書を渡す。


「おめでとう、リーダー」

「あ、ありがとうございます」


 少しため息をついたあと卒業証書を受け取るしげる。


「三日月モモ!」

「はい!」


 モモは元気よく返事をして壇上にあがる。鈴井校長がモモに卒業証書を渡す。


「おめでとう、モモちゃん」

「ありがとうございます!」


 元気良く卒業証書をうけとるモモ。


「安永拳!」

「ぶぁい」


 安永は泣きながら壇上にあがる。鈴井校長が安永に卒業証書を渡す。


「おめでとう、安永くん」

「あ、ありがとうございましゅる……」


 安永は鼻をすすりながら卒業証書をうけとった。

 続いて在校生による送辞。生徒会長らしき人物がマイクの前に立つ。


「卒業生の皆様、卒業おめでとうございます」


 送辞が始まった途端、陽気なサンバの音楽が流れてきた。

 すると、体育館の入り口から大きな羽を背中につけビキニを着た集団が音楽に合わせ踊りながら現れた。

 騒然となる体育館。集団がステージの前まで進み、踊りが激しくなる。

 集団をよく見ると、ビキニを着て踊っているのは男子であった。そして、集団の中心は、


「リオ!オーレッ!」

 一番激しく踊っている鈴井校長であった。爆笑に包まれる体育館。

 激しい踊りが終わり、鈴井校長が「卒業オーレ!」を叫ぶと、体育館は大きな拍手に包まれた。


 えらく盛り上がった送辞に続いて、卒業生の答辞。無難な答辞を述べたため、卒業生からブーイングが起こった。

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