傷ついた二人

 一方、体育館では体操部が練習していた。この日はしげるも大学ではなくこっちで練習していた。

 練習のあと、体操部の部員たちはマネージャーの江戸サキから義理チョコをもらった。

 部室で部員たちがしげるに言い寄ってきた。


「リーダー。今年はいくつもらったんですか?」

「え、まだ二個だよ。大学で義理1個、いま江戸さんから義理で1個」

「あれれ?インターハイの英雄なのに?」

「おいおい、インターハイに出たからって、モテるってわけじゃないでしょ」

「いやいや、これからっしょ。今日たくさんもらえますって」

「そうか?」


 まんざらでもない顔をするしげる。


『少なくとも、エージェントフジか桜小路さんからもらえるかな?』


 そんなことに期待するしげるであった。


 しげるが部室を出ると、合気道部の藤すみれを見つけた。

 しげるが声をかけようとすると、藤さんの隣に男子がいて二人は手をつなぎ合っている。

 二人を申し訳なさそうに立ち去ろうとするしげるを発見する藤さん。


「先輩、城ヶ崎先輩!」

「あ、エージエントフジ」

「ちょっと、もう『エージェントフジ』って呼ぶのやめてくださいよ。で、今日はこっちで練習ですか?」

「ああ。ところで隣の人は?」

「ああ、ごめんなさい。カレです。ヨリ戻したんです」

「どうも、お久しぶりです城ヶ崎先輩。避難訓練のときの敵役です」

「ああ、あのときの。ヨリ戻んたんだ。おめでとう、お幸せに」

「ありがとうございます、先輩」


 二人は幸せそうにしげるの前を去って行った。


「そっか……」


 残念そうに肩を落とすしげる。


 しばらく歩いていると、校舎の玄関から桜小路舞が現れた。声をかけるしげる。


「桜小路さん」

「あ、城ヶ崎先輩」


 行儀よくお辞儀をする舞。


「今日はこっちで練習だったのですか?」

「うん。で桜小路さんも部活?」

「はい。あ、そうだ」


 慌ててかばんから包みを出す舞。


「これ、ヴァレンタインチョコです。どうぞ」

「ありがとう、桜小路さん」


 しげるはチョコを受け取った瞬間、自然と笑みがこぼれた。

 すると、男子が一人玄関から現れた。


「おお、ぐっさん」

「お、リーダー」


 現れたのはしげるの親友、山口であった。


「ぐっさん、今日はどうした?受験中だろ?」

「ああ、でも今日は試験ないから。ちょっと用事があってね」

「そうか、受験がんばれよ」

「推薦が決まると言葉が軽いなぁ。でも、ありがとう。頑張るよ。じゃあな。舞、帰ろう」

「はい」


 山口と舞が一緒に帰ろうとする姿にびっくりするしげる。


「え、ぐっさん……桜小路さん?」

「ああ、言ってなかったっけ?カノジョ。避難訓練の時はありがとうね。それじゃ」

「それでは、また」


 二人は仲よく手をつなぎながら帰って行った。呆然とするしげる。


 しょげながら、しげるが歩いていると、右側から誰かが走ってきた。


 ドッシーン!


 二人はぶつかってしまった。倒れこむ二人……。


「あいたたた……。君は」


 しげるが立ちあがって見た人物はサッカー部のマネージャー、菊地萌子だった。

 顔をあげた菊ちゃんは涙で目が真っ赤になっていた。


「うわー!!」


 菊ちゃんが泣きながら、しげるに抱きついてきた。


「え?えっ?」


 しげるはただただ戸惑うばかりであった。

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