苦いチョコ

 2月14日。釜揚高校のグランドではサッカー部が練習を行っていた。

 1、2年生に混じって、安永拳が一緒に練習していた。


「ヘイ、こっち」


 安永の声に応じて、高く上がったボールが安永に向かってきた。そのボールを頭でゴールへ押し込む。


「ナイシュッ、安永先輩!」


 部員たちが喜ぶ。安永も一緒に喜んでいた。


 練習の後ミーティングをして、普段はそのまま部室に戻るサッカー部員たちであるが、

 今日に限って戻ろうとしない。部員たちの視線はマネージャーの菊ちゃんに向けられていた。

 視線に気づいた菊ちゃんは焦る。


「み、みんな何よ?」

「菊ちゃん、今日は何の日だか知ってる?」

「ん、なに?」

「ちょっとちょっとちょっと、今日は2月14日だよ」

「うん、それが?」

「それがって、わかってるんでしょ?2月14日といえば、ヴァレンタインデーだって!

 で、用意してくれたんでしょ?」

「何を……?」

「何をって、チョコだよ。チ・ヨ・コ・レート」

「あ、忘れた」

「えー!」


 一斉に肩を落とすサッカー部一同。


「しようがないよ。みんな帰ろうぜ」


 安永が部員たちの肩を叩いて慰める。部員たちが部室に帰るところ、安永のジャージが誰かが引っ張った。

 安永が振り向くと、菊ちゃんが。


「なに、菊ちゃん?」

「安永先輩、このあとお話があるんですけど、いいですか」

「いいよ」


 二人は人気のないところへ移動した。すると、菊ちゃんがポケットから包みを取り出して、安永に差し出した。


「菊ちゃん、これは……」

「安永先輩、好きです!受け取ってください!」

「ありがとう。でも、俺……」

「知ってます。安永先輩が他の人を好きだってこと。でも、あたし自分の気持ちにウソつけないから……。

 諦めるなら、自分の気持ち伝えてからにしようと思って。好きじゃなくてもいいですから、受け取ってください!」

「うん。ごめんね、菊ちゃん」


 安永がチョコの入った袋を受け取ると、菊ちゃんは急いで走り去った。

 安永は中のチョコを食べてみる。いつもより苦みが強い気がした。

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