初デート

自習

 1月10日。釜揚高校の3学期の授業初日だ。

 藤田のりは職員室で一人気合いを入れていた。その姿を見た越ひかりがのりに声をかける。


「おはよう、のり先生。すごく気合い入っているじゃない」

「おはようございます、ひかり先生。やはり授業初日ですからね。最初が肝心ですよ」

「そうね。最初がしっかりしないと後がだれちゃうからね。でも、気負いしすぎないでよ」

「はい。じゃ、そろそろ授業始まりますので、いってきますね」


 のり先生が連絡用のホワイトボードに何かを書いたあと、教科書を持って職員室を出た。

 のり先生が職員室を出た後、ひかり先生はホワイトボードを見て、思わず笑ってしまった。


「ちょっと待って……。『のり、はいりまーす』って。どこに行ったか書けってんの」


 3―Dの教室では、生徒たちが各自自習していた。

 3年生になると、大学受験を控えているので3学期はほとんど自習になっているのだ。

 三日月モモは机の上に辞書を置きながらノートにいろいろ書いていた。

 安永拳は何か本を読んでいたが、飽きてしまいモモに声をかけた。


「モモッチ、英語の勉強?英語得意じゃなかったっけ?」

「ううん、これはドイツ語よ。向こうはドイツ語が公用語だから、今から少しでも身につけないと」

「ほほー、さすが」

「で、ヤスケンは何読んでいたの?」

「ああ、料理の入門書。包丁の使い方とか『さしすせそ』とか」

「さしすせそ?」

「調味料のことなんだけど、えっと上から砂糖・塩・酢・センブリ・ソース」

「なんか、違うような……。もう一回本見たら?」

「わかった。……あ、砂糖・塩・酢・醤油・味噌だ。でもなんで『せ』が醤油なんだろう?」

「うーん、それは謎ね」


 安永がモモに近づいて小声で話し始めた。


「ねぇ、今度さ行きたい所があるんだけど、一緒に行かない?」

「ん、いいけど。でもこれってもしかしてデート?」


 モモがいたずらっぽく言うと、安永が顔を赤らめた。


「え?ん、まあ……そうとも言えるけど……。じゃ今度の土曜日ね」

「うん。あ、先生が来た」


 安永は急いで席に戻った。

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