城ヶ崎家のお正月

 城ヶ崎しげるの家では、家族だけでなく親戚も集まり、正月から宴会のように盛り上がっていた。


「リーダー、栗きんとんとかまぼこと佃煮とって」

「アキト姉さん、なんで俺にいうの?おやじのほうが近いじゃん。おやじに言ってよ」

「いいのよ、あぁたはパシリなんだからさっさと取りなさいよ」

「しげる、女性には優しくしなきゃだめだぞ」

「おやじまで……。わかったよ、とりますよ」

「ありがとう、リーダー。あ、あと黒豆もね」

「はいはい」


 しげるは渋々おせちの具をとり、いとこのアキトに渡した。すると、玄関のチャイムが鳴った。


「しげちゃん、ちょっと出てくれない?」

「わかった、母さん」


 しげるが玄関の扉を開けると、若い男女が立っていた。ルギーとあすか先生だ。


「おお、しげる。久しぶりだな」

「久しぶり、おじさん」

「あれ、リーダー?」

「あすか先生、明けましておめでとうございます。先生の旦那さんっておじさんだったんですね」

「うん。でもリーダーがこの人の甥っことはねぇ」

「俺もびっくりしましたよ。まさかあすか先生の旦那さんがおじさんだったなんて」

「そうね。じゃ、本年もよろしくお願いします」

「よろしくお願いします。じゃ、上がってください」

「はーい」


 ルギーがさっさと家に入っていく。


「ルギー、靴くらいちゃんと揃えていきなさいよ!」


 あすか先生は脱ぎ捨てられたルギーの靴を揃えてから家に上がった。


 ルギーたちが来て、しばらく経ってからまた玄関のチャイムが鳴った。


「しげちゃん、ちょっと出てくれない?」

「わかった、母さん」


 しげるが玄関の扉を開けると、若い男女が立っていた。ルギーと安永拳の叔母ナンシーだ。


「おお、しげる。久しぶりだな」

「久しぶり、おじさん」

「明けましておめでとうございます、リーダー君。今年もよろしくね」

「よろしくお願いします、ナンシーさん。今年は酔って俺にキスしたりしないでくださいよ」

「ふふふ、あのときはごめんね。もうしないから大丈夫だぁよ」

「気を付けてくださいよ、ナンシー姉さん」

「うるさい!」


 ナンシーがルギーに蹴りを入れる。ルギーとナンシーが家に上がる。


 親戚一同が集まった居間であすか先生、ナンシーそして「二人のルギー」が居合わせた。


「え?ルギーが二人?」

「あれ、ルギーとルギーが?」


 あすか先生とナンシーは困惑している。


「貴之、お前来てたんだ」


 ナンシーの隣にいるルギーが言う。


「おいっす、徹」


 あすか先生の隣にいるルギーが言う。


「ちょっと、あぁたたち、ちゃんと説明しなさいよ!」


 ナンシーが怒った。


「じゃじゃじゃあ、ここは俺が説明しますから」


 しげるがナンシーをなだめる。


「まず、あすか先生の旦那さんの名前は『戸塚 貴之』さん。

 ナンシーさんのツレの名前は『戸塚 徹』さん。

 同じ顔なのは二人が双子だから。ていうか、なんで二人とも『ルギー』なの?」


 しげるが逆に二人に質問した。


「もともと俺がウィーンに留学していたときのあだ名さ」


 徹が答えた。


「そのあだ名が面白いから、俺は勝手に使ってる。めったに徹に会わないから、大丈夫だと思って」


 貴之が答える。


「ていうか、あぁたなんで貴之君が使うのを止めないのよ」

「そうよ」


 ナンシーとあすか先生が徹に言い寄る。


「いや……面白そうだから」


 徹の回答に二人はうなだれた。


「もう、面倒くさいな。じゃ、貴之くん、君は今日から『ギルー』と名乗りなさい!」


 ナンシーが強引に貴之のあだ名を変えた。


「それ、センスなさすぎ……」


 徹がぼやいた。


「『ギルー』なんて、いや。だったら、『タック』がいい!」


 あすか先生がさらに変えた。


「『タック』いいね。それに決定!」


 ナンシーが賛同した。


「ありきたりだな……」


 貴之がぼやく。


「もう決定だから。いいね、『タック』!」

「はい」


 あすか先生が念を押した。


「じゃ、ひと段落したところで、みんなで初詣に行こう!」

「行こう行こう」


 しげるたちは近所の神社へ初詣に向かった。

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