決断

 22:00。静かになった公民館でモモは一人疲れた様子で座っていた。すると、安永が大きな袋を抱えて帰って来た。


「ただいま。買ってきたよ、クンタッキーのパーティバレルとクリスマスケーキ」

「おかえりヤスケン、ありがとう」

「じゃ、食べようか」


 安永とモモは二人っきりでパーティバレルとクリスマスケーキを食べ始めた。ものすごい勢いで食べるモモ。


「モモッチ、すごい勢いだね」

「だって、お腹すいたんだもん。あれだけ料理作ってみんな食べられちゃうんだもん。悔しいったらありゃしない」

「荒々しい男たちだからね。食欲はすごいからね」

「食欲じゃあたしも負けないよ。去年のクリスマスはパーティバレルとクリスマスケーキ一人で食べたもん」

「この量を一人で……」


 安永の顔が少し引きつった。


「ところでさ、ヤスケンすごいよね。あの味大路様に声をかけられるなんて」

「うん、びっくりしたよ。いきなり『うちで修業してみないか?』って」

「本当、野菜切るの下手なのにね」

「それを言うなよ。練習積めばうまくなるって」


 安永が少し口を尖らせる。


「で、どうするの?」

「どうするって、いきなりの話だからさ。もう少し考えさせてくれよ。あ、ところでそっちはどうすんだよ、留学」

「ああ、行くことにしたよ、ウィーン」

「そう」

「うん、この2週間洋ちゃんの手伝いしてて、指揮者も性に合うかなって思っちゃったりして」

「確かにモモッチの指揮は素晴らしかったよ」

「ありがと。でも、ウィーンに行っちゃうんだよ。さみしくない?」

「会えなくなるのはさみしいけどさ。でも一生懸命に音楽してるモモッチがす……」

「何?」

「なんでもないよ。あ、口元に生クリームがついてるよ」


 安永はごまかすようにモモの口もとの生クリームを取ろうと手を伸ばす。


「え?手なの?」

「はい?」

「この前は……手じゃなかったじゃない」


 モモは安永の手をつかむ。


「この前って?」

「ごまかさないで。もうわかってるくせに。ね、この前みたいに取って」


 モモが目を閉じる。一瞬の沈黙のあと、安永がモモに顔を近づける。

 二人の唇が重なった瞬間、公民館の扉が開く音がした。


「安永先輩、こんばんはー!って……」


 現れたのは菊地萌子だった。


「いやー、不潔―!」


 あまりにも衝撃的な場面を菊ちゃんは走り去ってしまった。


「菊ちゃん!」


 安永の叫びが静かな公民館の中に響き渡った。

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