ずんだケーキの味

 安永拳が学校から帰ろうと学校の玄関で靴を履き替えると、菊地萌子が現れた。


「ヤスケン先輩」

「お、菊ちゃん、何?」

「誕生日おめでとうございます!」

「ありがとう」


 菊ちゃんは安永に箱を渡すと、全速力で走り去って行った。


「あ……」


 おもむろに箱をあけると、中には不格好なずんだケーキが入っていた。


「お、ずんだケーキだ」


 その場でケーキを食べる安永。


「うまいぞ、このずんだ」


 ケーキの味を絶賛する安永。


 安永はずんだケーキを食べた後、歩いて駅に向かおうとすると駅の改札口の前で三日月モモを見つけた。

 モモはなぜかうつむき加減である。


「モモッチ」

「あ、ヤスケン」

「どうしたの?」

「ううん、別に……」


 少しの沈黙の後、モモが口を開いた。


「今日誕生日だよね?」

「うん、そうだけど」

「おめでと」

「あ、ありがとう」

「……ホントはさ、プレゼント用意してたんだ」

「プレゼント?」

「うん……ずんだケーキ」

「で、そのケーキは?」

「……食べちゃった」


 モモが小さな声で言った。

「はい?」

「食べちゃったの!だって、おいしそうだったし、

 夕方でちょっとお腹すいちゃったから、ついさ……」


 下を向いてしまうモモ。


「ふーん」


 モモを見て唇のあたりに緑色の物体を発見した安永は不意にモモの顔に極限まで近づいた。

 1秒後、安永は顔を離し、自分の上唇をなめた。


「うん、たしかにずんだだな」


 モモの顔が思いっきり赤くなる。


「バカ、バカ、バカ!安永のバカ!」


 安永の胸にめがけ何度も殴るモモ。

 安永がモモに対して何かを言ったようだが、興奮してモモの耳には届かなかった。

 モモが安永を殴り終えたとき、


「じゃ帰ろうか、モモッチ」

「……はい」


 二人は恥ずかしそうに手をつなぎながら、駅のホームの中に入って行った。

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