茶室

 11月25日。城ヶ崎しげるは茶道部の茶室で正座していた。

 しげるの正面には桜小路舞がいる。舞がお茶を立てている。出来あがったお茶を差し出す舞。


「どうぞ、城ヶ崎先輩」

「どうも。これってなんか茶碗をどっちかに回さなきゃいけないんでしょ?」

「ふふふ、いいですよやらなくても。そのまま飲んでください」

「じゃ、いただきます」


 ずずずっと音を立ててお茶を飲むしげる。その姿を見て口に手を立てて微笑む舞。


「え?なんかまずいことした?」

「ふふふ、本当は音立てちゃいけなんですけどね」

「あ、そうなんだ。ごめんなさい」

「いいですよ」


 照れるしげる。


「では、お菓子でも」


 次に差し出されたのは意外にもロールケーキであった。


「普通、和菓子が出るんじゃなかったっけ?」

「通常はそうなんですけど、近くでおいしいロールケーキ見つけたので、今日は特別に」

「そう、じゃいただきます。うん、おいしい。初めて食べる味だな。なんか枝豆っぽい」

「枝豆でつくった『ずんだあん』が入っているんですよ」

「『ずんだあん』か。あ、この前ヤスケンが好物だって言ってたな。うん、おいしいよ」

「ありがとうございます」


 楽しいお茶会が終わり、茶室を出るしげると舞。


「今日はありがとうございました、お茶会に付き合ってくださって」

「こちらこそ、ありがとう。こんなの初めてだったから、ちょっと緊張しちゃったけどね」

「それでは、失礼します」

「じゃ、またね」


 舞が階段の前でしげるにお辞儀をした瞬間、よろめいた。


「危ない!」


 しげるがとっさに階段に走り出す。舞を抱え、階段を転がり落ちるしげる。


「うぎゃー!」


 階段下で叫ぶしげる。


「先輩?先輩、大丈夫ですか?」


 うずくまるしげるの隣でおろおろする舞であった。

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