初日の練習

 午前中は荷物の整理で終わり、練習は午後からになった。吹奏楽部の面々は音楽室で各パートで楽曲の練習をしている。一方、体育館の横では、男たちが集まっていた。その中には安永もいた。すると、男たちの前に麦わら帽子をかぶった男があらわれた。


「校長、なんで来たんですか?」


 男たちは不思議に校長をみた。


「今日から君たちカラーバトン隊の特別コーチをします、鈴井です。ビシバシ鍛えるから覚悟しとけよ!」

「校長、カラーバトンしたことあるんですか?」

「旗持ちだろ?これでも、高校のころは応援団で旗持ってたんだぞ!任しとけ!」


『いや、それ違うし……』


 一気に不安になる男たち。


「よし、今から腹筋1000回!始め!」

「ええ?!」


 男たちの熱い合宿が始まった。



 15:00。男たちはいまだに腹筋を続けていた。そこへ一台のバンがやってきた。バンから初老の男が降りてきた。


「おーい、拳ちゃん!がんばってるな!」

「ロビンソン!なんで来たの?」


 初老の男は港の定食屋「ロビンソン亭」の店主ロビンソンだった。


「いやー、新商品を開発してさ。みんなに試してもらおうと」


 すると、ロビンソンがクーラーボックスからなにか茶色いものをとりだした。たい焼きのようであるが、一つはサイズが大きすぎて、一つはサイズが小さすぎる。


「釜揚新名物『マグロ焼き』に『シラス焼き』だ。食べてみて」

「じゃあ、おひとつ」


 安永がマグロ焼きを手に取り口にした。


「お、結構うまい。みんな食べようぜ」


 男たちはマグロ焼きとシラス焼きをほおばる。


「お、甘くてうまい」

「このマグロ焼き、あんの中にイチゴが入っている。意外とイケる」

「シラス焼き、ちっちゃいけどあんが結構入っていてうまい」


 マグロ焼きとシラス焼きは男たちに好評だった。そこへ鈴井校長がやってきた。


「おい、お前らなにやってんだ!」

「校長、これ結構うまいですよ、どうです?」

「校長たしか『甘いもの』が好きでしたよね」


 生徒のひとりが不敵な笑みを浮かべる。


「え……まあ……」


 鈴井校長の顔が一瞬曇った。


「校長、マグロ焼きなんかどうです?」


 安永が校長にマグロ焼きを差し出した。


「うん……、甘いね」


 マグロ焼きを食べる鈴井校長の表情がおかしい。その様子を見た安永以外の男たちがほほ笑んでいる。


「うわっ、なにこれ?!」


 マグロ焼きを半分くらい食べた時点で、校長が叫んだ。中に緑色のものが見える。


「ああ、それは『ずんだ』だよ。小豆が足りなくなったから、枝豆でずんだあんを作って混ぜてみたんだよ」


 ロビンソンが得意気に答える。


「うん……うん……甘い……」


 校長が苦しそうに食べている。そして、なんとかマグロ焼きを食べきった。


「校長先生どうでした、マグロ焼きは?」


 ロビンソンが校長に感想を求めた。


「うん……おいしかったですよ」


 生徒たちの手前、校長はこう答えるしかなかった。


「本当ですか?ありがとうございます!」


 ロビンソンは喜んだ顔をして帰って行った。


「じゃあ、今日の練習はここまで」


 校長が突如練習の終了を宣言した。


「お疲れ様でした!」


 男たちは喜んだ。一人安永だけなぜ練習が終わったのかわからず不思議な顔をしている。

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