合宿開始

 8月4日月曜日。釜揚高校の校舎には多くの生徒が集まっていた。どの生徒も大きな荷物を持っている。どうやら今日から合宿のようだ。


「みんな、集まったか?」


 吹奏楽部の指揮者、玉木浩が点呼をかける。


「すみません、モモ先輩がまだ来てません」


 田勢が答えた。


「おいおい、木琴さん遅刻かよ」


 玉木が悪態をつく。

 5分後、モモがようやく校舎にあらわれた。大きな荷物に加え、丸っこい生き物を持っている。


「ごめんごめん、準備がおくれちゃって」


 謝るモモ。


「モモ、なにこれ?かわいい!」


 女子部員たちがモモのもってきた生き物に興味を示した。


「ちょっと、木琴。その生き物はなんだ?」


 玉木が不満な顔をして聞く。


「これ、あたしんちのペット。親が旅行に出かけちゃって、学校で預かれないかと思って。おとなしいから大丈夫だと思うけど」

「おとなしいおとなしくないの問題じゃないだろう?学校にペット持ってくるなんて先生が認めないだろう。一応、あすか先生に聞いてみな」

「うん、わかった」


「失礼します」


 モモが保健室に入ると、校医のあすか先生がいた。


「あすか先生、実は相談したいことがあって」

「なに?」


 あすか先生はモモがもっているペットを見た瞬間、一目散に駆け寄った。


「マロン!また会えた!うれしい!」

「先生……。この子『ミッフィー』っていうんですけど」


 モモは少しひいた。


「はっ!」


 あすか先生は冷静さを取り戻す。


「で、相談っていうのは合宿中そのミッフィーちゃんをここで預かってほしいってこと?」

「はい、その通りです。よろしいでしょうか?」

「いいわよ」

「本当ですか?ありがとうございます!」


 喜ぶモモ。


「じゃ、あたし世話しておくから、早く練習にいきなさい」

「はい、わかりました。ミッフィー、あすか先生のいうことよく聞くのよ」


 モモはミッフィーを置いて、保健室を出た。


「よろしくね、ミッフィーちゃん」


 ほほえむあすか先生、少しおびえるミッフィー。

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