前半

 10:00、キックオフの笛が鳴った。


「さあ、始まりました、インターハイ県予選リーグ最終戦、釜揚高校対高台高校。釜揚高校は勝たないと決勝トーナメントに行けない大事な試合になりました。実況はわたくし放送部の平川、解説はスポーツ観戦同好会の松本でお送りします。松本さんよろしくお願いします」

「よろしくおねがいします」


「我が釜揚高校は現在のところ、一勝一敗。この試合勝たないと決勝トーナメントに進出できない状況にありますが、戦況はいかがでしょう松本さん」

「そーですねぇ。対戦相手の高台高校は前回ベスト4まで勝ちあがった強豪ですから、苦戦することは間違いないでしょう。釜高はカウンター狙いの戦術でしょうね」

「松本さんのご指摘の通り、本日釜高のフォーメーションは4-2-3-1の布陣です。それで、今日の注目選手、キーマンは誰になりますか、松本さん?」


「そーですねぇ。やはり、フォワードの安永くんじゃないでしょうか。彼はいま一番調子がいいじゃないでしょうか?彼の得点力に期待大です」

「安永くんは初戦は1得点、2戦目はハットトリックと2試合で計4得点と抜群の得点力を持っています。今日も安永くんのゴールが見られるのでしょうか?要チェックです」


 序盤は一進一退の攻防をしていたが、前半も20分ほど経過した頃になると釜揚高校は攻め込まれるシーンが多くなる。そして、前半ロスタイム、釜揚高校サイドで審判の笛が鳴った。


「おおっと、ここでディフェンダーの戸部くん、残念なファウルです。ペナルティーエリアのわずか外。高台高校フリーキックのチャンスです。なにやってんの、戸部?」

「釜高、ここはしっかり守ってもらいたいものですね。高台キッカーの藤村選手は『セットプレーの魔神』の異名をもつフリーキックの名手ですから」

「左斜め45度からの絶好の位置。直接ゴールを狙うか、藤村選手?前半もロスタイム、このプレーが前半最後になると思います。運命のセットプレーです!」


 審判の笛が鳴ると、助走をつけた高台高校の藤村が勢いよく蹴りだす……と思いきや、なんと空振りをして後ろの選手がゴール前にパスを出した。あわてる釜高イレブン。乱れたディフェンスの隙を突き、高台高校の選手が豪快なミドルシュートを放った。


「ゴォール!前半ロスタイム、高台高校、嬉野選手のミドルシュートが釜高ゴールネットを揺らした。痛い、とても痛い失点です、釜高イレブン!」

「これは意外な展開でしたね。藤村選手が直接シュートを打つかと思ったのですが、まさかあんなプレーをするとは。釜高は不意をつかれましたね」

「おおっと。ここで前半終了の笛がなりました。釜揚高校対高台高校、前半終わって0-1。釜揚高校にとっては苦しい展開となりました」


 ロスタイムでの失点に意気消沈したのか、重い足取りでベンチに戻る釜高イレブン。


「ヤスケン…」


 モモが応援席から安永を呼んだが、安永は気づかずそのままロッカールームに入った。

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