後半

 15分後、ハーフタイムを終えた両校の選手がグランドに戻ってきた。そして後半のキックオフの笛がなった。


「むむっ!釜高のキックオフで始まりました後半です。得点は0―1。釜高としてはどんどん攻めていくしかない!いや、攻めて行くしかないんです!いけ、釜高ジャパン!」

「ひ、平川さん、あまり興奮しないで……」


 平川の興奮した実況に解説の松本は引いた。


 前半の得点で勢いづく高台高校は後半に入っても攻勢を緩めず、釜高は防戦一方である。しかし、後半15分。


「来たー!ボランチの音橋くん、ナイスインターセプト!高台のパスミスを見事に奪いました。そして音橋くん、そのままドリブルで一人、二人かわし、そして逆サイドに蹴りだした!んーが、誰もいない!」


 誰もいないと思われた右サイドに人影が現れた。


「なんと、俊足のサイドハーフ長泉くん、このサイドチェンジに反応していた!そしてライン際をドリブルで駆け上がっていく!これはカウンターのチャンスです、釜高ジャパン!」


 ドリブルで相手陣内にあがっていった長泉はコーナー付近でゴール前へボールを蹴った。ゴール前で待ち構えているのはフォワードの安永。安永は高くジャンプし、センタリングされたボールに合わせて、ヘディングシュートを放った。


「ゴォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーール!ゴォールゴォールゴォールゴォールゴォールゴォールゴォールゴォールゴォールゴォールゴォール、ゴォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーール!後半16分、ついに、ついに同点に追いつきました釜高ジャパン!決めたのは、もちろん『釜揚港のストライカー』安永拳!見事なヘディングシュート。クーッ、かっこいいぜ、ヤスケン!」

「絶妙なカウンター攻撃でしたね。音橋くんのインターセプト、長泉くんのオーバーラップ、そして安永くんのヘディング、どれもすばらしいプレーです」

「同点に追いつきました、釜高ジャパン。このまま逆転だ!」

「平川さん、前半とずいぶんキャラ変わってきてますね……」


 同点に追いついた釜高イレブンは勢いを取り戻し、このあとは両校共に一進一退の攻防になっていった。そして、後半もロスタイムに突入し、音橋からのパスを受けた安永はドリブルで相手ペナルティーエリア内に突入した。が、相手ディフェンダーの妨害で倒された。そのとき、審判の笛が鳴った。


「むむっ!PKです!釜高、ペナルティーキックのチャンスを得ました!高台イレブンが審判に抗議していますが、これは覆らないでしょう。肩を叩き合う、釜高ジャパン。これを決めれば勝利は間違いない!勝利に近づいた、釜高ジャパン!」

「PKは8割方キッカーに有利といいますからね。これは大きなチャンスですよ」


 釜高側のキッカーは安永。緊張の一瞬。審判の合図の笛と共に、安永は右足を振りぬいた。


 数秒後、審判が試合終了の笛を鳴らした。勝負が決まった瞬間、ある者は喜び、ある者は泣き崩れる。


 安永は……ゴール前で呆然と立っていた。


「試合終了!結果は1―1の同点。安永のシュートは無情にもクロスバーの上。ボールも決勝トーナメントも空のかなたへ飛んでいったぁー」

「残念でした。安永くん、あせってふかしてしまいましたね」

「サッカー部、決勝トーナメント進出ならず!残念な結果となりました。釜揚高校対高台高校、1―1の同点の結果、釜高決勝トーナメントに進出できませんでした。釜揚グランドでおこなわれたインターハイ県予選リーグ最終戦、釜揚高校対高台高校、解説は松本さん、実況は平川でお送りしました。松本さん、どうもありがとうございました」

「ありがとうございました」

「では、また」


 試合が終わって1時間後、モモはミッフィーと共にグランドの外で安永を待っていた。釜高イレブンが次々とグランドから出て行くが、安永の姿が見当たらない。モモが外からロビーを見ると、椅子に座り込んでいる安永を発見した。安永の側にはペットボトルを持ったマネージャーの菊ちゃんこと菊地萌子がいた。次の瞬間、安永がいきなり菊ちゃんに抱きついた。菊ちゃんが思わず、ペットボトルを落とす。外でその光景を見てしまったモモはミッフィーを抱えて、急いでその場を去った。

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