第四怪 月夜に咲く緋の華

序幕

 しとしとと、雨が降り続く夜だった。

 男は縁側に腰掛け、手にした朱塗りの杯に注がれた酒を煽る。喉を焼く熱い感触に、男は心地良さげに目を細めた。


「本当は月を見ながら煽るのが一番だが、雨を肴にというのも、それはそれで風情がある。そうは思わないか?」


 言いながら、男は部屋の中につい、と視線を移す。そこには一人の女が、仰向けに横たわっていた。


「ああ、でも」


 杯を置き、男は傍らの刀を手に取った。行灯の仄かな明かりに照らされて、刀身が淡く輝く。


「月明かりに照らされたお前は、何よりも美しい。きっと神や仏ですらも、嫉妬の炎に身を焦がすであろうよ」


 刀身の内側に、照らし出される室内。そこは血と臓腑に塗れた、現世の地獄と化していた。


「早く、最も美しいお前を見たいものだな――


 男の言葉に応えるように。刀がほんの一瞬、妖しい輝きを湛えた。

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