第二十四幕 有り得ぬ契り

「……父上。今何と?」


 今し方聞いた事が信じられず、涼一は呆然と父に問い返した。


「今言った通りだ、涼一。夕の子は流れ、夕もまた、出産に耐え切れず死んだ」

「そんな……そんな馬鹿な」


 涼一の脳裏を、嫁に行く日の、姉の姿が駆け巡る。姉はあの時、あんなにも、あんなにも幸せそうだったと言うのに。


「何かの……何かの間違いだと言って下さい、父上! 姉上が、姉上がどうして、そんな……!」

「……何故お前がそんなにも動揺する、涼一」

「え?」


 取り乱す涼一を、父は胡乱な目で見つめる。その理由が解らず、涼一は猛然と反論した。


「当然でしょう! 自分の姉上の事なのですよ!」

「本当にそれだけか?」

「……父上、それはどういう……」


 しかし父の胡乱な目は、ますます激しくなるばかりで。流石の涼一も、何かがおかしいと漸く気付き始めた。


「ずっと、疑問に思っていた。何故お前は、いつまでも妻を迎える事をしないのかと」

「それは……私が未だ未熟者であるからで……」

「夕の子は、奇形児だったという」


 父の言葉に、涼一は息を飲む。奇形児……つまり、まともな体の子ではなかったという事だ。


「血の近い者同士で子を為すと、子は奇形になる。そんな話を聞いた事はないか」

「父上……まさか」

「夕の子の父親は辰之進殿ではなく、お前だったのではないか。加山家は、そう言ってきている」

「馬鹿な!」


 言われのない嫌疑に、涼一は思わず身を乗り出した。あまりにも荒唐無稽だ、そう思ったが、目の前の父はそうは思ってはいないようだった。


「私が姉上と通じていたと!? そのような話を、父上はお信じになられるのですか!?」

「無論、疑いたくはない。だが……お前の夕へのこだわりは、あまりに度が強すぎるのも事実」

「そんな……!」


 実の父ですら、自分と姉の潔白を完全には信じてくれないのか。その事実に、涼一は目眩を覚えた。

 確かに涼一は姉を好いている。しかしそれはどこまでも、肉親への愛情の域を逸脱するものではない。

 だが父ですらも信じきれぬものを、一体誰が信じると言うのだろう。現に加山家も、こうして疑いをかけているではないか。


「父上、私は姉上と通じてなどいません! 信じて下さい!」

「……」


 それでも、涼一に出来る事は。愚直に、そう叫び続ける事だけだった。



 父が涼一と夕の不貞の責任を取り腹を切ったのは、その三日後の事だった。

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