第十七幕 再会

「おめら……おらをだましたな……よくも、よくも……!」


 大男の血走った目に、殺気と狂気が満ちていく。それを涼一と全の二人は、冷静な眼差しで見つめていた。


「どうだ、こいつ、記憶にあるか?」

「御座いませんね。このように目立つ者、客として来ていれば、忘れる訳がありますまい」

「となりゃあ、どこで太田屋ウチの匂いを知ったか……おい糞野郎、太田屋ウチにせつってのがいると手前テメェに教えたのは誰だ?」

「っ、全様!」


 答えの代わりに拳を振り上げる大男に、涼一が咄嗟に全を突き飛ばし、覆い被さる。空を切った拳は地面に叩き付けられ、その衝撃で辺り一面に大きな土煙が舞った。


「おらとせつ・・のじゃまをするやつはころす……ごろずううううう!!」

「この者に最早言葉は通じず……後は私にお任せ下さい!」

「……チッ、やむを得ねえか……!」


 素早く全を助け起こし、涼一は全にこの場を離れるよう促す。全はそれに素直に頷き、着物の裾を掴むと急ぎその場を離れていった。


「にがすかあああああ!!」

「貴様の相手は私だ、下郎!」


 その行く手を阻み、涼一が袈裟掛けに刀を振るう。しかし大男は俊敏な動作で、その一撃をかわした。


「何っ!?」

「きこえる……きこえるうぅぅ……おめら、せつ・・をしってるな。にがさねぇ……にがさねぇ……!」


 大男はにたりと凶悪な笑みを浮かべると、涼一の頭へと手を伸ばした。それを涼一は、後方に引いてかわそうと試みる。


「!!」


 しかしまるでそれを読んでいたかのように、大男の手は涼一を追うように更に伸びた。そして易々と、涼一の頭を鷲掴みにして持ち上げる。


「ぐがっ……!」

「どこだ……せつ・・は、どこだあぁぁ……!!」


 みしみしと、頭蓋が軋む音がする。腕を引き剥がそうと暴れはするが、大男の手の力が緩む事はない。

 やがて力の抜けた涼一の手から、刀がするりと滑り落ちる。ここまでかと、涼一が観念したその時。


「――たろ・・!」


 場に、響く筈のない声がした。瞬間、僅かに力の緩んだ隙を突いて、涼一は拘束からの脱出に成功する。


「っつ……助かった……が、今の声は……!」


 涼一は即座に辺りを見回す。見えたのは、結った長い髪を振り乱し走る遊女の姿。


「……せつ・・……?」


 大男が、呆然と名を呼ぶ。そう、それはまさしく――。


 ――今最もここに居てはならない女性、小雪だった。

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